第3話 恋愛と性欲の哲理
まとめています! お待ちください!
「私ぃ、そういう人って嫌いなんだよね~」
……俺は彼女の好みのタイプからズレているのか――ああフラれてしまった。
断っておくけど、そもそも彼女とはオンオフ問わず面識があるわけでもない。会話もしたことない。そういう具体的な人間関係が始まってもいないのにフラれたと表現するのはどういう了見なのか?
つまり俺と彼女はなんなのか? これは一体どういう状況だ? それは――
「今日も配信見てくれてありがとうー! それじゃあバァーイっ♡」
カタカタとキーボードを打つ。
バァーイっ。と。
これが最後のバァーイっ……になるのかな……
……お分かりいただけただろうか?
俺と彼女は、視聴者と配信者。そして俺はツヒッチ というプラットフォームで彼女のリアルタイムの動画音声の配信を魔術網→魔術机上個人計算機→魔術展示機を通じて観ていた。
いろいろ、香ばしいような言葉を並べたように思うけど、君の世界にも似たようなものがあるだろうから詳しく説明しなくても分かるよな?
これは余談だが。この世界の非自然的な装置や機械の類の頭文字にはこの国言語で、やたら魔術とつけられる。そして横文字にどこぞの国の読み方が振られている。どういう理屈でそうなっているかは詳しいことは俺は知らない。俺の住んでいる世界は分からないことだらけだ。
分かっているのは、管理塔という組織だか団体と呼称される何だかがそういうことを取仕切っていると言われているということ。管理塔とはこの世界をざっくり掌握している何かの集まりだといわれているが詳しいことは謎。質問しないでくれ、むしろ俺が問いたいぐらいだ。それにしてもなんだよ、カンリトウって。かりんとうみたいだな。シュガーたっぷりで食べたら甘くて美味しいのかね?
時刻は深夜の12時頃。彼女がいつも配信を終える時間だった。
「好きだったんだけどなあ」
俺は自室でふと呟いていた。
さきほどの配信は、雑談配信だった。視聴者がコメントを送って、それに対して彼女が反応するという具合だ。
普段はゲーム配信が多めなのだが今回は雑談配信だった。そして視聴者のコメントの流れ的に彼女の好みの異性のタイプは何か? また嫌いなタイプは何か? という話題になって、後者の嫌いなタイプについてことごとく俺がハマっていた。
「私の配信見ている人は、みんなそうだと思うけど、陰キャは嫌い~」
これ俺じゃん。
「ゾックスでエロイラストばっか見ている人、無理ィ~」
これ俺だ。
ちなみにゾックスとは魔術網を通して、端的な文章や動画や画像などが投稿されたりそれ見ることできるサービスだ。以前はツバッターと呼ばれていたが、いつからか名称がゾックスになった。まあこれの詳しい説明も野暮だろう。君の世界にも似たようなものがあるだろうから詳しく説明しなくても分かるよな?
