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第125話 最強の忍び


自宅、結城

俺は遅い夕飯を終えると、姉さんと幸子ちゃんに話があるといって、食事の後のお茶を飲みながら二人に今日、服部氏から聞かされた不穏なやからの話しをはじめた。


今日の午後、立憲政友会事務所、結城の執務室での出来事

結城の向かいに座っているのは、服部半蔵元政公安署長、彼は腹を決めた顔で静かに御庭番の話しを始めた。


「五条長官は御公儀、忍び組のことについては知っておりますか。」


はて、なんでそんな事を聞いてくるのかわけもわからず「いえ、徳川幕府の御庭番は知っていますけど、そんなに組がつくほどいろいろと組織があったのですか。」


神妙な顔で続きを話す、元政公安署長

「御庭番には、伊賀いが組、甲賀こうが組、根来ねごろ組とがありまして、江戸城、大奥のお屋敷ならびに上様がどこぞにお出かけなさる時のお守りなどのお役目をしておりました。」


伊賀いが組は戦国時代に織田信長様とは敵対しておりましたところ、天正伊賀の乱 の際に故郷の伊賀を追われた我が祖先、服部半蔵が手兵を引き連れて家康様の元に参じたのがその発祥で、織田信長様が明智光秀軍に殺害された本能寺の変のあと、光秀軍に追われる家康様と共に伊賀越えの案内をいたしまして、無事に本領である三河への帰還を果たす事ができました。」


「その時から、服部家は家康様の信頼のもと、警護を担当するようになり、その後に伊賀の縁故で、甲賀のものどもが加わって甲賀組ができて、太閤秀吉様に反抗して滅ぼされた紀州根来寺の根来衆が、これまた徳川様に召し抱えられて根来組となってこの3組が先祖の服部が頭として率いる、御公儀忍び組となります。」


「維新によって徳川様の幕府が崩壊したとき、その役目を終えて新政府の警察組織に我が伊賀組と甲賀組の一門が所属することになりましたが、根来組は維新の混乱の際に一族が抜け忍となり、道を外れ、どこにも所属しない危険な組織として、この日本の裏社会で金をだせば何でも請け負っているようです。」


「その動向は彼らと関わりのある我らの”サクラ”から逐次、情報は入っており彼らなりにも決め事で素人衆には手をださず、裏社会の悪人どもの利権争いにからんで仕事を請け負っていたので、こちらも、悪人の数が減るのは世の中の為と思い目をつぶっておりました。」


「その根来組と関わりのある”サクラ”から連絡があり、皇道派を操っている連中から金で、根来組の道を外れた子弟達と、その頭の桐山右京、合わせて6名が

長官の御自宅を今日にでも襲撃するとの連絡がきています。」


平然と根来組が結城の自宅を襲撃すると言い放つ元政公安署長


”フンギャ~、俺が狙われているの~、まじか~ど~すんのよ~ ”と動揺を隠せない結城は泣きそうな顔になり


「ど、ど、どうしたらいんですか~」と元政公安署長に尋ねた。


「さすがに、今回の根来組は親達が決めた素人衆には手をださずという掟も忘れてしまい、その子弟達についてはこの先も考え壊滅させます。」


「申し訳ありませんが、五条長官にはオトリとなってもらい、御自宅で普段通りの御生活を続けて下さい。」と平然と話す元政公安署長


「そんな~、普段通りだって~、本気で殺しにくるだよ~、いない方がいいんじゃないの~」と少し半べその結城が言うと


「彼らは腐っても忍びの教育を受けております。自宅にいなければすぐに察して襲撃をやめてしまいます、そうなると次はどこで襲われるか予想がつきません、今回は待ち伏せて連中を潰す事ができます。服部一族の最強の忍びが必ず守りますから御協力おねがいします。」


そう言われて腹をくくった結城は「わかりました、もう腹を決めたよ、だけど元政公安署長にも言っておくけど、もう刀とか手裏剣の時代じゃないから、近代武器も使ってくださいね、」


