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第139話 護衛艦隊その4


ドイツ艦によるココス島への砲撃は、すべての日本艦隊に無線通話で伝えられた。ANZAC軍団を運ぶ輸送船団の外縁海域を警護していた睦月型駆逐艦(イギリス駆逐艦の模倣から脱却した最初の日本駆逐艦、排水量1,315トン、最大速力36ノット(時速63km)12cm単装砲4門)それを聞いた、各乗り組み員は緊張した臨戦状態となった。


船団の先頭で右翼を護衛していた、三上作夫少佐の駆逐艦「夕月」では見張り台につく全ての下士官が双眼鏡で周囲の海域を警戒していた。艦橋で副官が前方を見ながら「いよいよ、ドイツ艦のお出ましですね、あの英国と豪州の連中はしっかりと仕事をしてくれますかね?」と三上艦長に聞くと「英国人が頭になっていれば、やんちゃな豪州人も使えるんじゃないか、倍の数で対応しているしな」

「それよりか、もう近くにきているんじゃないか、確か政府(結城)の資料では遠洋型のドイツのUボートとかいう強力な潜水艦は、この辺まで平気で来るそうだ。その為の新型索敵装置と迎撃兵器を積んでいるんだから、ちゃんと演習通り、監視しないと・・」そう言っていた艦長の脇でアクティブソナーを扱う下士官が「反応あり、距離5800m!」といきなり大声を出した。「なに~、本当にいやがった!」と驚く三上艦長、「すぐに、敵潜水艦を発見したと全艦に無線通信で伝えろ!」と通信兵にどなった。右翼から迫るベテランのヴェディゲン大尉のU-9号潜水艦は潜望鏡深度で慎重に艦隊に近づいていた為、哨戒機をともなっていない艦隊は、潜水して近づくUボートにはすぐに気がつかなかった。


他の日本艦艇には無電通話で連絡して、輸送船団には発光信号機ライトガンで何度も連絡をした、船団は潜水艦の魚雷攻撃を避けるために、短時間内で針路を変化させてジグザグに航行をはじめた。これは政府からの対潜水艦資料(結城)から日本海軍が出航の際に各輸送船の船長に申し入れていた決まりだった。


航行中の艦船に対して魚雷攻撃を行う際には、目標の距離・速力・針路から未来位置を予測して、魚雷を発射する為短時間に針路を変更することで、潜水艦による測的をある程度妨害することができ、特に不規則にジグザグ航行を実施すると効果的であると指導していた。輸送船の船長は周りの船との衝突を避けながらこの回避運動をはじめたのである。


左舷から近づくU-18号フランツ・ヒッパー大尉はいつものように浮上しながら輸送艦隊に近づいてきたが、駆逐艦「長月」の監視していた士官にすぐに発見されて急速潜航してマニアル通り動かずに最大深度で無音潜航してるところを

アクティブソナーによって発見され、近未来兵器ヘッジホッグで始末された。


右翼から迫るベテランのヴェディゲン大尉のU-9号潜水艦は、外縁海域を守る駆逐艦の監視から気づかれずにいたが、ついにソナーで発見された。無精ひげを伸ばし、海軍では着用を禁じている「ホワイトトップ」と呼ばれる夏季用の白い将校帽を逆にかぶり、潜望鏡を覗いているヴェディゲン艦長「クソ~、輸送艦隊が急に進路変更していやがる、これでは針路方向が読めないじゃないか!」と独り言で叫んでいると、ヘッドフォンを両耳につけてたソナー員の下士官が「敵艦こちらに近づいてきます!」と艦長に知らせた。


潜望鏡をまだ覗いている艦長は「魚雷一番、二番発射用意!、仰角最大 距離4000!」と前部魚雷室へ(射程6km炸薬量280kg 40ノット(74km/h))指示をだした、魚雷発射管に海水を注入して前扉を開き圧搾空気で魚雷を押し出す準備ができた魚雷室の下士官が伝声管にむかって「発射準備完了!」と大声で答えてきた。