「髪型がダサいのも嫌ぁ~」
これは俺だ。
一時期ワックスをつける髪のセットに挑戦したことあったけど難しかった。そこで上達するまでいじり続けるというのも面倒くさくて止めたんだよ諦めたんだよ。
つまらない過去を思い出してなんだかネガティブになってきたかも……
「親のスネかじって生きるだけのニートもダメ」
……これも俺だ。
――こんな経緯があった後に、冒頭に繋がる。
「ああ。俺は彼女とは不釣り合いな、弱者男性でダサい社会不適合者なんだな。だから……これって負けたってことだよな」
しみじみと、俺は彼女の隣に居るには相応しくない人間であり、ついでに社会的なゴミであるということについて認めて、それらを総括した後、敗北感を覚えていた。
ずきずきとひりひりと心が痛んでいた。間接的にだが、自分の存在を否定されて拒絶された。それがどうしようもなく悲しくて、むさくるしい男の涙を流していた。
「好きだった……たしかに好きだったんだ。でも。彼女、俺……」
ところで。
配信者と視聴者。どちらかというと配信者の方が有益なコンテンツを提供している時点で格上。視聴者は配信者物資的な支援ができたりそのコミュニティを盛り上げるようなことに貢献するし視聴者がいない配信者は誰にも価値を提供していないことになるので一見視聴者あり気のような感じもしなくもないが、本命は配信者だ。配信者を支援できる視聴者の代わりはいくらでもいるがその逆はないから。コンテンツを提供して支援者を集めれる配信者投稿者という存在は実に偉大だ。
そんな立場差のある俺と彼女だったから土台、恋が実ることなんてほとんどありえなかったのだけど。でも万が一に恋が叶う可能性もあるだろ! みたいな宝くじ精神もまた捨てきれなかったんだ。
そういう感じの自分は、ダメ人間であることは分かっていたつもりだったが、こうも自分の推しに己の存在をボロクソに言われるような真似をされると、あらためて傷つく。
「ああいう男は4んで欲しい! 気持ち悪いし、いらない!」
たとえ否定されて拒絶されても、彼女になんらかの形で尽くし切ることも愛の形だ、という意見もあるかもしれない。
そこで想像してみよう。たとえば。
彼女が俺の顔を見て不快そうにしている。そこで俺が笑いかける。
大丈夫だよ? 俺が守ってあげるからね?
そんな状態で俺に対して彼女が好意的なリアクションをしてくれるだろうか?
……そんなわけあるか。勘違い男も甚だしい。自分で自分が気持ち悪いと思う。そもそも相手が俺のことを避けている自覚が足り無さ過ぎるんじゃないか。絵図が酷過ぎる。
俺は彼女を愛す資格も愛される資格も失ったと思った。
なぜなら俺は彼女に存在を否定されているから。そしてなにより――
「これ以上、彼女の配信を観たら、俺の尊厳が傷つけられ過ぎて、頭がおかしくなってしまうかもしれない」
俺は自分がこれ以上彼女の配信を見ることでメンタルに傷を負うことに耐えられないから。
要するに、彼女に尽くして幸せにさせるよりも自分の身の可愛さを優先したかった。 そんなエゴが本位の人間が誰かを愛して幸せにできるのか、自信もなかった。
「はは。いっぱいサブスクしたんだけどな」
……次回からの彼女の配信を観るなんて到底無理だった。
しかし疑問というか違和感があった。
これまで何の不自由もなく配信が観られたのに、今回に至ってなぜ配信の話題の流れがそういう俺のような人間をあたかも排他するようなものになったのだろうか? なんというかちょっと急過ぎる気がしたのが釈然としないというというか。
何が原因でこうなったのか分からないことがモヤモヤする。
思いつくのは――
近頃、変にコメントやサブスクを送り過ぎたことで彼女やコメント欄を刺激したのが関係しているとか? たしかに何か彼女やコメント欄を直にではないが遠回しに否定するようなコメントを打ったこともあったような気がしないでもない。俺は性格的に八方美人的というかどっちつかずなところがある。あるいは、その場の勢いで、コメント欄の流れが悪いとそこをフォローするようなコメントをしたり、逆に彼女がネガティブになっている時には優しくするようなコメントを打つ。究極的にはどちらの味方をするわけではない思わせぶりな態度をする感じ。
このその場の勢いでコメントしたり行動する、というところが難点だ。
優先して助ける必要があるのは有象無象の視聴者よりも限られた存在で有益なコンテンツを提供してくれる配信者だと思う。
一見誰に対しても平等に接しているような模範的な人間にみえるかし知れないが、それでは問題がある。
さまざまな力関係や派閥がある俺が生きている環境では、誰に味方するか誰が味方なのかでそこで発生する精気の流れの行き先が左右される。運気ではなく精気というところがミソだ。運というのはどんな文脈で使われるかで定義が異なるが、基本的には、知識や技術や試行回数などによって改善できそうに見える一方で、運というのはいくら工夫しても覆せないほどのランダムや確率という制約がある魔境な要素だ。しかし精気というのは違う。精気とは、人に内在するものと場に滞留するものがある。どちらも単純に気と表現することもあるが俺は本来の精気という表現を使う時が多い。精気が滞留している場は、霊脈やパワースポットなどと呼ばれることもある。
その精気の話と誰とつるむかの話がどう大切なのか?
