1 農婦、地味ネキの悩み。淫魔の登場。
この物語は共通の世界設定を持つ作品群の一つです。
関連作品を未読でもお楽しみいただけます。
下記の物語に続く話が今作の時系列です。
『雑魚ヒーラーだと言われおはらい箱にされた資源召喚士だったが、機転を利かして無双する。』
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『世界規模の即落ち2コマ ~主人公とヒロインの異世界恋愛が成立しないと世界が滅亡する~』
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今作。
1
「やーい、イモ女!」
「土仕事だけしてるから薄汚れててばっちー!
「誰がイモ女だって? それにこの土汚れは汚くないし。私の華々しい農業の証なんだから」
「やーい、地味デカケツ!」
「地味、デカケツ……?」
私の日常。ひたすら農業に従事して、その作物を捌いて、そこで得た報酬でささやかな贅沢をする。
平凡。
全然、輝きのない生活。
不幸ではない日常。
――でも。
「キミ達、バカにしないでよ! 私だってその気になれば、アイドルみたいにキラキラになれるんだから!」
「へっ! だったらやってみろよ! アイドルみたいに歌って踊れ! それっワンツーワンツー」
「い、いまは、やらないし」
「なんでー 本当はアイドルになれないのー?」
「私が実際にアイドルになったら可愛すぎて、みんな夢中になって仕事しなくなっちゃうでしょ? そしたら社会が破綻する。そして食べ物の奪い合いが起きて戦争になる。そうなると困るでしょ? そうならないために、本当はアイドルになりたいんだけどならないんだよ。だから、その代わりに農業活動をしてみんなの食べ物を作って結果的にみんなを癒しているんだよ? あれ、ひょっとしてアイドルよりアイドルしてるんじゃない?」
「ちょー早口。そんなのただのヘリクツゥ。だからケツがデカいんだよねー」
平凡。
全然、輝きのない生活。
不幸ではない日常。
これで良い。これで不満はない。
――嘘。
本当はアイドル……いや、それよりも。有能でクレバーで魅惑的な女王。全人類の記憶に私を刻みつけて、彼らから注目を浴びる。みんながみんな私に夢中で、私を求めて熱くなる。そんな彼らをアゴで使う……なんて面白いんだろう!!
そんな女王になれたら良いのに。
いつか、いつか。そんな風になりたい。その理想を諦めたくない。
「おしりが大きいのは何にも関係ないでしょ!! 気にしてるんだから―! でもね、さっきのは嘘。本当はアイドルになることでそのユニークスキルを発揮したら、ユニークスキル税とかを納税しなきゃいけなかったりして社会的に重い責任を負わなければいけなくなって面倒。だからアイドルになりませーん」
「何それ意味わかんなーい」
――この世界は、魔術やスキルや異能や超能力等々の雑多な技の類とその強さ、それと本人のレベルの高さ、職業。という要素などによってその人の価値や影響力というものが決まる。
社会的にそのスキルの類や職業の効果や能力が強力なものだったり脅威的な要素があるものの場合、その使用や活動にルールや使用税などが課されることがある。
それらの制約は管理塔という呼称される、組織というか機関のようなものが決めている。その実体はあんまり公表されていない。世界の実権を握っているとかいないとか。とにかくすさまじい存在感があることぐらいしか私は知らない――
脱線してしまった。話を戻す。
子供たちにさっき言ったことはマジだ。
仮にアイドルになると、ユニークスキル税を納める必要があったり、社会的に何らかの責任を負う必要があって色々めんどうくさいことを許容しなければいけなくなる。それは嫌だった。
たとえアイドルになりたいからと言って、それらを許容することで、自分の成り行きを誰かに握られるみたいになるのは、私の主導権を握りたいという欲求に反する。
私は誰かに命令されたり操作を受けるより、誰かを動かしたり指示をしたい。
なぜなら私は、アイドルよりも女王のような存在が好きでそのように在りたいから。
どことなく。
実際に叶えたい理想がある割に、そのような1つの嫌な問題があるだけで、行動やマインドをそちらに向けないのは怠慢で忍耐がないような気がしないでもない。
自分が在りたい姿が明確にあるのなら多少の壁があっても躊躇せず理想の実現のためにできる限り努力した方が、徐々に好転していくさまが楽しいし、むしろ有意義な活動になる気がする。
なのにそうしないのは何が嫌なんだろう?
