第129話 青島要塞の攻略
青島湾からは煙が幾つも立ち上り残された小型艦、水雷艇、砲艦がセスナ型攻撃機の250kg爆弾の直撃により沈没するか燃えていた。
第一海兵師団の指揮艦である強襲揚陸艦、白神の島型艦橋のデッキには英国東洋艦隊の司令官ジョン・フィッシャー提督とジョン・ハリソン陸軍少将それに副官が上陸作戦の打ち合わせで乗船していた、隣には第一海兵師団の司令官になった秋山真之少将と陸戦の指揮をとる加藤大佐が一緒に並んで立っていた。
彼らの目の前には、青島湾の爆撃を終えた二人乗りの高翼セスナ攻撃機が速度を落として、ふんわりと飛行甲板に機体をのせると甲板の制動索に着艦フックを引っ掛け機体制動を助け、短距離で停止させていた。
東洋艦隊の司令官ジョン・フィッシャー提督は驚いた顔をして「いったい、日本はこれだけの技術を、いつからできたんだ~」と秋山少将に聞いてきた。
「すでに4~5年前からこの飛行機を開発しており、この飛行甲板を備えた船は航空母艦と呼ばれております。」
「なんと、4~5年前からこの飛行機は飛んでいたのか、」と日本の科学技術は「ドレッドノート」のような弩級戦艦もつくれない後進国だと思っていた、それが最新の飛行機を兵器としてすでに運用している事に驚いたのである。英国海軍でも複葉機のフロートをつけた水上機を運用する母艦はあったが、回収するには着水した機体を船のクレーンで持ち上げなければいけなかった、それが目の前で綺麗にワイヤーと着艦フックを使い短距離で停止させる発想と技術に驚いていたのである。
さらに秋山少将はジョン・フィッシャー提督にさらに驚かす事を言ったのである。
「提督、この艦の本当の目的はこの飛行機の運用ではありません、乗船している海兵隊の支援の為の揚陸艦です、」そう言って提督達を艦内を案内して、階段を下りて広い上陸収容艇が置かれた艦内倉庫に案内した。
秋山少将はそこに並んでいる上陸用舟艇を指さし「これが、そうです、海兵隊が60名完全装備で乗船したままこのローラの上を天井に設置されたトロリーワイヤーを利用して舟艇を軌道上で移動させて、船体船尾の4枚の跳ね上げ式大型ハッチがありますのでそれをあげて、そのまま海上に次々発進させます。」すでに後部の上陸用舟艇にはトラック砲が2台積まれた状態であった。
上陸用舟艇を見たジョン・ハリソン陸軍少将は「兵士は輸送船の舷側に垂らされた、縄ばしごを伝って舟艇に乗り込む必要がないのか~、それにこれは動力船ではないか、兵士がオールを漕ぐ必要もないすばらしい」そう言って近づいて舟艇を確認する、ハリソン陸軍少将は後部の舟艇に積まれたトラックを見て「こ、これは何ですか、荷台のカバーがかかっいる兵器は、もしかして18ポンド砲に似ていますが大砲を積んでいるんですか」
陸戦の指揮をとる加藤大佐がハリソン陸軍少将が言っている事を聞いて「はい、よくわかりましたね、これはトラック砲もしくは自走砲と呼んでいますが、砲をけん引するのではなくて、砲を荷台に取り付けて陣地についたらすぐに攻撃できるようになっております、また、移動もそのまま動かせばいいので前進する歩兵に合わせて移動ができます。」
その話を聞いて、日本の技術力とその運用発想に驚かされて、言葉を失っていく英国の陸海の司令官達だった、そのまま会議室に移動してテーブルに着席すると、外は8月の暑さだったが、部屋に入るとシラトリ製の空調機から冷風が流れ、その涼しさに気づき、そして出された上等なガラスのコップの冷水には氷も入っていて、それを司令官や副官達はビックリした顔でお互いを見て、美味しそうに一息で飲み干しお代わりをした。
彼らはもうこの国はいつのまにか自分達の10年先の技術をもっていると思い、何がでても驚かないようにしたのだった。
作戦の打ち合わせも済んで、昼食で日本の海軍カレーを味わい、その味を気にいってお代わりをしたジョン・フィッシャー提督は、艦の料理長からレシピをもらい、ご満悦で自分達の船に帰るのだった。
計画は日本軍が先に上陸してその後、英軍も上陸して合同での包囲戦で艦砲射撃と空爆で5ヵ所の堡塁陣地を吹き飛ばし青島市へと突入する計画とした、すでにモルトケ山要塞とビスマルク山要塞の頂上にある、円形のコンクリートの防壁に囲まれた、露天に設置され360度の砲撃ができる口径30 cmの要塞砲は、すべて攻撃機の250kgの直撃で吹き飛ばされていたのであった。
青島要塞のドイツ軍司令部
青島要塞総督アルフレート・マイヤー・ヴァルデック海軍大佐は、いらだった顔をしていた。
「くそ~、いまいましい、あの、飛行機はなんだ、日本軍はあんな新兵器をもっていたのか、情報部は何をしていたんだ~」
