第5話 愛子 その1
いつも読んでいただいてありがとうございます。
それでは、、はじまり、、、はじまり、、、
”渋沢栄一”
儂は五条と名乗る兄弟から、昨日の経緯を黙って聞いていた。彼が話すには2025年の未来彼らはこの町で生活をしており、母親は2020年に病気でなくなり、父親も少し前に同じように病気で亡くしたという事である。
そして遺骨を母親が眠っている墓に納骨をして自宅に戻ってきて父親の遺品を整理していたら突然天候が激変し、まばゆいばかりの稲妻によって気を失い、気がついたら現在の時代にやってきたという。
とっても信じられない話であるが、彼らの真剣な眼差しを見てると何かが起きたという事は感じられた。
さらに2025年からきた証拠をみせると言い出した。まだ半信半疑だったが、目の前で兄弟がそろって黒いガラス板をとりだし手にもって、男装している姉が妙に熱っぽい顔をして儂に説明してきた。
話しを聞くとそれは電話でコードがなくても相手につながるといっていて、子どもから年寄りまで一人1台持っているといっている。
この時代、長者番付けのそれも上位にいる金持ちとか大事な公共機関でしか使えないものを女中見習いの幸子のような年齢からじいさん、ばあさんまでもっているという事か、そして外国にいってもつながるとは、そんな薄いガラス板のカラクリがどうなっているのか顔をよせて見ていた。
その時、尚美という姉は人差し指で操作していきなり色のついた写真を見せて来た。そこには儂も知っている浅草寺や雷門に彼らと亡くなった両親という人物が写っていた。指を横にずらすと次々に色のついた儂の知っているところが写り、皇居のまわりには見たこともないようなりっぱな高層ビルが建っておった。儂はまちがいなくこの時代ではなく遠い未来を感じさせる風景のものだと確信した。
驚いて声もだせない儂に、この兄は最後だと言ってガラス板を親指でなれたように押すと、儂が姉から説明を聞いている様子が活動写真のように写り、わしの声まで再現して見せた。それだけでなく2本の指を広げると儂の顔が大きくなり狭めると元に戻った。
儂は心臓がバクバクして頭が真っ白になり椅子にもたれた。腕を組み目をつむり昔を思い出していた。
26歳の時、幕臣となって徳川昭武様の随員としてパリ万博を視察してヨーロッパ各国を訪問した時に欧州の文明があまりにもすごくて驚きこれからの日本もこんな文明国にしてやると心がワクワクとときめいた。
あの時から34年でもうやりたいことはすべてやった、お国の為にがんばってきた。そして今は60歳となりこれから何かに熱くなるという事はもうないかと思っていた。
それが今、目の前に未来から来たと言ってる若者がいる。それも助けてほしいと自分に頼ってきたのである。その未来の圧倒的技術を見せつけられ儂は34年前のように心臓がワクワクしてたまらない、
この兄弟と一緒にいればもっとたまげるような事がみられると思った。これからの人生なにがおきるのかドキドキして楽しくなってきて笑いがとまらなくなってしまった。そして儂は立ち上がり彼らと握手した。
「儂はなにをすればいいんだ。何でもいってくれ!」
”結城”
俺は昨夜、姉と打ち合わせした一番大事なお願いから話した。
「ありがとうございます。先生に最初にお願いしたいことは、私たちが未来から来た事は他のひとには絶対に秘密にして下さい。」
「このような事が日本中に広まってしまうと大変な事になってしまいます。」
「それは大丈夫だ、儂はこんな面白い事はだれにも言わない。約束する」
「それと先ほど話しましたが、私達の自宅と医院が敷地ごとこちらの時代にやって来ました、あのあたりの土地を所有している地主さんと問題になる前に土地を借りるか、購入するかしたいのですが。」
「わかった、すぐに君達の自宅と医院の場所を確認させてもらえばそこの地主と話をつけてやる。」
「それと最後に、私達の戸籍がこの時代にありません。身分や身元を証明できる書類がつくれないでしょうか。」
「なんだ、そんな事は簡単じゃ役場のほうに儂から使いをだして書類をもらってきてやる。必要な事をかかなきゃいかんが外国から帰ってきたという事で適当につじつまが合うような事を書いとけ、あとで役場の偉いやつに儂から届けてやる。」
先生は楽しそうに俺達の話に乗ってくれた。
その時姉が突然話に入ってきた。
「渋沢のおじ様、私からもひとつお願いしたい事があるんですが。」
「お~なんじゃ、なんじゃ」
”やばい歴女尚美すっかり気に入られたじゃないか!”
