表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/153

第144話 「ジャッカル」その2


イギリス統治下におけるエジプトの首都カイロ、そこにイアン・ハミルトン将軍を司令官とする英国地中海遠征軍の司令部があった。


ドイツ帝国側について宣戦布告したトルコ帝国への侵攻作戦の為に、この地にやってきた、オーストラリア・ニュージーランド軍団”ANZAC”(アンザック)の三個師団は、ギザのピラミッドの見える場所を拠点に宿営して、そしてカイロに次ぐエジプト第2の都市である港町のアレクサンドリアに、英国の要請で派遣された日本の中東遠征軍の拠点ができていた。


ギザのピラミッドの下のデカい石に座っているのは、輸送船「アデレード」に乗っていて日本の駆逐艦「望月」の犠牲で命を救われた、オーストラリアの東部の田舎町で牧場をやっているライト家の三男アレクシス・ライトと、幼なじみで同じ町の雑貨屋の次男坊のキム・スコットの二人だった。


物知りのキム・スコットがピラミッドを見上げて「アレクシス知っているか、これを作るのに何千人ものエジプト人が20年もかけて、石を積みあげて作ったんだぜ、すごいよな~」と言うと「ゲッ、本当か、20年もこんなでかい石を運んでいたら、昔の人は腰を悪くしたんだろうな~」と呑気な事を言って、「それよりか、日本からの交流会で昨日見たあのサムライの映画に俺は泣いてしまったぜ~」(日本政府が用意していた兵士への娯楽と、日本を知ってもらう為に結城が、白鳥社長とこの時代に普及している活動写真機を使い、父親のコレクションから白黒のサムライ映画のコピーを作り英語字幕を付けて用意していたのである。)


「あれは、すごく面白かった! 野武士の略奪に悩む村の連中が、七人の侍を雇って野武士の襲撃から村を守るなんてすごいよな~よくできているよ、ラストの雨の中の合戦シーンはすげ~よ、みんながたまげてたよ、あれが日本のサムライの心なんだろう、他人の為に強くなり、他人の為に死ねるかどうかだ、俺達の為に魚雷で沈んだ駆逐艦の日本人もあのサムライと同じだよ。」とキムが日本人に感心していると「キム、俺達はあの村人同じだよ、戦争なんかに来るのは初めてだぜ、どうやって戦うのか上官達は知っているのかよ!戦争を経験している、日本のサムライに戦い方を教えてもらうのが一番さ」と以前は日本人を差別の目で見ていたアレクシスは、すっかり日本人を敬愛していたのである。



キムも同じように頷いていると「お~い、おまらいつまで休憩してるんだ、次のトレーニングが始まるぞ!、日本軍の士官を待たせるんじゃない、」と上官が叫んでいた。「わかりました~」とキムが答えると二人は日本軍から支給された、日露戦争で第三軍使っていた少し古い皿型のブロディ・ヘルメットを手に取って頭に被り演習場に歩いて行くと、近くの砂漠ではすでに十数人の兵士に別れた中隊が、日本が”ANZAC”軍団に武器供給した80mm迫撃砲を囲んで取り扱いを習っていた。


国ができて初めての戦争で実戦を戦うオーストラリア・ニュージーランド軍団、それに対して日清・日露戦争やすでに青島の戦いなどで実戦を経験している日本は、彼らに塹壕戦に置いて必要な武器や兵器の供給を始めたのである。それには手榴弾に一式機関銃、それと中折式単発グレードランチャーも含まれていた。こうして日本の中東遠征軍は”ANZAC”を手懐けて英国の立てた作戦ではなく、自分達の立てた作戦に引きずりこうもうと考えていた。




アストリア・ホテルで門番をしているフランス兵のサミュエルは、数日前から近くに寝そべって上目で自分を見つめる野良犬が気になっていた、昼前に来ては夕方にいなくなり、別の日は色の違う同じ犬種の犬がやってくるのである。

”なんだ、あの縞模様の野良犬、兄弟犬かフランスにあんな犬種がいたかな~”と思いながら犬好きのサミュエルは、食べ残しのパンを毎日、入れ替わりにやってくる二匹の犬にあげていて、”お前もいっしょに門番するか、怪しい奴がいたら吠えてくれよ!”と犬といしょに門番をしているつもりになってかわいがっていたのである。