「フフフフ、ありがとうございます。ちょっと忍びの風情がありませんが、これも世の中の流れなんでしょうね~」


そう言って俺と姉さんと幸子ちゃんの事を最強の忍びで警護してくれることを元政公安署長は約束してくれたのである。


帰ってきてから夕食後、俺は姉さんと幸子ちゃんにこの襲撃の話しをしたら、姉さんはいきなり自分の部屋に行くと、腰にガンベルトをつけて愛用のコルトピースメーカのリボルバー拳銃をホルダーに入れて、居間に戻ってきたのである。


「幸子ちゃん、あなたの事は私が必ず守るから安心してちょうだい、これで凶暴なヒグマも倒したんだから、」と言って自慢げに銃を抜くと、引き金に指を入れてくるくる回したと思ったら「キャ~」と叫び、また、とんでもない場所に銃を飛ばしてしまい、慌てて取りに行くカッコ悪い尚美だった。


そんなこともあり、結城や尚美は玄関や窓の戸締りをして、眠れない夜を過ごしていた。


深夜、結城の自宅近くの空き地に集結する黒い服装をした根来組の半グレ集団それぞれの手には得意の得物をもっていた。


頭の桐山右京が集まった子分達に向かって

「今日、始末するのは公安長官になった野郎だ、自宅にいる姉も始末してもかまわない、女だからと言って容赦するなよ」


「え~、女もいるんですか、そりゃあ楽しみだ~、じわりじわりいたぶってから殺してもいいですか、」そう言いながら、鉄製で両刃の鋭い切っ先を持ち、片手で握るための十分な柄と その柄尻に紐を通せる輪が付いている「クナイ」を得意とするカラスの呼称で呼ばれる部下がニタニタしながら聞いてきた。


「カラスの兄貴~、そんな可哀想な事しないで、一突きで始末してあげないと恨まれますよ、女は化けて出てくると言いますからね、」そう言い返したのは鎌に分銅を鎖で結んだ武器である、「鎖鎌くさりがま」を得意とするフクロウと仲間から呼ばれる背の低い男だった。


二人は桐山右京が信頼する凄腕の仲間だった。


そんな余裕を言っている子分に桐山右京は「こんな仕事はささっと終わらせてもらった金で酒でも飲みに行くぞ、てめら~素人だからと言って油断するなよ!」と気合をいれる。


集まった5人の子分は「へい、わかりやした、」と返事をして総勢6名の根来組の半グレどもは気配を消しながら自宅へと近づいていくのである。


結城・尚美の自宅前の広い駐車場にやってきた半グレ集団、すでに手には忍刀や鎌などの刃物を光らせ自宅に飛び込もうとしていた。


だが、彼らの前には二匹の犬が立ちふさがっていたのだ、すでに気配を察して鼻にシワを寄せムキ顔をしながら犬歯がむき出しになり、耳がピンと立ち前に傾いてしっぽが上がり、毛を逆立って前足には隠していた狼爪ろうそうがニョキと飛び出し、低い前かがみの姿勢でその凶器である牙を剥き出しにして威嚇の唸り声をだしたのである。


「なんだ、この野良犬、番犬なのか、」と言いながら「クナイ」を得意とするカラスは紐の先につなげた先の尖った「クナイ」を黒虎に向けて、もう一人の

仲間が卍型の手裏剣を取り出すと赤虎に向けて投げつけた。飛んでいる鳥をも一発で落とす技をもった二人は、もちろんその二匹の犬の首をつらぬくことを確信していた。


ところが見事に赤虎と黒虎はそれをよけたのだ。それだけでなくその瞬間を待っていたように、投げつけてスキができたカラスの首に黒虎が飛びつき、もう一人には赤虎が飛びついてその凶器であるナイフのような牙で思い切りかみついたのである。角材をも噛み砕くその顎の力一撃でその首に致命傷を与えた。


二人は飛び込まれた二匹の体重の勢いで、後ろに倒れ込み声帯ごと首の肉が咬み取られ両手で首を押さえ血を思いっきり吹き出し、そこから「ヒュウ~ヒュ~」と肺の呼吸音をだしながら絶命したのだった。


二人が野良犬をしとめると確信していた他の仲間は、犬ごときと油断してそれを見ていた。カラスのそばに立っていた男はすぐに忍刀で切りつけようと構えたが、遅かったすでに黒虎はこの男に狙いをつけていてジャンプをすると、その前足の狼爪ろうそうでその男の両目をつぶした。赤虎も同じように隣の男の目を潰したのである。すべてが一瞬のことであった。目を潰された男二人は叫び声をあげながら地面で転がっていたのである。