それはその精気の流れが悪い関係性などがあると、死にやすく不幸になりやすくなるというルールみたいなものがある。弱かったり悪い相手の関係性を持つことは損する、転じて、格上の配信者と格下の視聴者のどちらもフォローすることは、いわば関係性の利が対消滅するかネガティブを受けることを意味する。
ついでにいうとじゃあ配信者は視聴者との関係性を築いているのになぜ不遇にならないのか? 弱い相手とつるむのは精気の流れが悪くなることではなかったのかという意見。どういうことかというと、それは彼らがコンテンツを作って世界に提供することで、より良い精気の流れを自ら生み出すことができるから。世界にポジティブな状態で、恩恵をもたらすものは世界から恩恵をもたらされる。ただ単純に世界に恩恵をもたらすだけではダメで、自分の心身がポジティブな状態で世界に貢献することが大切。自己犠牲をしてまで世界に貢献して金銭や高級な環境を得たところで幸せにはなれない。楽しく世界に貢献する彼らはたとえ格下の存在と絡んでいたところでそれを上回る恩恵ないし精気を得ることができる。
……等々の知識をどこかで習った。義務教育だったか独学だったかは覚えていない。
別の次元ではこの手の内容は習ったりするだろうか?
ともあれ。
そんな問題があるだけで? なんか妄想的というか下手に考え過ぎていない?
社会や職場というエリアから断絶されて買い出しくらいにしか外出しない。ほとんど他者と接触しない閉鎖的な生活を送っている。そんなニートの俺の脳の機能は貧困らしく、うようよと硬い思考を回遊させているように見えた。
そしてわだかまりもあった。
彼女との関係が終ったことが悲しかったこと、彼女に送った金銭類すらもはや意味がなくなってしまったこと。何が惜しくて、あの涙が流れたのだろうか?
◇◆◇
「俺の名なエイヨ。精気が減少している! 宇宙のどこぞから、いま、淫魔の軍団が向かっているのだ。急げ、露店へ! 精気が……あぶない!」
いきなり。
おまえはなにを言ってるんだ。
誰か説明してくれよ。一体、何がどうなってるんだ?
って感じだよな。
雑に説明するこうだ。
俺には持病みたいなものがある。それは呪い。そしてそれもたらしてきているのは淫魔。俺の精気を啜って俺の人生を不自由にするという呪いだ。今の段階ではまだ劇的な対抗策は見つかってない。悪あがきだが露店などで栄養が少しでも良さそうな食べ物を買ってそれで精気を回復させようという寸法だった。最近は精気を回復しなくて単純にダルさが髙かったので割と急務な感じでもあった。
心身のダルさがあって行くまで難儀だったが、そこは独り言で鼓舞することで事無きを得た。
「チヌセーフは――まだ吸精には効かないがそのうち効くようになる」
チヌセーフとはさまざまなリラックス成分を含んだ飲料だ。お酒では無い。
「ェ。ェ」
「声が出てないな。もっと食べて元気になってくれ」
露店でチヌセーフとつまみとあるものを買ってから、人通りが少ない某所にてある存在と密会をしていた。
野良猫だ。キジトラのメス猫。
これより以前のある時の露店の帰りの道中。変な音がしたので、好奇心に従って、進んでみたら、そこにその猫がいた。妙に人懐っこく、近づいてきたので、いったん露店に行って猫が食べそうなものを買ってからそこへ戻ってそれをあげたらほくほくと食べてくれた。
それからというもの、時折このように密会をするようになった。
野良猫に餌をあげるのは衛生面とか世間体とか猫嫌いな人には良くなかったり、色々と不都合があるので、こうして人目がないところで会っているというわけだった。
どういうわけか、この猫は俺が来るときを察しているような節があって不思議と毎回出会えたのだった。
どういう縁なんだろうな?
