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第6話  愛子  その2

いつも読んでいただいてありがとうございます。



それでは、、はじまり、、、はじまり、、、


”尚美”


私は気を取り直し彼女の診察を始めた。


うしろでは結城が渋沢先生に愛子ちゃんと私達の出会いについて説明していた。


けがをしていた所は包帯がされており、膿んでいるのか黄色いシミができていた。汗くさいほど発汗が激しく熱も39度はあるようだ。


後ろからやさしく聴診器が差し出された。振り向くと上杉医師がこれを使ってくれという顔をして私に手渡した。


私は頭を下げてそれを借りて胸に聴診器をあてると呼吸音を確認した。すると異常な音が聞こえた。まずい炎症を起こしているようだ。脈を計ると120以上だ 心臓にも負担が出始めている、破傷風ではこのような症状はでない。


私は立ち上がり上杉医師に聴診器を返すと、渋沢のおじ様にはっきりと病名を言った。


「愛子さんは敗血症です。今すぐ治療を開始しなければ明日の朝までもちません。」


二人は驚いた顔をして私を見つめていたが、上杉医師が真剣な顔で聞いてきた。


「敗血症とはどのような病なのか私に教えていただけないでしょうか。」


そうだ私は思い出した。この時代まだ敗血症という病気は一般的に知られてなかった。敗血症は第一次世界大戦で負傷した兵士が手当を受けた後も発熱が続き多臓器炎症で亡くなり、その経験から名称されたものだ。この治療薬は1942年まで待たなければならない、それはぺニシリンとよばれ世界ではじめての抗生物質だった。これによって第二次世界大戦では多くの兵士の命が助かった。


私はおじ様と上杉医師に向かって簡単に病気の説明をした。


「愛子ちゃんは破傷風ではありません、敗血症という病気です。これは傷口からとても強いばい菌が血管の中に入って体のいろいろな臓器が炎症を起こし最後には亡くなってしまうという怖い病気です。抗生物質という薬で治療する事ができますが、それがうちの医院にはあります。すぐに愛子ちゃんを連れて治療をしなければなりません!」


 ”上杉医師”


私はすぐに五条尚美という女性が言っている事を理解した。破傷風の多くの症状は神経に作用してけいれんやこわばり、呼吸障害がでる。このようにまれに発熱や肺炎のような症状がでてすぐ亡くなる患者もいたがひとくくりにされていた。以前から私も同じ病で症状が違うのか、気になっていたがそれを全く別の病気、今まで聞いたことのない病名”敗血症”と診断したのだ。


そうなんだ、これはやはり別の病気なのか、そう考えれば納得がいった。しかし新しい病名を言い切ったこの女性は何者なんだ、、


「渋沢先生、私達の家はここから急げば20分くらいです。人力車で愛子さんを連れていけばすぐ治療ができます。」


「姉さんが愛子さんに付き添っていっしょにくればいいよ。俺はこれから急いで医院にいって診察室の準備をしているから」と結城が言ってくれた。


姉の尚美君から病気の説明を受け儂は彼女がいってることは理解した。

「わかった、すぐに人力車を用意するちょっとまててくれ」


「その間に愛子ちゃんの体の汗を拭いてあげて清潔にしてもらえますか。それと着替えもお願いします。」


すぐに女中さんと年配のご婦人が呼ばれ暖かいお湯を、たらいにいれてやってきて体をふいて寝間着と下着を着替えさせていた。


男性陣が部屋をでて玄関に向かおうとしたら、上杉医師が私もお手伝いしたいので同行させてほしいと頼み込んできた。


渋沢先生は俺の顔を見てだまっていた。


俺は上杉先生に言った。

「これから行く先で見たことや聞いたことは絶対誰にも話してはいけません。 約束してもらいますか?」


私は意味がわからなかったが真剣な表情で言われた為

「約束する、、誰にもその事は話さない、約束する。」

私はそう答えた。


「わかりました。私は先に行って準備をするので姉達と一緒に人力車できてください。」

そう言って俺はネクタイをとり上着を脱いで右手に持ち急いで医院にむかった。


医院に着くともう夕方4時近くになっていた。急いで部屋の電気を付けて暖房のスイッチをいれた。さすが大容量ホーム蓄電池、余裕で電気を供給してくれている。


俺はよく親父の手伝いをしていたので、どのような段取りか分かっていた。急いで、倉庫から心電図モニターと処置用の小型無影灯をガラガラとキャスターを転がし部屋に運び、リネン棚からシーツとマクラ、毛布と薄い掛け布団を取り出して点滴室のベットをメーキングした。そのあと器械カート転がし滅菌機材棚から輸液セット、膿盆、滅菌済ビーカーなどのせて運び、診察室の脇にある血液検査の機器の電源を立ち上げた。最後に医薬品や傷の処置に必要な材料が入ったエマジェンシーカートを処置室のベッドの脇に運んだ。


