第59話 尚美と結城 乃木大将と会う
1904年8月
旅順要塞攻略、第三軍司令本部
司令官乃木大将
大連において満州軍総参謀長の児玉と協議して旅順ロシア要塞の攻略について協議してきた。総司令部は第三軍が早急に北上して主力と合流してほしいと言ってきて八月の二十日前後に要塞への攻撃を開始し八月末までに攻略を完了するよう要請があった。
私は旅順を中心に周囲25㎞の距離をもつ半円の山や地形を利用してべトンで固めた数十の堡塁陣地を自分の目で見てきた。
絶望で絶句してしまった。おそらく簡単には落ちないだろう、、
旅順要塞を落とすには攻城兵器が必要だ、、でかい大砲、、そうだあるじゃないか、あの28センチ榴弾砲が、それがあれば落とせる。手配するか、、
ところが参謀長の伊地知は要塞の状況偵察を部下にまかせて自分では視察に行こうともしないなまけものだ!、体調が悪いと言い訳して作戦室にこもりっきりだった、、、部下のあいまいな敵状報告をうのみにして大和魂の肉弾突撃で要塞を攻略できると豪語してしまった。
こいつは嫌いだ!、、なんだこいつ、、私のほうが偉いんだよ、、いつも、いつも、、私より先によけない事ばっかりしゃべって、、こいつ自分の立場知ってんのかよ参謀長が一度口にだせば下の階級の士官は何も言えないだろう、先に士官達の考えを聞いてから策をたてろよ、、いつも、いつも、大和魂だのサムライだのいつの時代だよ、、、
私は気が弱くて、、参謀本部からきた情報部の要塞の防御が”日清戦争の時の旧式野塁に多少の散兵壕を増築せるのみ、永久築城なし”はでたらめだ~、と言えなかった。
結局この参謀長の伊地知の余計な発言で満州軍総参謀長の児玉は安心して帰っていった。
参謀長 伊地知 幸介
ケッ、、本当にうちの大将は何考えているのやら、、戦争は勢いだよ、、こいつダメだね全く覇気がねえ~し、、はっきりしろよ、、この旅順港占領はもう海軍の下請け仕事じゃね~んだよ、、しっかり正面からケンカをしてロシア軍を壊滅させなきゃいけねーのさ、、兵士が何人死のうが消耗品だよ、、
歩兵の肉弾突撃が、塹壕を突破できる唯一の方法だからな、、こいつは兵士の命を気に過ぎだぜ、黙ってみていろや、俺に任せておけよ、、、必ず、、何人犠牲になろが攻略してやるぜ。
まったく性格がかみ合わないでたらめな参謀本部だった、、、、
1904年8月
救護班の本部駐屯場所
軍医医学校、高橋勝次校長
「サリバン先生~、、お疲れ様で~す、早く着きましたね、、」
尚美
「あ~、ほんと疲れたわ、、道はひどくて、、治安も悪くてさ、、大変だったわよ~、、」
勝次校長
「どうぞ、、こちらのテントで食事がとれますよ、、夕飯はまだですよね、、あっ、、弟さんですよね、サリバン先生から聞いております、、エッ、お名前は、結城さん、、私はいつもお姉さんにお世話になっている。、、高橋勝次です、、よろしくお願いします、、どうぞ、、こちらで休んでください、」
救護班の大型テントで食事をとる結城と尚美そこで給仕をしてお茶を持ってくる青年医師がいた。
尚美
「あれ、、あなたは、、ハハハハ、なんでここにいるのよ、、阿部勝之助君」
阿部軍医
「ひどいですね~、、もう卒業しているんですよ、軍医として第三軍に所属していますよ サリバン先生もお元気ですよね、、あの時、先生から教えてもらった血液型がものすごく役に立ちました、、この前の南山の戦いで、たくさんの兵士が輸血することで命が助かりましたよ、、先生の指導のおかげです」
尚美
「なんか照れるわね、、あなた達が優秀だから助けられたのよ、、私のせいじゃないわよ、、これからも頑張りなさい、、」
阿部軍医
「それと、ひとつ、聞いていただきたい事があります、、」
尚美
「な~に、、」
阿部軍医
「南山の戦いで第一師団の衛生兵5名が、戦闘も終了しているのにロシア兵2名から狙撃されて死亡しました、、あれはわざと狙ってです、、それに気が付いたこちらの兵士が威嚇射撃をしたら逃げていきましたが絶対に許せません、武器を持たない衛生兵を狙って射撃するとは、、サリバン先生あいつらに抗議してきてください。お願いします、、」
尚美
「そう、、そんな事があったの、、許せない、、わかったわ、、私に任せてちょうだい、、」
阿部軍医
「はい、、ありがとうございます、、今日はゆっくりお休みください、、失礼します、、」
こうして俺と姉さんは無事に旅順宿営地に着きその日は、ゆっくり休んだ。
次の日、、俺と姉さんは他の軍医の皆さんに挨拶をして、第三軍の参謀本部に勝次校長と挨拶にいった。
第三軍司令部
伊地知参謀長
「おなごの医者だって、、、ハハハッハ、、バカ言ってんじゃね~よ、、おなごがこんな男の戦場に来るもんじゃねえ~よ、、後方の大連の街で看護婦でもやってろよ、、」
尚美
”こいつだ、、伊地知てめ~のせいでどれだけの兵隊が死んだことか、、まあ夢の中では1回はりつけで殺してしまったからな、またこいつを殺すことは現実にはできないかザンネン!、”
尚美は口を出す事もできずにただ睨んでいた、そのとき勝次校長がフォローしてくれた。
「そのお言葉を返すようで申し訳ないですが、、このサリバン先生は英国で勉強してきた医師で大変優秀です、、きっとここでも多くの兵士の命を助けてお役に立つと思います、」