そして、後にこの猫が俺に予想外な助けをしてくれたのだが、それはまた別の話。
「猫にこんなに色々独り言って寂しいなあ……では。今回のエサ、それで満足してくれよな。じゃあ俺はそろそろ行くね。やることがあるから」
「ェ、ェ」
「あいかわらず声が出てない……またね」
俺は露店でレジ支払いチャージ式プリペイドカードにウォレットを入れていた。
その目的は――
◇◆◇
エロゲを買った。
魔術机上個人計算機用のやつ。
文章を読みつつ登場人物のフルボイスのセリフを聴きながら、提示される選択肢から決めて、最終的に女性とイチャイチャする。――という恋愛を擬似的に楽しむゲーム。
……なぜか? 愛が欠乏していたんだと思う。
いや、あるいはエロか?
どちらでもいい。
俺は腹が減っているだけなんだ。
精神的な腹が。情緒的な腹が。恋愛と性欲の腹が。
単純にエロコンテンツを見て、自分の下半身を即物的に慰めるだけでは満たされない。
俺は既に色んな意味で手負いの獣だった。
とにかく誰かに何かに、この不健康な心を満たして欲しかった。
理想を言えば、大人のデリバリーな遊びを呼んだりとか石鹸みたいな名前の店に行きたかったが、手持ちが足りな過ぎた。あるいは魔術網の某マッチングサービスを駆使して異性と関係を持つという線もあったかもしれないが、臆病な俺は戦々恐々して、その選択肢は取りたくなかった。仮にサムネと実際の顔が違うモンスターみたいな女性が出てて来られるのも嫌過ぎる。とはいえ、そもそもどんな女性が出てきたところでまともにコミニュケーションできる甲斐性もないけど。とにかくその選択肢は無かった。
そこでエロゲ。
とくにゾックスなどでエロイラスト漁るような俺には、二次元のスケベな美女のイラストを見つつ自分の下半身を慰めることにとても刺さる。俺の趣味にドストライクだった。
というかただ下半身を満足させるだけが目的ではない。
心とか情緒。そういう肉欲的なものではなく、形のない内面的なものを満たしたかった。
ただ下半身の欲を満たしたいだけなら大人の動画を観てやることをやれば良い。でも今の俺には、それだけで満足できる状態ではなかった。ついでにいうと書籍やマンガのような読み物媒体ではなくエロゲを選んだのは、キャラクターの背景を深く掘り下げる要素やシチュエーションのボリュームが欲しかったのと魅力的な女性のボイスがあった方が没入感があるし単純に興奮して嬉しいから。
ひとえに渇望。
そして俺が選んだエロゲのタイトルは――
『恋愛と性欲の哲理』
エロゲ特有のポップでキャッチ―な要素のかけらもない、超堅物かつイロモノだった。
でも今の俺にはぴったりだった。
彼女との関係が途切れていったことで流れた涙の理由を知ること、諸々の欠乏したものを補うこと。
それに至るためには、哲学とエロが交差したこのコンテンツに触れるに限る。
――我が魂のために。
ゲームスタート。
◇◆◇
エロゲにて。
主人公「結局、俺の君に対する感情って、愛情よりも性欲な気がするんだけど、君はそれでも良いのか? それで満足するのか?」
ヒロイン「かわまないよ! そんな風に私をすさまじく求めてくれることも、最高の愛情表現のひとつだと思うんだ!」
主人公「……愛情ってさ、ためらわず誰かに尽くすことだと思っていたんだけど、誰かをすさまじく求めることも愛情であると。それってさ、ただの承認欲求みたいなもの満たすためだったり、エゴじゃないのかな? 何か邪なものの気がするよ」