ジグザグに航行をする輸送艦の標的艦を決められず、この一回のチャンスに輸送艦隊のど真ん中に魚雷を打ち込む事をすばやく決断した艦長は大声で「一番、二番、発射!」と大声で返した。魚雷室の下士官が一番、二番の発射レバーを両手で押し込むと「プシュ~」と圧搾空気が送り込まれ「盲撃ち」の魚雷が発射された。


そして素早く近づく駆逐艦に潜望鏡を向けると”なんで、あんな遠くからこの艦の位置がわかったんだ”と考えていたが、すぐに「深度50、左舷から近づく駆逐艦にむかって全速で向え!」と指示すると、副官が「えっ、敵艦に向うのですか!」と聞き返した。


「そうだ、嫌な予感がする、日本人はなにか特殊な装置で我々の位置をとらえている、今までのように深く潜っておとなしくしてもダメだろう、動き回って逃げるしかない!」「輸送艦隊までの魚雷の到達まで、どのくらいだ!」と聞くとストップウォッチを持った士官が「あと3分10秒!」と答えた。


U-9号潜水艦をアクティブソナーで発見して、近づく三上艦長の駆逐艦「夕月」ソナーを扱う下士官が慌てた声で「敵潜水艦、魚雷を発射しました!」と艦長に伝えた。「何だって~、ヤバイ!」艦橋の脇の見張り台にいた艦長は目を凝らして海を見ていると、艦の前を通り過ぎる二本の魚雷の航跡を見つけた「敵の魚雷が向かっていると「望月」に至急に連絡しろ!」と大声で叫んだ。


輸送艦隊の右舷にいた若月祐一艦長の駆逐艦「望月」は、艦隊の速度に合わせていたが、三上艦長の駆逐艦「夕月」からの連絡を受けると、その位置では魚雷の阻止ができないと思った、2000名以上の兵士が乗っている”ANZAC”の輸送船に一発でも魚雷があたれば悲惨な状況になり、護衛を任された日本海軍の恥さらしになると考えた若月艦長は「最大戦速!」と叫び、カザマ製重油燃焼蒸気タービン機関を最大限に回し最大速力36ノット(時速63km)をだして魚雷の予想到達地点へと急いだのである。


オーストラリアの若い志願兵を2000名以上乗せた、輸送船「アデレード」の甲板には夏服の軍服につばの片側が折り返されている、陸軍の伝統的な制帽であるスロウチハットを斜めにかぶりながら、この海の戦いを見ようとほとんどの兵が船の手すりを掴みながら海を見ていた。


オーストラリアの東部の田舎町で牧場をやっているライト家の三男アレクシス・ライトと幼なじみで同じ町の雑貨屋の次男坊のキム・スコットは手すりを掴みながら海を見ていた。「味方の艦が先に、いっちまったけど残った日本のサルの船が俺達を守れんのか~」と不安げにアレクシスが話すと「俺は泳げないんだ、万が一の時はアレクシス助けてくれよ」とキムが海を見ながら言うと「俺も泳げないよ」と返すアレクシス、「アデレード」の艦橋脇の見張り台では船員達が警笛を鳴らしながら、最大速度で右舷後方から迫る駆逐艦「望月」に気がついた。


警笛の意味を悟ったヘンリー・ローソン船長は「右舷から魚雷が近づいている、操舵手、取舵とりかじいっぱい!」と叫んだ。広い平原で育ち視力がいいライト家の三男のアレクシスが遠くから船に近づく一本の白い航跡に気がついた、「あれは、なんだ?」と生まれて初めて見る魚雷の航跡、それがUボートの殺傷兵器とは思わず周りの仲間達が騒ぎだした。誰かが「あれは、魚雷だ!、みんなここから離れろ!」と叫んだ、船の舵がやっと効き始め左側へと船首を向け始めたがすでに遅かった、輸送艦の中央部で見ていたアレクシス・ライトと幼なじみキム・スコットは胸の前で十字を切り苦しまずにこの海で死ねるように祈った。甲板は大騒ぎとなっていた。


魚雷が確実に衝突コースに入った時に、彼らの視界に最大速度36ノット(時速63km)で魚雷と輸送船の間に割り込んできた、旭日旗と日の丸を掲げた一隻の駆逐艦が二人の目に入った。それは一瞬のことだった、轟音を上げてその駆逐艦の右舷から盛大な水柱があがるとさらに、運が悪く積んでいる魚雷が誘爆してさらにデカい火柱と耳をつんざく爆発音で、一瞬に船体中央部から折れて轟沈してしまい、若月艦長以下212名の乗り組員のうち生存者は誰もいなかった。


