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第1話 再始動


 11月も後半になり、街の空気は一挙に冬に近づいた。マンションの前の通りに規則正しく植えられた街路樹も、黄色や紅に染めた葉を歩道に落とし始めていた。


 冬は突然やってくる。最近は春や秋といった過ごしやすい時期がどんどん短くなっている気がする。早朝の通勤路を行く僕の息も、そのうち白くなるのだろう。


 天宮家の遺産相続問題や代替わりの諸々は、この頃ようやく落ち着いてきた。クリニックを再開した先生は、病院帰りに本家に寄ることも多かったが、それも今週に入ってなくなった。


「そうか。亮市さんがそんなことをね」


 こんなにゆったりした週末の夜は久しぶりだ。僕も仕事が忙しかったら残業が多かったのもあるけど、この時間に先生がいるのは旅行前以来だ。

 夕食を終え、僕らはラフな格好でリビングのソファーで寛いでいる。


『ひかる、何か見たんやないのか? 本当に寝てたのか?』


「これは僕の想像だけど、それで僕は不眠症になったんじゃないかな」


 母の実家で僕が亮市叔父とした会話、それから導き出した『不眠症』の原因をやっと先生に話すことができた。

 幼いながらも、自分が寝ていたせいで最愛の姉はいなくなってしまった。そのことの罪悪感が、たとえ記憶を封じられても僕の潜在意識に残っていた。


 自分で考えた数式だけど、的を得ていると僕は思ってる。あれからひと月経ってないのにあまりに色んなことがあって、随分昔のことのように感じた。


「有り得ることだね……で、光はなにか見たの? その時、亮市さんになんて答えたか覚えてるか?」

「え?」


 この話題、先生は多分ずっと気になっていたんだ。けど、自分のことで忙しくて僕に聞く余裕がなかった。

 僕の不眠症が治癒して、元気にしてたから急がなかったのだろうけど、もし普段のままならこの会話は、2週間前にされていてもおかしくはない。


 ――――けど、まさかこんな質問を受けるとは思いも寄らなかった。


「いや、どうだろう。僕はなにも見てたり聞いたりしてないんじゃないかな。だから、事件はその後全く進展しなくて、未解決のままになったんじゃ」


 過去記事にも載っていた。3歳の弟は寝ていて事件が起こったことにも気付かなかったと。


「そうか。そうだな」

「なにか思い当たることでもあるの? いや、僕はその時叔父になんと応えたかは覚えてない。そう聞かれても……答えられなかったんじゃないかな。実際寝てたんなら……」


 先生は僕の答えを聞いているのかいないのか、黙ってしまった。黙って顎のあたりを右手でこすってる。いつもの考えるときの癖だ。


 ――――先生は何を考えてるんだ? 僕の知らないことが、この事件にはまだあるんだろうか?


 なにも見ていない、なにも聞いてない。そう眠ってしまってからは、僕は姉が苦痛の声を上げてるのにも気付かないほど寝入ってるんだ。いや、それは一瞬のことだったのかもしれないけど。


 ――――それじゃあ、寝る前は? 美花の隣に布団を並べて……そうだ。姉はいつも自作のお話を聞かせてくれた。それが嬉しくて僕は、美花と一緒に寝たかったんだ。


『寝ては駄目。起きていて』

 



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