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第149話 ガリポリの戦いその3


ダーダネルス海峡側にあるエジェアハトの街、そこの連隊本部ではエーゲ海側の各沿岸守備隊との定期の電話連絡がこなくて朝から大騒ぎになっていた。そこへブナカマ村近くの海岸を守備していた第14大隊の伝令兵が、脇腹に銃撃を受けて真っ赤に出血しながらも、バイクにしがみつき連隊本部にたどりついたのである。


本部建物の出入り口に立っていた兵士が、彼に肩を貸して連隊司令官のレフェト・ベレ大佐のもとへ連れていくと、大佐は腹部が血まみれの伝令兵を見て


「大丈夫か! いったい何が起きたんだ~!」


「うっ、、大佐、、敵です、、連合国の上陸です、、サーリフ・ボゾク少佐から至急、、増援を、あと、ブナカマ村も、敵兵で、、いっぱいです、、そ、、そこで、撃たれました。」


そう言うのが精一杯の伝令兵は、出血でその場で気を失ってしまい


「すぐに、この勇敢な兵士を軍医にみせるんだ!、急げ~」と連れてきた兵士に指示するレフェト・ベレ大佐


そばいた副官のベレン・サート中佐に顔を向けて

「すぐに、ここにいる連隊を引き連れて海岸に向かってくれ、どこから来たかわからないが、ブナカマ村の敵兵も掃討して海岸へ向かうんだ!」 


「それと、他の守備隊にもブナカマ村と海岸に至急に向かうよう伝令を出してくれ!」


「私は、キリトバヒル要塞の師団司令部にこの事を知らせにいってくる。」


こうして日本軍とANZAC軍の上陸作戦がオスマン軍に知れ渡っていった。




海岸へと向かう上陸用舟艇、そこには輸送船「アデレード」に乗ってこの戦場へやってきた牧場をやっているライト家の三男アレクシス・ライトと幼なじみで同じ町の雑貨屋の次男坊のキム・スコットが日本軍から支給された、少し古い皿型のブロディ・ヘルメットの顎バンドをしっかり止めて、英国製のリー・エンフィールド小銃を両手にしっかりと握り、30人程の仲間の小隊と上下に波で揺れながら、海兵隊が乗り込んだ一式装甲車の後ろで砂浜に着くのを待っていた。


敵からの砲撃や銃撃の音も聞こえず、上陸用舟艇の60馬力エンジンのデカい音だけが響いていたが、急に目の前の一式装甲車のエンジンがかかり、排気ガスが吹き出して二人は咳き込んでしまうとしばらくして、足元に強い衝撃が伝わり上陸用舟艇が止まった。


一式装甲車の後部ドアから、エジプトから演習で世話になっている顔見知りの海兵隊の若い士官が身を乗り出し


Aussieオージー Let’s Go~(さあ、いくぞ!)』


笑顔で右手で拳をつくり大声で叫ぶと装甲車は上陸用舟艇の倒れた前部渡板を飛び出して砂浜へと走り出したのである。


Aussieオージー 日本兵はオーストラリア・ニュージランド兵をこう呼んでいた。


それに続いて海岸を走り出す二人は、周りをみると海岸を埋め尽くす上陸用舟艇から一斉に、仲間達や装甲車が同時にでてくるのを見て、異常に興奮してしまった。


中には年をごまかして入隊した17歳の若い兵士が、突然に装甲車の脇を飛び出しオーストラリアの国旗を銃の先に縛りつけて駆け出していったのである。まるで子供が一番乗りの名誉を取るつもりで興奮して100m程の先にある、砲撃で各所から煙を出して静まっているオスマン軍の高台の塹壕陣地に向かっていった。


その時、まだ生き残っていた長い塹壕陣地の数百人のオスマン軍が一斉に銃撃を始めた、先頭を走っていたその若い兵士はいきなり撃ち始めたオスマン軍のドイツ製のMG08重機関銃によってボコボコに撃たれて、ぼろ人形のようになり倒れてしまい、この戦争のオーストラリア・ニュージランド兵として最初の戦死者として本人が望んだのとは違う一番になってしまった、こうして最初に戦死したオーストラリア・ニュージランド兵に敬意を払い、この海岸は「アンザック海岸」と呼ばれるようになったのである。


装甲車の脇からそれを見ていたアレクシスとキム


「なんだ~あいつ馬鹿か~ あれだけの砲撃で敵が全滅したと思っていたのかな~」


「まさか~そんなこと、思うかよ~ 敵の弾が当るとは思ってないのさ、小説の中の戦争の英雄は銃で撃たれても死なないで、敵の陣地に立って国旗を振っているからなあ~、それをまねしたんじゃないか~」とあきれて答えるキム


彼らの前を進む装甲車は、敵の銃弾を「カーン、カーン、カーン」と弾きながら12mm口径の二式重機関銃が鋼鉄防弾板の間から「ドドドドドッド~」と重い音を出して射撃をして、脇に取り付けた一式機関銃が「ダダダダダダッダ~」と軽い連続音を出しながら塹壕陣地へ反撃をして、ゆっくりと前進していった。


乗り込んでいる海兵隊の兵士も四十二式小銃で、塹壕のオスマン兵に狙いをつけて「パーン、パーン、パーン」と間隙のない射撃で応戦して、最終弾発射後には排莢と同時に弾薬クリップが「ピーン」という甲高い金属音とともに飛び出し、ホールドオープン状態となると8発の小銃弾薬の挿弾子クリップを押し込んでいる、後部ドアからは先ほどの日本軍の士官が心配してAussieオージー兵の小隊に車体の陰からはみ出すなと手振りで伝えていた。


