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第24話 通夜式


 会社から直行するので礼服を着ていけない。僕は朝から黒系のスーツを着て出社し、退社時にネクタイを代えて式が行われる『天宮家』に向かった。

 最寄りの駅でタクシーを拾い行き先を告げると。


「善治郎様のところですね。お悔み申し上げます」


 運転手さんに言われてしまった。なんでもこの界隈のタクシーで天宮家のことを知らない運転手はいないらしい。彼も週に何度も屋敷までお客さんを乗車させていたと言う。


 ――――やっぱり、僕が想像する範疇の家ではなさそう……。


 めちゃくちゃ緊張する。今日はお悔みのために伺うのに、これじゃあ本末転倒だ。とはいえ、これにかこつけて僕をお披露目しようとしてるのは天宮先生なんだけど。


 ――――失敗したら……どうしよう。もう先生には近づくなって言われたら。僕も社会的に抹殺されたりしないかな。


 普通に考えれば、そんな恐れがあるなら先生が僕を呼ぶわけがない。頭でわかっていても、僕は不安を抱えたまま天宮家へと走るタクシーに揺られていた。




 結論から言うと、僕の不安はただの杞憂だった。


 広大な敷地の中に建つ天宮邸は、どこかのドラマで見たような超豪華な洋風の屋敷だった。このあたりはどの家も豪邸が建ち並ぶ高級住宅街だが、そのなかでも群を抜いている。

 通夜式はその洋館にはちょっと不釣り合いに思える畳敷きの和室で行われた。そこは仏間で、観音開きの仏壇(先生が言ったとおり、高さは天井まで横も一間はある、どっかのお寺にありそうなのが中央に鎮座していた。


 そこにお坊さんが3名、天宮家一族の方々が20人ほど座していた。先生は後ろの方に座っていて、僕に気付くと隣に座るよう手招きをする。僕が着座してすぐ、それを待っていたわけではないだろうが読経が始まった。


「ありがとう、来てくれて」

「ううん。間に合ってよかった」


 焼香は炉を回していく形、僕も数珠とともに『お疲れさまでした』と心をこめて拝んだ。 

 通夜式は厳かに執り行われたが、お坊さんの有難いお言葉が終わったあたりには、どこか安堵した空気が流れ、遠慮がちな笑みも見れるように。

 大往生と言ったら失礼かもしれないけど、若い人が亡くなった時のような悲愴感がなくて僕はホッとした。しかし、正座は正直キツイ。


「君が、綾瀬君? 翔のところにいる」


 座が砕けてきたのを待っていたとばかりに、僕たちの前に座っていた男性が振り向いた。それに続けてその隣の女性も。

 年配でも綺麗に年を重ねたお二人。言われなくてもわかる。天宮先生の養父母、いや、ご両親だ。


 ――――いきなり来た! 落ち着け、僕っ!


 息を呑む瞬間、こういう時、三笠みたいに誰にでも流ちょうに話せる技が欲しい。僕の背は定規が入ったみたいにピンと立った。





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