ヒロイン「難しい問題だけど。あなたが私を求めてくれることは、私の存在を認めてくれてるってことだから、決してエゴじゃないと思う。そこで逆に承認されたかったりするのも、たとえ自分の欲を満たしたいためでも、その過程で私に対して良いことをしたいってことでポジティブなことだよね? もしそうなら、私に対して罪悪感を持つ必要はないと思うけどな」
主人公「そうか? 俺から君は利用されているだけかもしれなくても、俺から君は認められていると判断できる?」
ヒロイン「うん、間違いなく認められるよ。ただの道具として扱うんじゃなくて、私の心まで大切にしてくれるのが伝わるから」
主人公「たしかに。ただ君を道具として扱うだけじゃなくて、多少の優しさというか配慮みたいなもののかけらは君に向けているか? あるいは今まで君に抱いていたこの罪悪感みたいなものある分がエゴじゃないみたいな感じだろうか?」
ヒロイン「そういう風に葛藤しながらも、理性を保とうとする優しさが、エゴとは違う”愛”なんだと思う」
主人公「そう? あのさ。俺は曲がりなりにも善良で模範的であろうとする気があって、真面目系クズな性格があるんだけど。そういう理性的な自分で在りたいというのは独善的な自分を隠したいという下心なんじゃないかな? 結局はこうやって君の前で贖罪するような真似をしている時点で、しょうもないというかあんまり褒められた人間じゃな気がすると思うが」
ヒロイン「そうやって自分で自分を見つめようとする姿勢こそ、誠実さの表れだと思うよ。私はそういうあなたも好きなんだよ? だから、もっと私への愛について自信もって欲しいよ!」
主人公「まだ釈然としない。あるいはニワトリと卵的な話なのかな? 理性的で在れば在りたいほど良い人になりたいと思うから模範的で合理的な人間で在りたいと思って、それが高じると、そんな誰かに優しくするだけで自分にとって価値を生み出せないような姿に自己嫌悪を感じ始めて、そんな自分で在りたくないという思った結果、独善的な自分が追ってくるみたいな感じ、で。だったら逆に独善的な自分を肯定すればするほど究極的には自分を大切に扱いたいと思って、それを達成するためになんだかんだで他者に優しくする交流が必要になるから、結果的に理性的な自分が顔をだしてくる感じ。みたいな? 迷走してきな気がする……結局この問題って一体なんなんだろうね?」
ヒロイン「強情だね。でも難しいかな。あのね。迷いながら正解を出そうとする君の姿は、すごく人間らしくて素敵だと私は思ってるからね!」
主人公「そうか。君に言われて気がついたよ。俺は君を通して答えを知って納得したかったんだ。スペシャルで絶対的なやつがさ……」
ヒロイン「なんだかあなたが潤って元気になってくれたみたいで私は嬉しいよ!」
――――
うお! このヒロインめっちゃ俺のことを肯定してくれる! ぐわあああああ。
今こそ、このギンギンの下半身のジョーを解き放つ時! これで今日は4回目になってシたら激疲労を起こすだろうが構わない! イクぞッ!
ジイオウエイヨー!!
「俺が最強の自慰王、EIYOだ!もう一度やるか」
このエロゲ―を通して果たして――
何を学んだというのか?
あの涙の理由を知ることができたといえるだろうか?
心身の傷を癒せただろうか?
総括して、己の魂のための行動がどれだけできたといえるか?