「フン、、まあ、、じゃまにならないように仕事をしな!、、」
そう言うと伊地知は立ち上がり外にでていった。
そのあと司令官乃木大将のテントを訪れた
乃木司令官
「あなたがサリバン先生ですか、聞いておりますよ、、あの衛生兵の制度、あなたが教育したそうじゃないですか、、あれは素晴らしい後方任務の兵士があれで馬鹿にされずに済んだ。
負傷した兵士も喜んでいましたよ、、すぐに来てくれて痛み止めの注射で苦しまなくて済んだと言っておりました、、兵士にかわり感謝いたします。」
尚美
”ギャ~、、なになに夢では鼻水垂らしたボケじじ~だったのに、、こんな立派な紳士じゃない、、あの伊地知と大違い、、やばい、やばい、サイン帳、車に置いてきちゃった~”
「そんな、、感謝されるような事はしておりませんわ、、フフフ、、衛生兵のほうが立派です、、彼らをほめてやって下さい、、フフフ」
乃木司令官
「となりは、、五条商会の結城社長、、もしかしてあの防弾チョッキとヘルメットを開発したのは結城社長ですか、えっ、サリバン先生の弟さんですか、そうですか、、
あの防弾プレートはすごい、、見ましたよ私の長男もあれで命が救われた、ありがとうございます、親として御礼を言わせてもらいます、
ヘルメットもすごいですね~、、敵の空中で爆発する榴弾の破片を見事にはじいたそうですよ、、士官から報告があがっていました。
私の第三軍だけが装備しているとか、、他の司令官からもこっちにも回せと評判になっております、、私から軍の正規装備品としてこの戦いが終わったら推薦させてもらいますね。」
「後は、何かご要望はありますか、、」
尚美
”私は、昨日聞いた南山での戦いで衛生兵が5名ロシア兵から撃たれて戦死した事で閣下にお願いをした。”
「あの~、、戦闘が始まる前にロシア軍の代表と会ってジュネーブ協約における赤十字を付けた、衛生兵への攻撃をしないように申し入れにいきたいんですが、、」
乃木司令官
「そうですか、、、わかりました。、ちょうど参謀副長大庭中佐と関係者がもうすぐしたら降伏勧告のための特使として出ますので、護衛の兵をつけますから同行して向こうの代表者と話してください、、」
そういうと乃木司令官は参謀副長の大庭中佐を呼び我々を紹介して同行させてもらうことになった。
そうして俺と姉さんがこの一行に同行することにして、勝次校長は救護班に戻った。
結城
しばらくして参謀副長の大庭中佐の一行と俺達は白旗を掲げてロシア軍の前哨陣地に近づき用件を話した。、、そこでしばらく待つとドミトリーと言う士官がやってきて俺達を近くの指令所らしきところに案内してくれた。我々の下士官は外で待つように言われ俺と姉さんそれに大庭中佐と通訳の士官4人で部屋に待たされた。
脇には銃を持ったロシア兵が二人我々を監視していた。
そこで着席してまっていると、、ドアが開きとても目つきが鋭い覇気が感じられる将校が副官を連れてやってきた。
名前はロマン・コンドラチェンコ少将と言ったここの軍司令ステッセリ中将の副官だそうだ、、とても強そうな白熊に見えた。
大庭中佐は”旅順要塞はすでに日本軍に包囲されており奉天のロシア軍主力部隊と切り離されてここで抵抗することは無駄な犠牲がでるだけだ”
そう言って降伏をすすめると、、、
白熊は笑いながら、、”日本人こそ要塞攻略を諦めて国に帰れ、お前たちがどれだけここで屍をさらすか、、それは決断したお前たちの責任だからな、フフフ、、ロシア人を恨むんじゃないぜ”
”あちゃちゃちゃ~、、白熊の勝ち!~”と思わず言いそうになった。
こうして降伏勧告を断られると大庭中佐は姉さんの顔を見た、、
姉さんはジュネーブ協約における赤十字を付けた衛生兵への攻撃をしないよう通訳を通して申し入れをした。
白熊は了解してくれて全軍に知らせると言ってくれた。
ただ姉さんは南山での戦いで日本軍の衛生兵を狙撃する兵士がいる話をしたら白熊はロシア軍にはそのような卑怯な兵士はいない、、もしそのような兵士がいたら私が撃ち殺す。
とはっきり言ってくれた、、、実に立派な白熊だと思い、、俺達一行は司令部にもどった。
尚美
夕方近く結城はマーク少佐と合流して外人観戦武官の宿営地に行ってしまったよ、、きっとこれからうまいもんでも食べるんだろうな~
私も誘われたけど、、例の南山の戦いで衛生兵が撃たれた第一師団の救護所へ事情を聞きに原付自転車を走らせた、、、
”なにこれ、、ひどい道、、こんな草木もないような、殺風景な場所で殺し合いなんかしなくてもいいのに~、、、”
あれ~、、な~に、兵隊どうしでケンカしているの、もうやだ~、、もうすぐ第一師団の救護所なのに、、、
知らんぷりして行こう、、見なかった事にしよう、、これが大人女子の常識、 フ~ン♫~^^~♪~フンラ~ラ♪~と鼻歌をしながら無視をした尚美
そんな通り過ぎようとした原付自転車の後方から、、、
「姐~さん?、、、、なんでここに?、、姐~さん、、お~~い、、尚美姐さんだろ~、、お~~い、、俺だよ~、、、」
”はて?、、はてはて?、、聞いた声が、、まさか!、、”
つづく、、、、