そうこうしていると外で人の声がしたので出てみると、上杉先生が愛子ちゃんをおんぶして姉と渋沢先生がいっしょにやってきた。


すぐに処置室の電動ベッドに寝かせ包帯を巻いていた腕を処置用ワゴンに乗せた。



 ”尚美”


私は医院につくと上杉先生、渋沢のおじ様にこれからする事について最後までだまって見ていてください処置が終わりましたらご説明します。と二人にそう言って、グッタリしている愛子ちゃんには腕の傷から処置しますねと伝え、包帯を解いてゴミ箱に捨てた。


傷口は膿で汚れ臭っていた。私と結城は医療用マスクをしてアルコールで自分達の手指を消毒し処置用手袋をした。


私は愛子ちゃんの右腕がのっているワゴンの前にあるイスに座り、無影灯の明かりの中、消毒液がついた綿球を攝子でつかみ傷口周辺に塗り付け脇にある膿盆にすてた。


痛み止めの薬液が入ったバイエル瓶から注射器で適量吸い取り、傷のまわり数か所に注射した。


そして傷口の腫れている場所にメスの刃を入れたら膿がタラ~とでてきた。その間、結城は250ccの生理食塩水が入っているバックのゴムキャップの口に、抗生物質が入ったバイエルからこれも適量吸い取った注射器の針を差し込んで中に注入した。そしてそれを何度も攪拌すると300ccのステンレスビーカーにキャップをはずしドバドバ~と流し込んだ。


それを針のない50ccの注射器で吸い取ると私に渡してきた、そして結城は愛子ちゃんの腕を上手に持ち上げると下にでかい膿盆を差し入れた。



私はその抗生物質がはいった生理食塩水で傷口を勢いよく洗い出した、ビーカーが空になるまで何度も注射器で吸い上げては洗った。


すっかりきれいになったキズ口に、抗菌剤が添付されたガーゼドレッシングを貼り付け処置を終わらせた。


そして愛子ちゃんを立たせると隣にあるベッドに寝かせた。


ペニシリン系の抗生物質が入った点滴剤と5%ブドウ糖液の輸液剤2つを点滴台にぶら下げた。そして先が二股になった点滴のラインの太いプラスチック針を

それぞれバックのキャップに差し込み、ラインの先は点滴台のハンガーに引っ掛けた。


愛子ちゃんの左腕の静脈を指先で確認すると24ゲージの静脈留置針を刺して点滴のラインを確保したら引っ掛けていたラインの先端と繋いだ。クレンメのローラーでチャンバーにポタ、ポタ落ちる量を時計を見ながら調整して

その混合薬液を愛子ちゃんの血管に流し込んだ。


その間に結城がポータブルレントゲンとそれにケーブルでつながったノートPCをワゴンで持って来てくれた。


それはハンディタイプのレントゲン撮影装置で本体は3kg位それを両手で持って私は愛子ちゃんの胸にかぶさる様にして上から撮影して本体を結城に渡した。


結城はなれた手つきでその画像データーをPCに取り込んだ。


そして結城が愛子ちゃんの胸にベッドサイドモニターの電極をつけ腕に血圧計のカフ、指先にパルスオキシメータのセンサーを取り付けた。そして赤外線の体温計を額にむけポッチと計測したら39.2度だった。 


私はその間に腕から血液を少しシリンジで採取してそれをもって血液検査装置に流し込んだ。4~5分でデータがビ~といって印刷されて出て来た。


検査室からもどると結城が愛子ちゃんにスポーツドリンクをコップで少しずつ飲ませていた。


”まじ、できるやつ!!”と私は結城を見直していた。


そして救急カートから鎮痛解熱剤を2錠取り出し、愛子ちゃんに持っていきスポーツドリンクといっしょに服用させた。


愛子ちゃんは体が水分を欲していたのか、薬と一緒にゴクゴクとスポーツドリンクを飲み干した。そしてゆっくりと目をつむり眠りはじめた。


一段落した私と結城は愛子ちゃんのベットのカーテンをシャーと引いて目隠をして、ノートPCを持って近くで立っている二人を待合室に連れていきソファーに座らせた、結城が近くにある自販機から暖かいペットボトルのお茶を買って二人に渡してあげた。


飲み方がわからないようなので結城がスクリューキャップを開けてあげた。


暖かい飲み物が訳の分からない容器に入ってきたので、ふたりはびっくりしていたが中身がお茶と分かりそれをゆっくり飲みはじめた。




そして私は愛子ちゃんに施した治療行為について二人に説明をはじめた。








つづく、、、、、




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