◇◆◇
つまり。
学んだこと。独善っぽさと理性っぽさは因果がループする関係っぽくて、ある閾値を超えると反転するものでその指標自体がアテになるかは現段階では微妙な感じか。愛とはすさまじく誰かを求めるものでも良いが、いずれの場合でもその誰かに対して自信をもって愛することが必須であり、そう接すことが相手を喜ばせることになるので良い感じになる気がする。すさまじく求めて愛するために悩み、悩むことですさまじく求めて愛する……? そんな言い訳するみたいで自己陶酔的になるのは何か釈然としないが、今はこの見つかった答えに納得しよう。
あの涙の理由を知ることができたといえるだろうか? これは後に語る。
傷を癒せたか? これは後に語る。
総括して、己の魂のための行動がどれだけできたといえるのか? これについては――
「ふぅ……新たなる哲理の深化、そして魂のために、次回作をポチっておこう」
10点満点中2~8点ぐらいの間隔の感じで。
おそらく。別の新しい趣味や世界を開拓できた。そこで何らかの手応えがあった気がした。そうして己の魂のより良い場所に運べたように思えた。何らかの形で役立ったように感じられた。
◇◆◇
いつかのどこかの誰かの魔術展示機に映るあの彼女の配信にて。
「やあだーっ! やあだーっ! 最近、同接少なくなったー! もう、陰キャでもエロイラスト収集マンでもダサい髪の人でもニートでも良いから来てよーっ!」
そして場所が変わって俺の部屋。
「うおw このエロゲのフィロソフィカル過ぎるwww バカがよぉwww 天才過ぎるwww」
『恋愛と性欲の哲理』をクリアしてから次々とエロゲに着手していった。
彼女によって傷を負い心の拠り所の一つを失い一時的に欠乏感を味わった。
それは俺にある知識に対する貪欲さをもたらした。
いってみれば、こういうことになる。
最高の愛とは? 最高のエロとは? それらの要素にどのような折り合いをつけれると人は最高に心身を幸せにできるのか? そんな探求心みたいなものが芽生えた。
俺の野生動物的なエロへの特化的な執着は、曲がりなりにも人間らしいものへ昇華されたといえるのではないか?
俺の魂が求めるもの。それはきっと哲理の造詣を深めた先にある。
でも何か。決定的で致命的に忘れていることがある気がする。いやなんというか、色々と気にする必要があることは大なり小なりあったり、あるいはさまざまなことを後回しにしているような突っかかりみたいなもがある風に思うんだけど。
それら以前の何かについて、見落としてしまうと俺を形成する根幹が揺らいでしまう的なヤバい感じのものがあったような。
これってなんだっけ……?
◇◆◇
ある時。エイヨ君が普段通りに過ごしている。その背後にわたしが忍び寄る。
きゅらららん♡
「わたし、さんじょー! 元気にしてたぁ? エイヨくぅーん!」
といってもこの声はエイヨ君には聞こえないよねえー
わたしにはそういうことを可能にするステルススキルがあるからぁ。
「それじゃあ精気を頂いちゃうね? ふむふむ。今回の分は……そっかぁ? 推しに傷つけられたことが転じて自分の内面的な進化に繋がったんだ。その結果、精気の増大に成功したんだね? 良かったねぇ、良い夢が見れて。でも残念、その夢はここまで。わたしは、死に損ないの虫みたいに頑張って頑張って生き残ろうと足掻いて結局は無様にくたばる、そんな人間の姿を見るのが好きなんだよねえー 頑張って頑張ってあと一歩で成功するというところで、それをスポイルする。ああ、なんて滑稽なんだろうねぇ? その最高の絶望のために、生かさず殺さず、泳がせて泳がせてぇ…その過程では精気生成機という養分にしてぇ、出がらしになったらポイっ! ああ、そこでエイヨ君は言うんだよ…”淫魔に養分にされるだけの人生だったなんて思いたくはなかった。これまでの俺の人生は一体何だったろう?” って! うぷぷっ! 笑っちゃうよねぇ! あは! エイヨ君の今のウキウキを壊せると思ったら楽し過ぎて前振りが長くなっちゃった。挨拶もそこそこにして、吸精始めますよ!」
