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第25話 失態


「はい。綾瀬光と申します。先生には大変お世話になっています」


 頭を下げながら、でもお二人の顔を見るようにして応じた。ここは目を見て話すのが大事だ。社会人で教わった有益なこと(のはず)。


「あら、可愛い方ねえ。先生って元々患者さんだったの?」


 か、可愛いとか言われた。いやいや、ここで慌ててはいけない。


「はい。先生のおかげで心も体も健康になりました」


 心療内科医だから間違ってはいないかと思うけど、先生がふっと笑ったのに気付いた。ご両親も黙ってしまった。あー、僕やらかしましたか?


「おいおい、父さんたち、自分たちのことも言わずに尋問するなよ。母さん、いい大人に『可愛い』はないだろう」


 ここでようやく先生が僕らの会話に入って来た。いや、遅くない? けど、先生、父さん、母さんって呼んでるんだ。当たり前のことかもしれないが、なんだか僕は嬉しくなった。


「改めて紹介するよ。光、私の両親だよ。こちらは綾瀬光君。超有名企業のエンジニアさんだ」


 超有名じゃないよ……。さすがに言い返せなくて、曖昧な笑顔で応じた。


「大体なんでいつも上から目線なんだよ。私も彼にはお世話になっているんだからね」


 全くお世話してないけど……。僕は上目遣いで先生を見る。先生は片方の口角をくいっと上げ、笑いをこらえているよう。


「おや、それは失礼したね」

「だ、大丈夫です。全然失礼じゃないです」

「そうねえ。可愛いはいけなかったわ。イケメンって言うのよね」


 にこりとお母さんがほほ笑む。クリニックにペガサスと名付けた人。どこかそんな少女趣味なかわいらしさを感じた。ってこれも失礼かな。


「いえ、僕なんてそんな……」


 二人は僕のこと既に知ってた。先生は、どう言ってるだろう。一緒に暮らしているのは知ってるみたいだけど。


「さあて、リビングで通夜振舞いを用意しているんだ。大したものはないけど、食べていってくれ」

「ああ、そうだな。光、行こう」

「は、はい」


 いいのかな。僕もいただいて。でも、ここで帰るというのも変か。どやどやと一族が移動していく。先生のご両親もその列に並んだ。


「うわ……っ」


 僕も先生と向かおうと勢いよく立ち上がった……んだけど、痺れていたのをしっかり忘れていた。


「あ、大丈夫か?」


 思わず倒れ込みそうになった僕を、先生の逞しい腕が支えてくれた。膝をつき、先生の腕に倒れ込むという……天宮家の皆様の前で、なかなかに恥ずかしい失態を演じたのは言うまでもない。





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