第120話 忍び女子服部汐音その3
帝都の夜、カラオケビヤホールで、三人の美女とちょっと太ったオジサンが一人はいりビールや料理を食べて楽しんでいた。
尚美
「プハ~、、やっぱり、冷たいビールは最高よ~、」
玲子
「あ~、このソーセージもプリプリで美味しい~」
「ゴク、ゴク、ゴク~、あ~おいしい~」とちょっと大きめのグラスに、残っていたビールを一気に飲み干し「あっ、店員さ~ん、おかわりちょだ~い」と3杯目のビールを頼む汐音
マサオカは女子の食いっぷりと飲みっぷりに圧倒され
「汐音ちゃ~ん、そんなに飲んでだいじょぶかい、酔っても、長官のお姉さまをお守りできるのか~」と尋ねると
汐音
「ヒック、ウエ~、大丈夫れ~す、お酒は~修行で~ヒック、鍛えていま~す。」
「尚美ちゃ~ん、こいつ、本当に忍び女子なの~、自分でそう思っているだけじゃね~の、おいらには、ただの酔っ払い女子に見えるけど~」
「よく知らないけど、いい子よ、結城が心配して病院の周辺や帰りの護衛をしてくれるけど、気を抜けないから大変なんでしょ、例の陸軍の皇道派の残党が
逆恨みで内閣の重鎮を狙っているみたいだし、公安警察の警備部門がそれぞれ大臣達に張り付いて警護しているのよ、結城も連中達からはすっかり有名人になってしまったからね、もう~、この時代は気に入らないとすぐ刃物をだして家族も襲ってくるから身を守らないと大変よ~」
「ヒック、私~、さっきから~、ず~と気になって~いるんですが~、尚美ネ~さんのそのレディースバックから、妙なじ~さんの、いやらしい声がするんですが、ネ~さんなんか取り憑かれてませんか~、ヒック、悪さはしなそうなんですが~、さっきからじ~と私と、玲子さんを~いやらし~目で見られている感じがするんですが~」
そういって尚美がいつも持ち歩く緊急医療パック(そこには愛用の外科メスが入っていた)を入れたレディースバックを指さしていた。
玲子
「え~やだ~、尚美になんか”スケベなジジ~”でも取り憑いているの~」
「ヒック、服部家は平安から続く陰陽師の家と関わりがあって、国の権力者を~、どうにかしよなんて思う奴らはヒック、「呪詛」の儀式をして呪い殺そうとしたり、ヒック、「物の怪 (もののけ)」を呼び出し人間に取り憑いて苦しめたり、病気にさせたり、死に至らせたりする事があるんですよ~、だから~、服部家の女衆はヒック、陰陽師の一族からその気配を探り、対策も教わっているんで~す 」
「フフフフ、凄いわね~、結城だけかと思ったら、汐音ちゃんもこの”安じ~”のことがわかるのね~」そう言いながら、レディースバックから緊急医療パックを取り出し中から一本の外科用メスを出すと汐音に渡した。
「キャ~、やだ~聞こえるわ~、スケベなじ~さんが喜んでいる声が~、玲子さんも聞こえませんか~」そう言って玲子にそのメスを渡すと
「な~にこれ、勝手にバイブレーションしている~」
「まじか~、どれ、おいらにも触らせてくれよ~」と玲子から外科用メスを受け取るマサオカ、しかし何の反応もしない
「あれ~、なにもうごかないぜ~」
それを見たは尚美「それは~”安じ~”が若い女の子に触ってもらって喜んでいるのよ」
「なに~、私と玲子さんの血がみたいだって~、この”変態じじ~”、懲らしめてやる」、”安じ~”の言っていることがわかった汐音、右手の人さし指と中指を伸ばしてくっつけ残りの指を握った「刀印」を作り胸の前で何度も空を切りながら「ナウマクサマンダ~バザラダン~センダンマカロシャダ~ソワタヤ~~~」と突然に呪文を唱え始める汐音
「キャ~」と玲子が叫ぶと、その外科メスが小刻み震えてテーブルの上でバタバタと苦しそうに動き出した。
「ちょっと~、やめなさいよ~」と汐音の口を右手で押さえて外科メスを左手でもつ尚美
「こいつは、私の守り神だからその辺の悪霊と違うのよ、退治はしなくていいから」そう言って”安じ~”を、大事そうに医療パックにしまう尚美
「え~、でもこのすけべな”安いのじじ~”何と言ったと思います、”儂は玲子ちゃんと汐音ちゃんの血が見たいな~お願いだ~ちょこんと刺してくれ~”て言ってたんですよ~」
「あ~、最近は若い女の子の手術はしてないからね~、こいつ欲求不満かもしれない」
すっかり話についてこれないマサオカ
「ちょっと、ちょっと~、おいらついていけないんですが~、なにかいその尚美ちゃんの外科用メスに、”スケベなじ~さん”が取り憑いていて汐音ちゃんはその声が聞こえると言うのかい」