分からなくてモヤモヤする。
単純に今はたまたまそこらへんで感じている問題に抵抗感が強いってことではあるんだろうけど。
ああ。何かのきっかけでこれが変わったりするのかな。
ともかく。
マジでアイドルよりも女王に在りたいなんて公言したら引かれるし世間体的に悪いだろうから、誰にも言わない。たとえ相手が子供たちであっても言わない。ただ何も意志表示しないのも何となく嫌なので、おおやけの場ではアイドルになりたい、というようにしている。
もっとも、このユニークスキル税や社会的に重い責任を負う必要がある云々というのは、実際にアイドル(女王)になりたくない小さい理由の一つであって、もう一つ別に理由がある。
実際に、私が農民からアイドル(女王)に職業を変えないもう一つの理由は――
「まっ。地味ネキはせいぜい土いじりばかりしてれば良いよ」
地味ネキとは……? ああ地味アネキという意味か。
「言われなくても、この農業スキルを活かして作物を生産してみんなを癒すよ」
「どんだけ土いじりが好きなんだよ。農業スキルのレベルだけ凄く高そう。何レべなの?」
「……あー それはー 秘密かな……」
次に女の子が私に声をかけてくる。
「そういえば、地味ネキが農業以外のスキル使っているところ見たことない。他に使えるスキルはあるの?」
子供たちの間で私の名が地味ネキで定着していた。
「……いやー 能ある鷹は爪を隠すということで、これもやっぱ秘密……」
「地味ネキが使えるのは農業スキルだけだよ。なぜならケツがデカいから!」
何かにつけてケツがデカいとか言ってくるのは、昔の漫才みたいだ。この子供のセンス古い。
「そんなにケツケツ言っておしりが好きなら、座布団にしてあげようかー?」
「うわー! デカケツに潰されるー!」
「こらー待てー」
私はスキルやレベルがどの程度あるか。それを知らなかった。
というか知りたくなかった。
ある時、たまたま親の農業の手伝いをしたら自分には農業をうまく行うスキルがあったというだけ。偶然だった。おそらく親からの遺伝でスキルを継承したのだと思う。
自分のレベルや所持するスキルについては、教会や管理塔などに行けば検査はできる。
しかし同時にそこでは自分の適性や成長方向を知らされる。
自分とは。
どんなスキルをもっているのか?
これからどんなスキルを覚えるのか?
将来どんな職業に転職可能なのか?
――自分の限界が分かってしまう。
もしアイドルにも女王にもなれないと決まっていたら?
もしアイドルや女王にまつわるスキルを覚えないことが決まっていたら?
それを知らされるかもしれないのが怖かった。
もっとも、そのように自分の将来転職可能な職業や覚えるスキルについての項目について見聞きしないようにすれば良いかもしれない。
しかしそういうことができるのか分からなかった。
検査を受けたら、否応なく自分のステータスについて全て知ってしまうかもしれない。
その可能性を考慮して、私はステータス検査を受けていない。
もし自分が本当にアイドル……女王になる素養がなかったとしたら?
実際に、アイドルや女王としての適性が0だと結論を出すくらいなら、ひょっとしたら自分はそのような存在になれるかもしれない、という可能性を残して希望を抱いて生きていた方が気楽で良い。
理想に到達する可能性が0であることを直視することが嫌。
まとめると。
ユニークスキル税や社会的な拘束云々が嫌という理由。
自分のアイドルか女王に転職できる可能性が0であるかもしれないことについて直視したくない。
その二つの理由を言い訳にして、理想を叶えることから離れていた。
臆病な態度で、安心しながら片思いのような感情を抱いていた。
将来に希望を持っているはずなのに、なぜか心がちくちくする。
その正体とは。
アイドルや女王のように他者の心に自分を刻めていなかったり、大勢の彼らから注目を集められおらず、そんな彼らをアゴで使えていないこと。
そのようなアイドルや女王の能力が現状、発揮できていなくて、くだらない。
その無能さ。劣等感がその正体だった。
◇◆◇
きゅるるん♡
『世界中の精気! ちょっとずつ、いただきまーす!』
突如。軽快な音を立てて淫魔は世界の至る所に散在的に発生した。
淫魔は世界をこくこくと侵蝕していった。
世界のあらゆる動植物は、彼らに精気を吸収され少々の体力を失っていった。
彼らの”吸収”というものは非物理的で回避が難しい。加えて、それで失った体力というものは、ほとんど自然治癒で回復するしかないという特殊な制限があった。
とはいえ、彼らの吸収というものはとてもゆっくりでなおかつ微々たる影響だった。したがってそれは、それほど大きな問題として社会的に扱われなかった。それは一部では淫魔パンデミックなどと呼ばれて多少話題になる程度だった。
なんとなく存在している流行り病。ただの風邪。その程度のもの。
そんな中、その不幸に見舞われた女性がいた。
「うっわぁ……この女の人、自我と承認欲求がクソデッカぁ……♡ 特別においしそうな精気をいっぱい持ってそぉー それじゃいただきまーす」
「あれ…… 精気だかマナだかMPが切れて、農業スキルが発動できない……それにダルい……ピンチなんだけど……なんとかしなくちゃ……これじゃ映えないよ。」
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