もう一発の魚雷は輸送船に影響のない航跡で波間に消えていくと、輸送船の「アデレード」に乗っていたオーストラリアの若い志願兵の2000名は、馬鹿にしていた日本人が、命を懸けて魚雷に割り込み自分達を守ってくれたことに驚愕した。


輸送艦の中央部で駆逐艦「望月」の勇敢な最後を見ていたアレクシス・ライトと幼なじみキム・スコットや乗っていた2000名の兵士は、それからは戦場で出会う日本兵を見つけると「日本人には命を助けてもらった」と感謝の言葉を言って、日本人が頼りになる相棒のような気持ちで、みずから握手を求めるようになったのである。


輸送船「アデレード」の船長は汽笛を鳴らして現場を通り過ぎ、後ろからくる輸送船もそれを見ていて同じように汽笛を鳴らして、この勇敢な日本の駆逐艦の乗り組員に深く哀悼を捧げたのである。


その後しばらくして、その事実を知ったオーストラリア政府は駆逐艦「望月」の亡くなった乗り組員の名前で、遺族に政府からの感謝状が送られたのである。絶対的な白豪主義のオーストラリア人にとって初めての有色人種への感謝状だった。この事は日本でも知れ渡り、この勇敢な行為は当時の小学生の道徳の教科書にも駆逐艦「望月」の物語として、記載されて国民の誇りとして後世に語り継がれたのである。


魚雷を放ったヴェディゲン艦長のU-9号潜水艦は、深度50mまで潜水して水中を最大速度9.7ノット (時速17km)で駆逐艦「夕月」にめがけて海中を移動していた。


アクティブソナーを扱う下士官が「敵潜水艦、深度50 距離1500、こちらに向かってきます。」と三上艦長に伝えると「取舵10°針路変更、」と右舷に敵潜を

とらえようとしていた。


U-9号潜水艦の指令所では、先ほどから「カーン、カーン・・ピーン・・カーン、カーン・・ピーン、」と水中探信儀の音波が聞こえていた、すでにヴェディゲン艦長は”これは前に技術者から聞いていた音響探査ではないか、それで我々の位置がばれたのか、すでに日本人は開発していたのか、これはどうしても、生きて戻りUボートの仲間に知らせないと大勢が無駄に死んでしまう。”と考えていたら、「敵艦、針路方向を変えました。」とヘッドフォンを両耳につけてたソナー員の下士官が伝えてきた、”きっとまだなにか日本海軍は秘密の兵器を持っている”と感じた艦長は「敵の艦の真下に向けて艦を進めろ!」と指示をした。「それでは、敵の駆逐艦の艦尾にある、爆雷にやられます!」と叫ぶ副官に「このままここにいても、死んじまうなら思い切った事をして敵のこの音響探査から逃げるんだよ、この音波は船の前にしか効かない!」と自分の不思議な感を信じて言い切った。


その時「艦の頭上で多数の着水音!」と叫ぶソナー員の下士官、深度50mを最大速度9.7ノット (時速17km)で駆逐艦「夕月」の真下を目指すU-9号潜水艦に直径約40mの円形の範囲に、着水して沈降する24個の弾体は最大速度で進むU-9号潜水艦をとらえる事はできなかった。


艦橋脇の見張り台から船が通り過ぎた海域で、水柱が上がるのを期待していた三上艦長はいくら時間が立っても何もおきない水面を見ていた。「敵潜水艦、見失いました!」とソナーを扱う下士官からの報告で、失敗した事に気がついたのである。そして、先を進む輸送艦隊の方角から盛大な爆発音が響いてきて、急いで双眼鏡でそちらを見ると駆逐艦「望月」が二つに折れて船首と船尾を立てながら沈んでいくところだった。


U-9号潜水艦は、駆逐艦「夕月」の真下を通り抜けるとそのまま輸送艦隊の下も通り抜けて気づかれずに危険な海域から脱出したのである。







つづく、、、、


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