わたしは、夢中でエロゲ―の映像が見える魔術展示機に食らいついているエイヨ君の前方まで移動する。そこまでしても彼は私を感知できない。そして私は非物質存在にもなれるから魔術展示機が置いてある机や障害物などを透過してポジショニングできる。わたしは右手をエイヨ君の心臓あたりにそえる。
「ドレイン、スタート♡」
「ぐわああああああ。思い出したあああああ。俺は淫魔に呪われているんだったあああああ。こんなことをしたところで。やつらに俺の喜びはああああ。うばわれるんだったああああ。そこに今、いるんだなあ? 淫魔めえええええ、できれば今回は控え目にしてくださああああい」
「ダメです♡」
「グッグアー」
「今日はしぶといねぇ。ああ? 哲理に関する記憶が君の精気を強く心身につなぎとめているのかぁ。あんまり元気過ぎてもつまらないよ。じゃあ、その記憶ももらっちゃうから。パク―!」
◇◆◇
「はっはぁ…… うっ? 俺、魔術机上個人計算機を触ったまま寝てたのか? なんか妙に疲れている感じもするし頭も痛いな。最近の疲労のせいか? それにしてもなんだこの画面? 俺は何かゲームしていたのか? こんなゲーム入れた覚えはないけど。ウイルスか? もっと良いウイルス対策ソフト入れなきゃダメかなー? とりあえず普通にアンインストールできるか試してから決めるか」
その画面には黒い装束を着た少女がいて吹き出しで”ゲームオーバー♡”とあった。
◇◆◇
それから時が過ぎてある日の夕方。
今日もコンビニ帰りにジトーさんとイチャイチャして癒されたなあ。
チヌセーフも買ってきて準備完了だし、いつもの通りエロイラスト見ながらキメてイくかあ――って?
「農婦さん、来ていたんだ」
「うん。そろそろ淫魔に私の精気をあげる周期だから」
雑におさらい。
農婦さんも俺と似た被害者だった。違うのは、俺は呪いを受けたが農婦さんはスキルレベルや能力値と心身の慢性的な疲労感をもたらす淫魔からの吸精。この問題は世界的に発生した淫魔パンデミックと言われることになった、その一つだ。ただ農婦さんには俺の呪いと比べて救いがあった。農婦さんの場合、淫魔に彼女の精気を一定周期である期間に与え続けることで、吸精の強度を弱めたり最終的にはそれ自体も停止してもらうような取り決めがされている。なぜ農婦さんだけは俺の呪いと違って、淫魔から解放されることが約束されているのか。それは農婦さんの精気は淫魔たちにとってとても美味で特別なだったであり、そこで彼らはとにかく早く美味しい精気が欲しくなったので、たとえ期間限定でも良いから早く精気を農婦さんに提供させるように決めた、ということらしい。そしてその仲介にはジトーさんが関係している。
そういう問題を抱えた農婦さんは何だかんだで俺の元を訪ねてきた。なんでも彼女の目的ないし夢を叶えるためにシンパシーする俺とコンタクトすることは都合が良いことらしいかった。
農婦さんは、自分の夢を叶えることと主な仕事である農業で働いて衣食住を満たすために、スキルを使えるようにする必要があって、そのために精気を賄う必要がある。その農婦さんの精気を賄う方法が――男女の交わり。ライトなやつでも良いから二人でねんごろになる、というものだった。
「おいおい。”あげる”なんて雑な言葉を使って良いのか? ””献上する”って丁寧な言葉を使わないと短気な彼らがイラついて何をしでかすか分からないぞ? どこで俺らの会話を聞いているか知ったもんじゃないし」
「いいよ別に。貴重な私の精気をみすみす失うほどの真似なんて彼らにはできないんだから」
「強気だなあ。えっと、じゃあ今日もするんだな?」
「うん」
「あれやると疲れるんだよなあ。まあ、農婦さんとねんごろになることで、俺にも精気のバフがかかって一時的には元気になるのだけどその後がね。その精気も結局、淫魔に吸われるから、元の木阿弥というか。そういえば。以前言ってた農婦さんの精気や経験値を譲渡することで俺を活かすというプランについてはどうなったんだ?」