二匹はまた家の前に戻り、返り血を浴びて口の周りが真っ赤になった犬歯をむき出しにして威嚇の唸り声をだしたのである。


あっというまに4人の手練れの仲間を潰され残された半グレの二人は、怒りまくってこの二匹の犬と本気になって対峙した


仲間をやられた頭の桐山右京は、目を吊り上げ頭に血が上り血管を浮き立たせ長官の暗殺の仕事も忘れ犬の始末をする事だけを考えていた。


「フクロウ、気をつけろよ~、こいつらはただの畜生じゃね~ぞ」


そう言うと、ふところから風車型手裏剣を取りだした、フクロウも鎖の分銅をグルグル回しながら狙いを定めていた、赤虎と黒虎はそれを見るといきなり結城・尚美の自宅脇の雑木林に向かって懸命に走り出した。後を追いかける右京とフクロウはそれぞれ手に持った手裏剣や分銅を投げるが、気配で右左とよける二匹、いつのまにかその口には、雑木林の地面に仕込んでいた忍犬用の特殊な両刃の「クナイ」の柄の部分を咥えて走っていた。


月明かりの中、虎毛は山野で狩りをするときの保護色となる特徴をもった甲斐日本犬の二匹は、いきなり交差するように右左へとお互いの位置を変えたのである。


追っていた犬の虎毛が変わった事にすぐ気が付かず、右と左に分かれた二人は自分が追っていた犬を見失って立ち止まったのである。それが狙いだった二匹は太い幹の雑林にジャンプすると、さらに幹に体重をかけて身をひるがえし咥えた両刃の「クナイ」を光らせ相手の首元をすれ違うように切り裂いた。


二匹が見事に着地すると、立ち止まっていた桐山右京とフクロウと呼ばれた首元からは「プシュ~~~」と噴水のような出血をして、そのまま倒れ込み絶命した。


赤虎と黒虎は二人を倒すと、口に咥えていた両刃の「クナイ」をポトンと落とすと、結城・尚美の自宅の屋根をじ~と見ていた。


そこには服部汐音と右手で犬笛を咥えた百地竜一が立っていたのである。そうだ百地竜一は服部軍団で一番の忍犬使いだった。


結城と尚美は家の周りいでそんな壮絶な戦いが起きているとは知らず、夜遅くまで起きていたが途中で寝てしまい、気が付いたらすでに朝になっていた。


そ~と玄関を開けて外の様子を見る結城、「姉さ~ん、大丈夫だ、誰もいないよ~」と言うと尚美と幸子ちゃんが安心して玄関からでてくると、そこにはいつものようにアカとクロが寝そべっていた。幸子ちゃんを見つけると尻尾を振りながら、『朝ごはんちょうだい~』と言う仕草で寄って来るのだった。当然いつものように尚美は無視され、”チェッ かわいくね~犬だな~”と思いながらそれを横目で見ていたのである。


すでに、襲ってきた根来組の半グレ達の遺体や目を潰された者は待機していた公安の清掃チームにすべて回収され、血のあとも綺麗にして何事もなかったように清掃して帰っていったのである。


その日の午前中には根来組と関わりのある”サクラ”からの情報で、根来組の半グレに暗殺を頼んだ国粋主義の鬼山誠天の政治結社・誠天会事務所を伊達鷹一警視率いる第一機動隊が取り囲み、警察は会長の鬼山誠天を今までの政治家への暗殺を指示した黒幕として逮捕した。


その日、立憲政友会事務所、結城の執務室に服部汐音がやってきて昨日の一件を報告してくれて服部家の最強の忍びが刺客を片付けた事を報告した。


正体を知らない結城は最強の忍びを勝手に想像して”猿飛佐助”、”霧隠才蔵”、をイメージして一度会ってみたいとワクワクしていたのである。







服部家の最強の忍びはいつものように、幸子ちゃんから餌をもらい、後足で立ち上がって喜ぶ振りをしながら前足でオッパイを触っている、相変わらずの”スケベなゲス犬”だった。







つづく、、、、







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