「さっき、テーブルでブルブルしてたのは、手品じゃなくてその”じ~さん”が暴れていたのかい。」
しかたなく事情を話す尚美
「もお~、面倒な話なのよ~、そのスケベ~なじいさんは、300年前の戦国時代の剣豪で片山久安と言う人物なの、居合の達人で奥義の技までもっていて、その久安が亡くなってから自分の愛刀に魂が取り憑いたのよ、それが偶然に、私が手に入れて大事にしていたのよ。」
「え~、それはすげ~じゃねか、戦国時代の剣豪だぜ~、でもなんで~刀がこんな小っちゃくなったの~」
「そこを話すと長いのよ~、う~ん、あの代官山のヤクザの抗争のこと知っているかな」
汐音
「知っていま~す、凄い事件でしたよね~一人の剣豪が、関西ヤクザを何十人も倒した事件ですよね~」
尚美の話し方ですぐに悟ったマサオカ
「え~、ひょっとして、それって尚美ちゃんがやっつけたの~」
「そうよ、この戦国の達人が私に取り憑いてその奥義の技で倒したけど、最後に銃の弾丸をはじいてボロボロになってしまってその残った刃で作ったのよ」
「銃の弾をはじくなんて、すげ~話しだぜ」
玲子
「こら~、マサオカ、絶対、ラジオでこの尚美のじじ~の話しをするなよ~、お前はなんでもしゃべっちまうから、油断できないから」
「エ~、こんな面白い話しみんなに聞かせてじゃね~かよ、」
「だめだめ、みんな怖がるでしょ、喋ったら、我が家出入り禁止よ~」
「はいはい、わかりました出入り禁止はきついから、喋りません。」
その剣豪の片山久安の話しを聞いた三人は、またビールを浴びるように飲み始めソーセージを口にほうばるのだった。
ひとしきりビールとソーセージを楽しんだ4人は店を出て、暗い通りを千鳥足で歩いていると、その後ろには店からついてきた怪しい背広姿の三人組、さらに柱に隠れている一人が気配を消して様子を見ていた。
汐音
「尚美ネ~さん、ちょっとやばいかも、、」
鈍感な尚美「え~、ヒック、何が~」
「皆さ~ん、刺客がついてきていま~す、ここで倒しますから、その壁に集まってくださ~い動かないでくださいね~」と幼稚園児に言うようにして、酔っぱらっている三人を近くの壁を背に集めて、その前に立つ汐音はいつのまにか酔いもさめて、真剣な目つきにかわり、上着から隠していた忍び刀を取り出し右手で横に構えた。
暗闇の中、相手が隠していた刀を抜き刀身が光っていた。汐音が素早く動きだした、右手に持っていた手裏剣をけん制で投げると、油断した相手と刃と刃がぶつかりあい火花が飛び散り”カキーン、カキーン”と音がしてバタン、と人が倒れ”うっ”と呻く声、二人を倒し汐音が三人目と対峙すると、”ピュー”とどこからか吹き矢が飛んできて相手の首元に刺さるとそのまま倒れてしまった。
柱に気配を隠していた男が汐音のそばにかけ寄ってきたのである。
「百地遅いじゃないの~見てないで早くきてよ~」
「お嬢、すんませ~ん、この間は”早く出すぎよ~”と怒るし遅くてもダメなんすね~、兄貴に変わって、お嬢の側つきになってまだ2週間ですよ~かんべんしてくださいよ~」
襲撃者に初めて襲われた三人は、すっかり酔いが覚め口を開けて汐音の強さに驚き、あとから助けにやってきた覆面の男を叱る汐音と、男の言い訳につい笑ってしまうのだった。
そこへすばやく黒塗りの公安警察のワゴン車が二台とまり、一台に昏睡した襲撃者三人を放り込み走り出した、汐音がもう一台の後部座席の扉を開けると「尚美ネ~さんに玲子さんそれとマサオカさん今日はごちそうさまでした、どうぞ、これに乗ってください送らせてもらいま~す」
そういってワゴン車の後部座席に、手際の良さに驚いていた三人を乗せる汐音、自分は助手席に座り、「百地、行くわよ~」と言うと「へい」と答えて運転するのは先ほど助けてくれた、服部三人衆の一人、百地三太夫から数えて11代目の子孫の次男で百地竜二だった。
「あれは長官のお姉さんである、尚美ネ~さんを襲いにきた刺客です、陸軍の皇道派の残党で軍を追い出され逆恨みで襲ってくるんですよ」
「連中を支援している、組織や団体があって奴ら、この帝都でなんかデカい事を皇道派の残党を使ってやらかそうとしているみたいなんですが~、口が堅くて、白状しないんです~、さっきの連中が何か知っていればいいですけど~」
後ろに乗っていた三人はこの可愛い顔した汐音の裏の顔にビビりながら、マサオカが「し、、汐音、ちゃん、、ああいう、連中は最後はどうなるんだい」
「はい、一応、山がいいか海がいいいか希望を聞いてあげま~す。」
”えっ!、なんのこと”と聞けなかったマサオカだった。
つづく、、、、