1500名程のANZAC軍が、40台ほどの一式装甲車の後に続きオスマン軍の塹壕陣地へと近づいていた、その後の幅2kmの美しい砂浜にはぽつりぽつりと赤い血が広がって装甲車からはみ出たり、飛び出して撃たれた数十名のオーストラリア・ニュージランド兵が倒れて残されていた。そこにヘルメットに赤十字のマークをつけた日本軍の衛生兵が懸命に救命処置をしていたのである。


砂浜に続く少しなだらかな雑草の生えた坂を上り、オスマン軍の塹壕を越えられなく、その少し手前で止まった一式装甲車、後部の扉から体を乗り出してきた海兵隊の士官はAussieオージー兵の小隊に向かって、



『There is a trench The front!( デアィズ、トレンチ、ザ・フロント)”前方に塹壕!”』



『To fix a Bayonet!( フィックス、ベイオネット)”銃剣をつけろ!”』



と海兵隊の士官が叫ぶとアレクシスとキムは急いで腰から銃剣を抜くとリー・エンフィールド小銃に取り付け次の言葉を待った。



30名程のAussieオージー兵の小隊が装甲車の後ろに集まり銃剣を取り付けたのを確認すると、その日本軍の士官は車両から降りてくると、肩からぶら下げた南部式短機関銃のスライドを引いて装填準備すると


右手に拳をつくりその腕を高く上げる、そして前方の塹壕の様子をみて、その腕を前方に素早く倒し



『Now—Charge!!(ナウ、チャージ!)”今だ~突撃~!”』



と大声で叫び、先頭を切って敵の塹壕へ走りだし、その後を「ウォ~~~」と叫びながら、アドレナリンで興奮したアレクシスとキム達の小隊 Aussieオージー兵が続いていくのであった。





塹壕から反撃していたオスマン軍は、ゆっくり近づい来る装甲車に銃弾を浴びせるが、それをものともせずに迫ってくる様子に怯えてしまい、次々に後方へと逃げ出しはじめた、いきなり塹壕を飛び出したものは12mm口径の二式重機関銃で体はバラバラと真っ赤に吹っ飛び、内臓やちぎれた血だらけの腕や足の残骸に変わってしまい、塹壕の中は大騒ぎである、すでに命令や指示をする上級士官達が木造の陣地ごと戦艦の砲撃によってバラバラに吹っ飛ばされて、勇気ある下士官らによって生きの残った数百名の兵士は、機関銃や小銃で反撃を開始したが、この一式装甲車にはかなわず、みな浮足だっていた。




日が昇り始めた早朝、海岸から5km離れたブナカマの村の住人が、日本艦隊の艦砲射撃の音に驚きながら家から出てくると、村の入り口で塹壕を掘っている日本兵に気がつき集まってきた。


村の博識がある村長が近寄り、その兵士の軍服の腕についた日の丸の腕章に気が付き「日本人だ!、お前たち、日本の国から来たのか、」と声をかけてきた。言葉のわからないその兵士は、すぐに乃木勝典大尉と現地の言葉が分かる士官を連れてくると乃木大尉が


「申し訳ない、住人には危害を加えないが、ここはもうすぐ戦場になる、危ないから家から出ないようしてしてくれ」そう通訳させて頭を下げると


「えっ、ここが戦場になるだって、、」と言葉を失う村長


周りをよく見ると街道を見渡せる高台に大勢の日本人が塹壕を掘っているの見て意味がわかり、「この先の海岸に日本人が上陸してくるのか」と最後に村長が聞くと乃木大尉は頷いた。すぐに村長は村の住人に声をかけて家から出ないようにと声をかけていった。


乃木大尉達は3~4人が入れる塹壕を高台の各所に作り、その前面の15mほど先に補給の輸送船で送られてきた新兵器の一式対人地雷(結城が作らせた近未来兵器、この時代の材料でできるM18 クレイモア地雷)を設置していたのである。




海岸での戦いは終わっていた。大勢のオスマン兵が戦意をなくし武装解除されリー・エンフィールド小銃をもったAussieオージー兵にこずかれながら一ヶ所に集められていて、


初めて人を殺したアレクシスとキムが、敵の塹壕のふちに腰かけ震える手で支給された日本のタバコを取り出し口に咥えると 火のついたジ〇ポーライターをその口もとに近づけてくる海兵隊の士官、戦闘中は彼の適切な言葉かけでアレクシスとキム達の小隊は一人も死傷せずに済んだのである。


「ここで、お別れだ!」


「もう、君たちは一人前だ、あとは教える事はない、君達の武運を祈るよ!」と言うと立ち上がり、上陸収容艇の第二陣が運んで来た輸送トラックから、弾薬を補充している一式装甲車へと歩いていくと、向こうの海岸ではその第二陣が運んで来た八十四式自走トラック砲や海兵師団の兵士が列をなしてブナカマの村の方へと進軍をはじめていた。


アレクシスとキムはこの海兵隊の士官に対して、すぐに立ち上がり背筋を伸ばして自国の士官にも見せたことがないような、立派な敬礼をするのであった。






その英語が堪能な若い士官の名前は、栗林忠道くりばやしただみち少尉、史実では太平洋戦争で硫黄島の戦いを指揮した将官、米軍からは名将と呼ばれた人物、この時はまだ若干24才だった。






つづく、、、、



挿絵(By みてみん)










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