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第148話 ガリポリの戦いその2


エーゲ海北部にある島。レムノス島、面積は約477km2と広く、ギリシャでは8番目に大きな島である。島の中部南には大きく湾曲したマウドロス湾、そのマウドロス港を指揮下に置いた連合国、港の大きさはイギリス・フランス・日本の艦隊には十分だった。


連合国はオスマン帝国への侵攻作戦の為、ガリポリ半島から約50kmの距離にあったこの島を拠点として前線司令部としたのである。


挿絵(By みてみん)


連合軍の上陸作戦は1915年4月25日に開始された。英国の第29師団はダーダネルス海峡北側のガリポリ半島先端のヘレス岬付近5箇所に上陸したがオスマン軍の反撃に阻まれて2箇所では撤退し、3箇所の海岸を確保するに止まった。


日本の第一海兵師団とANZAC軍は、ガリポリ半島北側のエーゲ海に面した名もない入江に上陸作戦を敢行した。のちにこの海岸は「アンザック海岸」と呼ばれる場所で幅2kmの砂浜が続いていた。


この地域にはオスマン軍の第19師団がキリトバヒル要塞を拠点に、すでに連合国の上陸に備えて海岸沿いに広く警戒をしていたのである。それと後方のゲリポリの街にオスマン軍の精鋭である第9師団が控えていた。


上陸作戦の当日の深夜、ガリポリ半島から約50kmの距離にあるレムノス島の簡易飛行場には、日本から運ばれてきたカザマ製の長距離輸送機セスナ9を軍事用に改造して馬力が上がり、約1tの貨物を運べる仕様になって正規採用となったキ101式輸送機が25機、水冷V型12気筒レシプロエンジンが暖気運転で盛大な音を立てていた。


フル装備の兵士10名が乗れるようになっているが、すでに各機には80mm迫撃砲や一式機関銃それに新型対人地雷に大量の予備弾薬を積み乗員は8名となって出発を待っていた。


簡易飛行場の司令所の近くに、乃木勝典大尉が率いる200名の海兵隊コマンド中隊が、顔に偽装用の黒いドーランを塗って並んで整列していた。その前には第一海兵師団の秋山真之司令官と参謀の加藤新次郎大佐(元金沢第九師団所属)が立っていた。


「諸君の任務は海岸から5キロ離れたブナカマの村を確保する事だ、必ず上陸した仲間の部隊がそこに向かうので、オスマン軍の海岸陣地に向けての増援部隊を昼まで阻止してほしい。」


「諸君の武運を祈る!」


と秋山真之司令官が大声で言うと、乃木勝典大尉が率いる200名の海兵隊コマンド中隊は、背筋をスッと伸ばし右手をこめかみ辺りにかざして一斉に敬礼をした。


乃木勝典大尉が

「我々は必ず、オスマン軍の増援部隊を阻止いたします!」

「それでは行ってまいります。」

と答えると全員がそれぞれの機体に駆け足で向かっていった。


深夜ブナカマ村の近くの整地された空き地に、連合国に協力する地元のアラブ人が数名、飛行機が着陸できるように小さな焚火を間隔を開けて300m程の距離をわかりやすく照らしていた。


戦争が始まる以前に在オスマン帝国の公使付武官として、この国の軍事調査で滞在していた国防省情報局の秋山二郎大尉は、政府(結城)の指示でオスマン帝国によって虐げられている地元のアラブ人達に近寄り、資金や武器を渡して反政府勢力を組織していたのである。その組織には連絡用の無線機や発電機などが渡っており、レムノス島に拠点を移した情報局と彼らとは定期的に連絡を取り、ダーダネルス海峡やガリポリ半島のオスマン軍の状況を調査してもらっていたのである。今回の侵攻作戦に協力してもらう為に海岸守備隊と後方の司令部を繋ぐ電話線を切断したり、危険を承知で彼らは輸送機でやってくるコマンド部隊を待っていた。


キ101式輸送機が小さな焚火の明かりを頼りに次々と降りてくると、ゆっくりと速度を落とし止まるほどのスピードになり、両トビラが開くと8名の完全武装の隊員と予備の弾薬や対人地雷に迫撃砲が入った荷物を素早く降ろす、そして飛行機はスピードを上げて飛び立っていった。こうして200名のコマンド部隊はブナカマ村とエジェアハトの街を繋ぐ街道を封鎖する為に、村の入り口を見下ろせる少し高台に陣を構えた。