「あーね。図書館とかネットで文献を調べてみたし今までエイヨさんと色々なプレイをして解明しようと思ったんだけど無理そうだった。あるいは骨を吸わせることが可能か探してみたんだけどそれもできなさそうだった。ネトゲみたいにはいかないみたい。調べて分かったのはエイヨさんの呪いには前例とか無い、もしくはそのデータは抹消されている可能性がありそうってぐらいかな」
「そっか。それにしても骨を吸わせるなんて猟奇的なことを発想したもんだな」
「えっ、何か勘違いしていない? もしかしてその表現って既に死語だったりする? ジェネレーションギャップってやつ? 私そんなに齢とって無いんだけど。なんでもいいや、早くシようよ」
「農婦さん。あくまで精気の献上のために来ているんだよね? なんかただヤリたいだけの肉食系のビッチみたいになってない? そういう乱暴な感じなのはとても疲れると思うのでほどほどに――」
「はいはいー! 怯えない怯えない! 分かっていると思うけど。今まで、お互いの大事な部分を直にドッキングさせたわけじゃないじゃんね? オーラルな感じでプラトニックなやつだけじゃん? そんなふうに今回も優しくしてあげるから、さっさと私に喰われろ!」
ベッドを背にする俺に農婦さんが押し倒すように来る。
その拍子に、床に平積みした本やゲームソフトのパッケージ版の箱が、ベットに倒されて無様にマウントを取られている俺の頭の横にまで飛んでくる。
それに農婦さんが気づく。
「うわあぶな! 私の頭に当たるかと思った。えっと、これゲームの箱? このDL販売が主流な時代にパッケージ版とは古……」
農婦さんがパッケージを凝視する。
「18禁?」
パッケージが裏返される。そこにはあられもないヒロインの姿がある。
「彼女たちと恋愛と性欲の哲理を探求して最高の幸せを知ろう! そしてその後は、身体を重ねてムフフ……? なにこの昔の言葉選びと下手な訳みたいなテイストは。エイヨさんってこういうものに興味があったの?」
「いや。俺にもこれには全く覚えがなくて……あれ、哲理? ――思い……出した! そうだ! 農婦さんと俺との関係には何か足りないって思っていたんだけど、哲理だよ! 今まで農婦さんが淫魔に精気を献上するために何度も身体を重ねてきたのにどこか満たされない感じがあったけど、その答えが分かった。哲理の造詣を深めることで、恋愛やエロについて極めたかったんだよ。つまり俺たちの関係には哲理が無かったから、俺はどこか冷めてたんだよ。よし、これからは恋愛と性欲の哲理を進化させる手段としてその手のエロゲを貪りながら農婦さんとちんちんかもかもするからね! さあ、おいで!」
「え……何いきなり? こわ……というかキモ。恋愛と性欲の哲理……? よく分からないけれど。何か勘違いしていそうだから言っておこうと思うんだけど」
「ああ! なんだい? 恋愛と性欲の哲理に燃える今の俺はきっとお互いが納得する交わりができるようにするからね!」
「恋愛によって感じる興奮やときめきというのは、種の保存のための仕様でつまらない錯覚みたいなものでしかないからね? 恋愛と性欲の哲理とかなんとかを極めれば幸せになれると思っているかもしれないけれど、その先には幸せはないと思うよ。その感情は一過性のものでそもそも幻みたいなものなのだから、期待したら後でがっかりすることになると思うよ」
「えっ……? 恋愛と性欲の哲理は、俺にとって最強のものだと思っていたのに、それはまやかしだったというのか? だったら……それじゃ……俺は何を縋れば良いんだ? 何を信じれば良いというんだ?」
「それは教えてあげる。私もまだ道半ばだけどね」
こうして俺はこの先から恋愛と性欲の哲理を超えるものをレクチャーしてもらうことになるのだった。
お読みいただきありがとうございました!
「楽しかった!」
「次の話が読みたい!」
「まだまだ読みたい!」
と感じ取られましたら
下にある☆☆☆☆☆から、ポイントを入れられて作品への応援になりますので、お願いいたします。
面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ。正直に感じた気持ちでOKです!
ブックマークもいただけると作者の支えになります!
ぜひ、よろしくお願いいたします。