たまにホテルのそばを通る、犬好きの胸のデカい御夫人がかがみこんで頭をなでるとなぜか、尾っぽを思い切り振りながら後ろ足で立ち上がり、前足の肉球をそのデカいオッパイにのせるようにして甘えてくる人懐こい犬だった。


その頃、尚美と中島看護部長が久しぶりに、昼を外のレストランで食べる為コートを着込んでホテルのホールを歩きながら話しをしていた。


「最近は、あの一癖も二癖もあるモンモランシー公爵のジェルメーヌ夫人が来なくなったんですよ、お陰で他の御貴族様の「篤志看護婦」達も大人しくなってくれて助かります。」と嬉しそうな顔して話す中島看護部長、


「あのジェルメーヌのクソ婆~も愛人が戦場に戻ってしまって、気が抜けたのでしょ、いいきみよ!まったく、病院を何だと思っているのよ」と返す尚美にアストリア・ホテルの出入り口で門番をしているフランス兵のサミュエルは二人に気づき一礼をした、尚美がそれに気づきお辞儀して返すと、その脇に寝そべっていた黒虎毛の野良犬をじ~と見て・・・・・


”あれ~パリにも、あの"ゲス犬"のクロと同じ犬種がいるのね~”と数年前に自宅にたむろして幸子ちゃんが可愛がっていて、あの殺し屋が襲ってきた一件があってから、すぐにいなくなったクロとアカの事を思い出していた。


二人は裏通りのこじゃれたレストランに向かうと、その後を建物のかげから見ていたデカい体で凄みのある顔をした犯罪組織「ジャッカル」の幹部ムールード・マムリがコートの襟を立てフェルト製の中折れ帽をかぶり、通りの前に止めてあった、ルノーの屋根のある4ドアセダンの運転席にいる部下に顎でつけるように指示した。


尚美がたまに外のレストランでランチをする事を、夫人から教わっていた幹部のムールード・マムリは裏通りで尚美を拉致しようと車と共にゆっくりと後をつけていた。”やっと出て来たか、日本人にしては背が高い女だな、まあ一発殴って、車に押し込んでしまえばいいか”と思いながら後をつけると、車の助手席からもう一人の子分、アキームも降りてきて二人は尚美達の後をつけはじめた。そしてさらにその後ろを、ホテルの前にいた黒虎毛の野良犬がつけていたのである。



『何だこいつら、すげ~怪しいな~おいらの「ちっぱい」姉ちゃんになんかするのか~』と思いながら、気づかれないようにムールードに忍び足で近づく忍犬の黒虎、尚美達が通りの角を曲がり裏通りに入ると、ムールードは殺気を放ち後ろから尚美を襲う為、駆け出そうとした瞬間に右足のふくらはぎに激痛を感じて倒れてしまった。


「ギャ~ 犬が、犬が咬みつきやがった~!」と叫ぶと彼の右足を忍犬の黒虎がガッチリとその鋭い犬歯をくいこませていた。


「このヤロ~、離しやがれ!」と左足で蹴りつけるが、それを器用に避ける黒虎、耳が前に傾いてしっぽが上がり、毛が逆立って鼻にシワを寄せて、『てめ~おいらの「ちっぱい」姉ちゃん襲うつもりだろう!このやろ~』と恐ろしい殺気で噛みつき離そうとはしなかった。


「クソ~痛て~ アキーム早く助けてくれ~」と泣きながら叫ぶと、そのアキームが狙いをつけて右足をあげて思い切り蹴りつけると、とっさに噛みついていた血だらけのふくらはぎから牙を抜き、よける忍犬の黒虎は、凶暴な熊やイノシシを相手にしても一歩も引かない、その時のような凶暴な顔つきになり『いいか、二度とおいらの姉ちゃんに近づくなよ、次あったら殺すぞ!』と日本のヤクザが言いそうな唸り声で二人を脅した。


それにビビッた二人は歩けないムールードにアキームが肩を貸して、逃げるように車に飛び乗りその場を後にした。そんな事があったとは、なにも知らない尚美と中島看護部長は美味しいランチを食べていたのである。








つづく、、、、









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