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人情飴細工

江戸の隅、堀割りのそばに 甘味所「あめや」がある。

今年16になる店の看板娘おはつは、今日も岡っ引きの清五郎の困り事を聞かされていた。


「長屋のおやじが追い剥ぎにあったらしい。おかげで今日も大忙しだ。」 

「親分さんならいつもの調子で解決でございますよ!」

「おはつはいつも元気がいいねえ!ちょっくら行ってくるか」

透き通るような秋の空の下 清五郎は調子良く駆け出した。


その夜、漆黒の闇に包まれた川の近くに一人の人影があった。

「へへへ、襲った親父もたんまり持ってたおかげて、毎晩好きに呑めるってもんよ。ひひひ。」

二回目の追い剥ぎを計画し 富岡橋の下で身を隠していた弥助は、突然暗闇の中で体が動かなくなるのに気がついた。「な、なんだってんだこれは!」通りには明かりもなく、今夜は月も隠れている。ひとりぼっちの弥助は手に持った打ち石を落とし、全身にびっしょりと冷や汗をかいていた。そのとき地獄の底から響くような低い声が弥助の耳に聞こえてきた。


「持ってる金を全て置いていけ」


弥助は恐怖に震えながらも、口答えしてみせた。「てやんでえ!どこの誰だか知らねえが!この金は俺の金よ!びた一文渡すもんかよ!ひいいいい!」江戸の暗闇の中 弥助の悲鳴が上がった。震える弥助のまぶたに、鋭利な「何か」が触れていた。


「お前をりんごあめにしてやろうか?おまえもりんごあめにしてやろうか!!」


弥助は気を失った。


翌朝 さわやかな秋の空気に包まれた江戸の川端に、両手を縛られ全身に真っ赤な「飴」をかけられた盗賊の弥助が正座させられていた。弥助はうわごとのように、「もうやめてくれ・・もう・ベタベタするからやめてくれ・・」と繰り返していた。長屋の住人たちは岡っ引きの清五郎をよんで、男はその場でひっとらえられた。


「しかし、おかしな事件だったなあ。盗賊の野郎、身体中飴をかぶって着物も髷もベッタベタよ。」

晴れ渡った秋の空の下、甘味所「あめや」に現れた清五郎は、看板娘のおはつにことのあらましを話し終えると、店自慢のあんころもちを頬張った。

「江戸の街を世直しが見張ってくれてるんですよ!あたしたちも頑張って働かなくちゃね!」

おはつはそう返事をすると、お疲れの岡っ引きを労った。

「親父の説教と、りんご飴の串と解く。」

おかっぴきが驚いてその回答を求めた。

「その心は?」

おはつは物知り顔で答えて見せた。

「どちらも『よく刺さる』」ってなもんですよ!」

「こいつは一本取られたぜ!!あはははは!」

「あはははは!」

十月の江戸の街に明るい声がこだました。


おはつは手についた「飴」をそっと拭うと、「すこし減った」店の竹串を整えた。

気持ちの良い秋の風が店先ののれんをはためかせ、もう直ぐ訪れる冬を予感させた。





終わり






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