のちに「アンザック海岸」と呼ばれる、名もない入江と砂浜を監視していた中央部の少し高台にある長い塹壕陣地そこには、600名程の大隊が配置されていた。


夜明けが近づき、丸太の屋根の監視所で簡易ベットから起き上がり土嚢で覆われた開口部から海をぼ~と眺めていた早起きのサーリフ・ボゾク少佐は日が上がり始め明るくなった海を見て、息が止まった。


目の前に突然、五十隻以上の輸送艦や戦闘艦の艦隊が入江に現れたのである、彼はそばのテーブルで少佐のカップにコーヒーを入れてる少尉のマサルト・オムルタクに向かって「きた!、やってきたぞ!」


「マサルト少尉、すぐに本部に連絡しろ敵がきたぞ!」


サーリフ少佐の驚いた声で振り返り、彼も海を見て確認するとすかさず壁にかかる箱型の電話の受話器を取り、ハンドルをグルグル回して相手を呼ぶ出すが何も音はしなかった。 


「えっ、大変です、少佐~電話線が切られています!」


「なんだって~、大至急みんなを起して配置につかせろ、敵が上陸してくるぞ~」


「あとは伝令に援軍を寄越してもらうように、バイクでエジェアハトにある連隊本部に急いで行かせろ!」


陣地の手動式サイレンがなると、長い塹壕の中の簡易待避所からは、次々と兵士達がドイツ帝国によって制式採用されたボルトアクション方式の小銃であるマウザーGew98を握って、フェズと呼ばれるつばのない円筒形の帽子、色はえんじ色のトルコ帽を被り配置につきはじめた。


機関銃座は6ヶ所ありドイツ製のMG08重機関銃がやはり簡易陣地から海岸を狙っていた。後方にはドイツ帝国が使用した主力野砲である7.7 cm FK 96が6門その周りを土嚢で固めて、オスマン軍の砲兵が駆け寄り海岸への射撃の準備を始めていた。だが幅2kmに及ぶ砂浜には何もかも足りない装備と兵士であった。


30分もしないうちに海岸の上空には一機の弾着観測機が飛んで来た。


沖の日本艦隊を丸太の屋根の監視所の中で双眼鏡で見ているサーリフ・ボゾク少佐は、各戦闘艦の砲がこちらにむけて一斉に赤い閃光が光ったのを見ると間をおいて遠くで幾つもの激しい雷が連続してなるような音が聞こえた。


「マサルト少尉伏せろ~、敵の砲撃が始まった~」と彼の最後の言葉が監視所で響いたのである。




オーストラリア・ニュージーランド軍団を指揮するウィリアム・バードウッド将軍は、日本の乃木元帥に頼み込み上陸の第一陣に自分達の部隊をぜひ同行させて下さいと頼み込んだのである。


初めての戦争に参加するオーストラリア・ニュージーランド軍の敵国への最初の一歩を自分達がきざみたかったのであった。


それを了解した乃木元帥、こうして海兵隊員を運ぶ大型揚陸艦(上陸用舟艇母船)5隻の飛騨 出羽 明石 木曽 日高それぞれに一個大隊500名程のANZAC軍が乗り込んでいたのである。


すでに、レムノス島で上陸演習を繰り返してきたANZAC軍、最初はこの船の仕組みに皆驚いていた。船尾の扉が跳ね上がり海へとつながるスロープに動力付きの60名乗りの上陸用舟艇に立ったまま乗り込んで海へと飛び出して行くのである。浜に着くと陸用舟艇、前部の傾斜板が倒れて一斉に兵士が上陸できるのでモタモタして降りなくても済むのである。


今までの上陸戦において兵員の揚陸にはカッターボートや艀が使用されていたが、これらは機動力や防御力に欠けていて輸送船からの乗り込みも命がけだった。さらに彼らが驚いたのは、そこに日本兵が操縦する新兵器、一式半装軌式装甲車が一緒に積まれており、敵からの銃撃を受けてもそれが盾になっていたのである。その為、一部の上陸用舟艇には30名程しか乗れなかったがそれでも、彼らにとっては贅沢な近未来兵器だった。


砂浜を見下ろすような少し高台にあるオスマン軍の陣地に、戦艦や巡洋艦それに駆逐艦からの各種砲から放たれた砲撃で物凄い噴煙があちらこちらで土煙を上げていた。一時間近い砲撃が終わると、さらに20機ほどのセスナ型の爆撃機が取りこぼした獲物を見つけるように急降下して爆撃を繰り返していたのである。


そしてANZAC軍と第一海兵隊員を運ぶ大型揚陸艦から発進した第一波の上陸用舟艇50隻が、部隊ごとにキレイに横に並び、白波を立てながら浜をめざしていたのである。






つづく、、、


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