「モルトケ山要塞とビスマルク山要塞の30cm砲はどうなったんだ!」とデカい声をだして、山の要塞の守備を任されている陸軍のカイゼル少佐に聞くと「すべて、あの飛行機によって破壊されました。口径30 cmの重砲がなければ、近づく敵の艦船を攻撃することができません」
「あとは、上陸してこの青島に攻めあがってくる敵兵士を、あの6kmの防衛ラインでどのくらい、血祭りにできるか、せめて、ここで奴らに一泡かかせないと、簡単には降伏できません」
「フフフ、そうだな、我がドイツが本気で作った、厚さ2mもあるコンクリート堡塁と塹壕それに、鉄条網で囲まれた防衛ラインだ、日本兵が得意とする肉弾突撃もあの機関銃と地雷があれば容易に突破もできまい、皇帝への言い訳の為にも、弾が無くなるまでは抵抗はしないといけないぞ!」
すでにドイツ本国との輸送海路が閉ざされ補給も無い、孤立した要塞守備軍はドイツ人の意地として黄色いサルの血をタップリと流してから降伏するつもりだった。
そんな上陸作戦が決行される深夜、2隻の高速大型ゴムボートが、上陸予定の浜の近くにくるとエンジンを止めて、慎重に手漕ぎで音を立てないように浜へとたどりつき、素早く上陸してゴムボートを近くの茂みに隠して、日本の海兵隊コマンド15名が上陸した、率いるのは乃木閣下の長男で乃木勝典大尉だった。
要塞の防衛ラインから5kmほど離れた海岸だったが、敵の監視所や拠点がないか事前に偵察に来たのだった。問題がなければ5時間後には、この浜辺に1万2千名の第一海兵師団が上陸してくる予定だった。
日本の兵士は要職に就いている結城のミリオタ趣味で、近未来の米国兵士と同じような装備となっており、洗面器のような形状のブロディ・ヘルメットはやめて、第二次世界大戦の米兵が被るやや明るいオリーブグリーン色で塗装されているM1戦闘用ヘルメットに、夏服の戦闘シャツにズボンや防弾ベスト、編み上げブーツすべてオリーブグリーン色に、左腕の上腕部には白地の日の丸が描かれた国旗の腕章をして、腰には弾薬ベルトをまいて南部式短機関銃や狙撃銃にM1ガーランドの国産版四十二式小銃などの武器をもって、背中のバックパックには1日分のレーションと、新しく発明したプラスチックボトルには500ccの精製水が2本、予備弾薬、救命キットや治療に必要な道具などが入っていた。
暗闇の中、手慣れたように静かに周辺を確認をして兵士は親指を立て、乃木大尉に知らせると、さらに海岸から少し離れると、海岸を見渡せる丘に監視所があるのを発見した、音を立てないように近づき双眼鏡で確認すると、そこには歩哨が一人立って海を監視していた、後ろにはコンクリートで作られた簡易掩体壕が土嚢で囲まれ数人の兵士が休んでいると思われた。
彼は部下に「奇襲する」と指で合図を送り、銃の先に消音器を付けた狙撃銃を持った兵士に歩哨を狙わせた。
「プシュッ」と静かな狙撃音がなると、頭頂部に金属製のスパイクが付いているのが特徴の、ドイツ帝国の皮製のヘルメット「ピッケルハウベ」を被りモーゼル式小銃Gew98を肩に担いだ、若い兵士は頭部を撃たれ、そのまま土嚢に倒れ込んだ、それを見て南部式短機関銃を持った乃木大尉と数名の部下はコンクリートで作られた、簡易掩体壕に近づき静かにドアを開けると、寝ている数名のドイツ兵に向かって、南部式短機関銃を「ダダッダダダダダッダ」と連射していった。
そして、死んだドイツ兵士を運び出しそこを占拠すると、背中に無線機をしょっている兵士が、テーブルのカップをどかして装置を降ろし、無線の電源を入れて受話器を乃木大尉に渡した、彼はそれを受け取ると、発信ボタンを押しながら「コチラ、ベンケイ、コチラ、ベンケイ、ホンブオウトウセヨ~~」と部隊の暗号名で指揮艦である強襲揚陸艦、白神に無線連絡すると、「コチラ、ホンブ、コチラ、ホンブ ヨクキコエマス、ドウゾ」と無線機のスピカーから陸戦の指揮をとる加藤大佐が応答してきた。
それを聞いてニヤリと笑みを浮かべた乃木大尉は「セイソウカンリョウ、セイソウカンリョウ、ドウゾ」と連絡すると「リョウカイ、リョウカイ」と返事がかえってきてひと安心した乃木大尉と部下は、無線を切って上陸までのあいだ海岸周辺の安全を確保していたのだった。
朝、六時海岸に近づいた日本の海軍第二艦隊は、ドイツ軍の6kmに及ぶ防衛ラインに二人乗りのセスナからの着弾観測の無線連絡を受けながら上陸作戦を牽制する砲撃を開始した。沖には海兵隊員を運ぶ大型揚陸艦から発進した第一波の3千人を乗せた上陸用舟艇50隻が、部隊ごとにキレイに横に並び、白波を立てながら浜をめざしていたのである。
つづく、、、、