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第9話 綾瀬家の身内


 リビングはしんと静まり返った。美味しい食事だったはずだけど、僕の箸は止まったままだ。先生も同じように、まだ残っているのに食べようとしなかった。


「その話って……父さんたちは知ってるのかな。教えてもらってるのか……な」


 声がかすれてる。なんだか口の中の水分がどこかへ行ってしまったようにざらざらしてる。


「多分聞いてないだろう。今井さんによると、よほどの進展がない限り、遺族に報告をすることはないんだそうだ。

 時間が経っていればいるほど、ぬか喜びになる可能性が高いからね。なにか確認事項があればまた別だろうけど」


 それは……そうかもしれないけれど。それに、この件は聞いたらがっかりするだけかもしれないけれど。


 ――――多分、20年前の事件を今でも真剣に捜査してる人はもういないんだ。


「9歳だったのに……」


 まだ子供だったのに、これから輝くような未来が待っていたはずなのに。悲しさと悔しさが同時にこみ上げてくる。そのあとを追うように怒りが沸き起こった。


「先生、それで? 先生はなにか掴んだんでしょ? これで終わりじゃないはずだ。それなら、こんなこと僕に話さない。そうだよね?」


 先生は言った。『私も三笠君の意見に賛成だ』。つまり、犯人は身近にいるってことだ。


「もしも……あの頃が今のように、どこにでも防犯カメラがあったなら、こんなことにはならなかったかもしれない」


 僕の挑戦的な口調にも動じることなく、先生は淡々と応じた。防犯カメラ? そうだね。20年前にはコンビニやATMの前にだってそんなものはなかったよ。


「今井さんが言った見込み捜査とは初動捜査のことだよ。空き巣犯の犯行と決めつけた捜査本部は、重要な目撃証言を無視したんだ」

「重要な目撃情報?」


 先生は顎を引き、一つ頷いて見せた。


「今井さんはご近所の方から、別の日の夜だが、一人の若い男性が歩いているのを見かけたとの証言を得た。

 けれどその男は綾瀬家の身内だとわかり、彼自身からも近くの友人宅からの帰りだと答えがあって、その裏も取れた」


 若い男性?


「最初から空き巣犯だとしていた捜査本部はそれでその証言には満足してしまった。今井さんはそのことが全てとは思わないが、自分以外にも大事な証言や証拠を見過ごしている可能性があるのではと言っていた。私は、その目撃証言には大きな意味があると思ってるんだ」


 若い男性……綾瀬家の身内……。


『光。あんまりあいつと仲良くしないで。二人きりになったら駄目だからね』

 

 あいつ……あいつ……。


「嘘だ……そんなこと、あるわけがないっ!」


 今度は大きな音がした。テーブルを叩く音と食器が弾む音がほぼ同時。僕は立ち上がって叫んだ。

 先生は僕の顔をじっと見つめる。その視線にはいささかのぶれもなかった。




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