第15話 罠
「嫌がる美花に言ったんだよ。言うこときかないと、弟にもするぞって」
「な……なに……」
『あいつと二人きりになってはだめ。あたしの言うことを聞いて。お願い』
それが、僕の心の導火線に火をつけた。話を聞きだすつもりとか、懺悔を録音しようとか、そんな計画が全て消し飛んだ。
気が付くと、僕は亮市叔父の襟元を掴んでいた。
「貴様……なんてことっ」
「なにしやがるっ!」
スリムな体に見えたが、叔父はそれなりに鍛えていた。犯罪者でも小学校教師だ。当たり前か。
なんにも鍛えていない優男の僕は、あっという間に弾き飛ばされた。
『うるさいぞっ』
派手な音がして僕は壁にぶつかり床に転がった。その直後、隣室から声が上がる。僕は慌ててその隣人に助けを乞おうとした。
「すみません。ちょっとはしゃぎ過ぎました」
叔父は僕の口を塞いで叫んだ。
「助けを呼ぼうなんて、無駄だよ」
「あんた……美花が言うこときかなくて殺したのか……」
顎を右手で掴まれながら、僕は呻くように言った。
「そうだなあ。まあ、そういうことになるか。面倒になったんだよ。あいつ、親に言うとか言い出してさ。俺、姉さんには弱いんだ。姉さんに嫌われたくないんだよ。それに受験に失敗してイライラしてたからなあ」
「て……てめ……」
叔父は右手で僕の顎を掴み、左手で頭を撫でてくる。体重をかけて僕に跨っているため、情けないことに身動きできない。
それに、なんだか段々力が入らなくなってきた。
「おまえを生かしておいたのはね。小学生に上がる前に手名付けて、仲良くしようと思ったんだ。けど、引っ越ししちゃうし、実家にもほとんど帰ってこなくなった。いつの間にかでかくなりやがって。で? 今度は彼氏だと? ふざけんな」
「くっ!」
襟首を締め上げられた。なのに言い返そうとしても声が出ない。腕も動かない。
「そうだ。言い忘れてたけど、珈琲に睡眠薬入れておいたんだ。良かったよ。ここで殺すわけにいかなくなったからね。隣の客に何か言われても困る」
「な……」
しまった。なんて僕は馬鹿なんだ。疑いもなく飲んでしまうなんて。
「それと、こういうのもねえ。今のガキはホントに抜かりないんだよ。おかげで盗撮を盗撮されてさ」
叔父は僕のポケットからスマホを取り出した。
「これ、削除してから……破壊するか」
「や、やめ……」
頭がぼんやりしてきた。このまま殺されるかという時に、僕は眠ってしまうのか。
――――ずっと眠れなくて苦しんできたのに……こんなことってあるかよ……。
それから、僕は叔父の車に乗せられたようだった。ゆらゆらと不規則な揺れを五感のどこかで感じていた。




