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閃光

「お絹にきっと似合う。喜んでくれるよ。」


お糸は朝早く 街に着物を受け取りに長屋を出た。

奉公先の娘「お絹」が 遅い薮入りで帰ってくるのだ。

お絹は「あめや」の看板娘が大好きで 頼んだ着物も黄色い。

奉公先の草履屋では「いかづちのお絹」と呼ばれている。

仕事が早く 客の目を覚ますような美しい草履を仕上げた。


お糸も 娘とは違う店で働いている。

店では「閃光のお糸」とよばれる手練れだ。

素早く仕上げ 仕上がりも文句のつけようがない。


お糸は稼ぎのほとんどを着物に使った。難しい注文にも応えてみせた。


「あんた、ごめんね。ご馳走が用意できなくて。」

「すごい着物にしたもんな!街も見ておいで!」


旦那は滅多に呑まないが、特別な日に少し呑む。


今日だけは申し訳ない。どうしても買ってやりたかったんだ。


冬の朝。

「あめや」の前の人力車が目に止まった。車夫の弥七が声をかけてきた。


「お糸さん!街の端まで行くんで乗っていっておくんなせえ!」

「えええ!?」


話を聞くと『空車で帰ってくることは許さぬ』と言われているらしい。

「こんな豪勢なもんに乗れるほどもってないよ!」

お糸が笑うと、

「お代はいいんでさあ!()()()()()()()()()()怖えんですよ!」

一人前の車夫になるために、一番重い人力車を引かせる『訓練』だそうだ。

「おいらを助けると思って!どうか、申し訳ない!!」

両手を合わせられちゃあ断れない。

お糸は乗った。


着物を大事に持って店から出ると、

人力車は待っていた。

「急いで戻らないとに怒られちゃうよ?」

「『送っていくまでが鍛錬だ!』って女将に説教されまして!」

車夫は両手を合わせた。

お糸は乗った。


「これで安心して持って帰れるよ!」

「こちらこそ大助かりでさあ!」


車夫は『酒問屋』に呼び止められた。


「ちょいと弥七さん!頼まれておくれ!」


酒問屋の女将が急いで出てきた。

「酒が『在庫』になっちゃったんだよ。弥七さん呑めるかい?」

「弥生さん。おいら下戸でして!申し訳ねえ!」

「えええ!?包んじゃったから置いておけないよ。」

女将の話によると、お届け物用に包んだものは『売り物にしない』らしい。


「お糸さん、今日はお祝いなんですよ!」

「よかった!!お姉さん、もらってくださいな!」

「あたしのことかい!?」

「『間違いで頼んじまった品』なんで!助けると思って!」


上等な着物を着たおかみに頭を下げられちゃあ断れない。

お糸の隣に酒樽が置かれた。

美しい女将は何度も頭を下げ、見送ってくれた。


街は賑やかだった。


いつか みんなで来たい



「弥七!ちょうどよかった!」


今度は寿司屋が車夫を止めた。

「ちょっと止めますね。申し訳ない!」

「急いでないからいいよ!」


寿司屋は『寿司桶』を持ってきた。

「次郎さん!どういうことだい?」

「祝い用の寿司、余計に作っちまったから持っていってくれよ!」

「おいら晩飯予約してるから無理だよ。」

「どうすりゃいんだよこの祝いの寿司は!嫁ぎ先が見つからねえよ!」

「お糸さん家は娘さんが遅い薮入りできょう戻るんだ。」

「やったぜ!お姉さん、もってってもらえませんか、このとおり!」

『高級魚屋』の旦那は、腰を深く曲げて頭を下げた。


お糸は困った。

「お代を払えないよ。」

「!!お題なんてとんでもねえ!余計に作っちまった事がかみさんに知れたら大目玉だ。寿司は『()()()()()()』にしたいんでさあ。助けると思って!」


弥七は丁寧に受け取ると酒樽のそばに置いた。

「しょうがないねえ!次郎さんのためだ!」

「めんぼくねえ!お姉さん、遠慮なしに『綺麗さっぱり』食べておくんなせえ。」

「寿司桶は返さなくていいから!この寿司は『()()()()()()』ってことで!」


立派な着物の旦那は、何度も頭を下げ見送ってくれた。


なんてせつめいすりゃいいんだよこれ

お糸は『豪勢なお土産』をもって長屋に戻った。


明かりはついていた。娘の顔を久しぶりに見て涙がでた。


「ちょ、ちょっと、お糸ちゃん!こいつはいったい!?」

旦那は自分を『お糸ちゃん』と呼ぶ。

変わらず可愛くて美しいからと説明してくれた。


お寿司と酒樽について説明した。

盆と正月がいっぺんに来たと言って家族で笑った。


「ごめんくださいな」


戸口を見てみると美しい着物が見えた。

甘味処「あめや」看板娘 おはつと

京菓子「ぎおん」看板娘 お京だった。


「お京さんと一緒に作って持ってきたよ!」

「どうか召し上がってください。」


『蕎麦屋の一件』以来、お京は、『うどん屋の屋台』以外に顔を見せなかった。


風呂敷を広げると、可愛らしい紙でできた箱が出てきた。

蓋には「ぎおんあめや」と墨で書かれている。


開けると、美しい菓子が詰められていた。

金箔をあしらったものや、京菓子らしいつくり細工の菓子も見える。

『江戸で一番』と名高い「あめや」のおはぎもある。


「うわああああ!すごおい!」お絹は声をあげて喜んだ。

そんな娘を見て涙が出そうだった。

おはつとお京はにっこり笑って恥ずかしそうに帰って行った。



弥七、「閃光のお糸」はきちんとお送りできた?

もちろんですとも!おかみさん!

弥生さんもすみませんでした。お酒は持って帰ってもらえた?

大丈夫ですよ。『お糸さんの旦那さんの好きな上等な酒』を用意しました!

次郎さんも無理なお願いをして、すみませんでした。

いえいえ!『うちで作れる最高の寿司』をご用意させていただきました。

今日は、うちの懐刀「いかづちのお絹」の薮入りでした。

みなさんの協力、本当に助かりました。

「閃光のお糸」、「いかづちのお絹」。

うちの商いは二人が『要』です。さあ、お疲れ様でした。一杯やってくださいな。

おいら下戸ですけどね!


はははははは!!




「「京都からのお客様」は帰られたの?うちの店に来てくれた人だよね。」

「ええ。『()()()()()()()()()()()()()()()()』って伝えておきました。」

「上品だね!」


うふふふふ!

あはははは!




おわり




















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