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第18話 耳に残る嗚咽



 僕は穴に向けてシャベルで土をかけている。バシャっという音とともに湿った土独特の匂い。深さ約1メートル。よくもこんなに掘ったもんだ。


「や、やめろっ! 光、やめてくれ」


 土の中で、叔父が右往左往している、何度も抜け出ようとするのだが、僕が都度土を放り込むのと、土が柔らかいので這い上がれない。


「おーいっ! 光、無事かあっ!?」

「あ。先生っ!」


 やっと僕を見つけてくれたのか、先生と警察官、それに両親の一団が林を抜けてやってきた。大層な数の懐中電灯だ。

 実は、僕は車の中で叔父の携帯を使って先生に連絡したんだ。助手席にコートおきっぱにしてるから、そっと抜き取って。

 だからすぐに見つけてくれると思ってた。GPS機能って便利だよね。


「お疲れ……でも、一人で行くとは許せんな」


 シャベルを持つ僕の頭をごしごしと揺する。これは少し怒っているな。先生は僕のコートを羽織らせてくれた。


「ごめん……でも、僕の手で解決したくて……そうしないと、多分、今後も変われない。こいつにも言われたよ。いい大人が親に守られてって……」


 警察官たちに穴から出されている叔父を横目に見ながら言う。


「お、俺がなにしたって言うんだ。ちょっと甥と過激な喧嘩をしてただけやっ」


 この期に及んで、亮市叔父が叫んでる。


「馬鹿っ!」


 林に反響する甲高い音。叫んだのは母さんだ。叔父の頬に見事な平手打ちを見舞った。


「姉ちゃん……」

「ずっと……もしかしたらそうかも……いえ、そんなはずはないって。ずっと、ずっと私は怯えていたのよ」


 ――――え……。


「あの事件から、光があんたのことを怖がってるのがわかった。でも、私たち以外の大人を寄せ付けなかったから、重く取らなかったのよ。私が、もっと光の話を聞いていたら……」

「姉ちゃん、ちょっと待ってよ。俺が美花を殺したって思ってんのか? 光やそのインチキ医者が何言ったか知らんけど、大きな誤解やっ」


 こいつ、まだしらばっくれるつもりか。ああ、でも録音は消されたし、僕のスマホは壊された。畜生、この期に及んでなんて失態だ。


「おっと失礼」


 先生は突然僕のコートのポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。


『そうだなあ。まあ、そういうことになるか。面倒になったんだよ。あいつ、親に言うとか言い出してさ。俺、姉さんには弱いんだ。姉さんに嫌われたくないんだよ。それに受験に失敗してイライラしてたからなあ』


 え? 突然聞こえてきた音、これは間違いなく、叔父の声。あの時の会話だ。


「すまんね。こういうこともあろうかと、光のコートにレコーダーを仕込んでたんだ。警察の方にビジホに行って取って来てもらった。あんた、穴掘ってて時間ありそうだったから」

「う、うわああっ!」


 一瞬の間、それから雄たけび。亮市叔父のものだけではなかった。母さんが狂ったように泣いている。今にも叔父に飛びかかろうとするのを親父が抱きとどめている。


「母さん……母さんはなにも悪くないから」


 僕も親父のように、母さんの横に立ち、肩を抱いた。細く骨が触れるほどだ。ごめん、母さんを苦しめるつもりはなかったんだ。ごめん……。


 パトカーのサイレンがいくつも重なってやまびこのようだ。響きはやがて遠ざかり、母さんの嗚咽だけが僕の耳にいつまでも残った。





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