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第8話 母からの電話


 その日の夜、アパートに戻った僕は、冷蔵庫にあった適当な食材を炒めて晩御飯を作った。自炊は得意というか、大学から一人暮らしを始めた僕にとっては身についた習性だ。

 コンビニで買ってきたり、外食もするけど、正直自炊が一番リーズナブルで美味しい。一人分だからなんてこともない。


 ――――お酒……飲んでみようか。


 昨日はクリニックでしっかり寝たから、却って夜眠れなかったのかもしれない。今晩はアルコール摂取でぐっすり眠れるかも。

 僕はお酒との相性が良くない。少量で酔っぱらって寝るならいいんだけど、頭痛がして動悸が激しくなって辛いだけなんだ。

 それでも、あまりにも眠れないときは試してみたくなるんだよねえ。少しの間だけでも眠れるし。


 冷蔵庫の隅に置かれたスパークリングの甘いお酒の瓶、それを取り出して思案していると、スマホが揺れた。電話だ。


「あれ、母さんだ」


 実家は神奈川にある。職場に通える距離ではないけれど、なかなか帰れないほど遠くもない。なのに大学入学とともに家を出てから、あまり帰っていない。

 別に家が嫌ってわけじゃないんだけど……。一人っ子だから、親の愛が重いのもきっと原因だよね。


「はい。もしもし」


 それでも、親の電話を無視するようなことはない。僕は努めて元気な声を出した。不眠症で悩んでるなんて、母が知ることはもちろんなかった。


「え、そうなんだ。亮市叔父さんが結婚かあ」


 亮市叔父さん。彼は母の一番年下の弟だ。僕より一回りほど年上。三十代後半で、ついに結婚するらしい。職業は小学校教師だったな。


『亮市が久しぶりに会いたいって。お嫁さん連れてくるから、たまには帰っておいでよ』


 ふう。つまり叔父さんをダシにして僕に帰省しろってことらしい。亮市叔父さんか、最後に会ったのいつだろう。


 ――――五年前の、じいちゃんの葬式だ……。


 なんとなく、思い出したくない。そんな感情が湧いてくる。お葬式なんだから楽しいはずはない。

 叔父さんは子供の時に出会った大学生時代の印象が深い。葬式の時も、なんだかその時と変わりなく若く感じたっけ。


「わかった。予定しておくよ」


 母の懇願を無下にすることはできなかった。それに、実家に帰って自分のベッドで寝れば眠れるかもしれない。環境が変わって起こった不具合なら、元に戻すこともいいだろう。


 ――――今度、天宮先生に相談してみようかな。医者として腕がいいなら、良いアドバイスくれるだろう。


 その時の僕は、こんな当たり前のアイディアが、あんなことになるなんて、想像もしていなかった。





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