「実は亡くなった父が生前自慢するように慕っていた人物でがいるですが名前は正岡子規、俳人です。今はおそらく労咳を患っていてご家族と東京の根岸に住んでいるはずです。その方の所在を知りたいのですが。」
「なに、そんな労咳といえばもう死病ではないか、もう先は長くないんじゃないのか?そんな輩に面会したいのか」
「はい、生前の父には親孝行らしきことができずに先立たれてしまいましたが、その父が慕っていた人物がどのような人なのか会ってみたいのです。」
姉さんが昨日そんなことを調べていたとは思わなかった。
「よし、わかったそれも人を出して調べてやろう。」
(正岡子規は俳句、短歌、小説、随筆など多方面にわたり創作活動を行い、日本の近代文学に多大な影響を及ぼした、明治を代表する文学者の一人である。この時32歳(1902年9月34歳没))
「それより、お前らはこれからいったい何をしていきたいのじゃ、」
渋沢先生が俺も仲間にいれろという感じでニヤニヤしながら聞いてきた。
俺と姉が昨日考えていた計画のことを聞いてきた。そしてバックから資料をだそうとした時、、
突然、応接室のドアがノックされて少し年配のご婦人が今にも泣きそうな顔で覗き込み、先生を廊下に呼んだ。しばらくすると先生が戻ってきて、「五条君、悪いんだが少し急用ができたんじゃが、この続きはまた2~3日日後にまた訪ねてきてくれないか。それと先ほどの地主の件については、君達の自宅の場所をさっき玄関であった書生に伝えてくれないか。」
そう言って先生は白衣をきた人物と誰かの病気の話をはじめた。俺はバックをもってその脇を通り過ぎようとした時、姉が渋沢先生に声をかけた。
「どなたか、ご病気なんですか?」
先生は白衣の人物から姉の方に向き直り
「実は娘が昨日の夕方から熱をだしてて様子を見ていたんだが、先ほどこちらにいる東京の本郷からきていただいた先生から、診察したら破傷風だから明日一番で東京の病院に入院した方がいいと言っているのだが、」
その時姉のスイッチが切り替わった。
「娘さんを私に診察させてくだい!」
渋沢先生は、本郷からきている医師の顔をみた。そして少し考えてから二人を紹介した。
「上杉先生、こちらは儂の知り合いで五条尚美君と弟の結城君じゃ、二人は儂が支援して外国でいろいろと勉強してきて、先日日本に帰国したばかりなんじゃ二人にも診てもらっていいじゃろうか?」
”上杉先生”
「外国で勉強してきたのでしたらぜひ一緒に診察してください、私の見立ては正直いって少しひっかかる事がありましてそれがなんなのか分からないんですよ。」
”尚美”
40代くらいのすこし日焼けしている上杉医師が物腰の柔らかい態度で私にそう言ってきた。この時代てっきり「女のくせになまいきなことを言うな!」とか言われると思い身構えてしまったが以外だったわ。
そして4人でお嬢さんのお部屋に向かった。
部屋に入ると強い膿の臭いがした。
ベットにはハァハァ、ハァハァ肩で息をしている娘さんがいた。
これはまずいと思い、すかさずベッドのそばに近づいて症状の判断をしようと思ったら、そこに寝ていたのは昨日この世界で初めて私達と口をきいてくれた愛子ちゃんだった。
「愛子ちゃん?愛子ちゃんでしょ、」
薄目を開けた愛子ちゃんは今にも消えそうな声で
「お姉さま 、尚美お姉さまですか?」
愛子の右手には昨日私があげたハンカチが、、、、お守りのようにしっかり握られていた。
つづく、、、、