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第21話 訃報


 それから三日後の夜、先生のお祖父さんは亡くなってしまった。

 先生は一夜明け早朝、旅行行ったままのキャリーバックと疲れた体を引きずってマンションに帰って来た。


「やっと家に帰れたよ。明日また行かないといけないけど。とりあえずシャワー浴びて寝る」

「あ、うん。先生、残念……でしたね」


 お悔みの気持ちをどう伝えればいいのかわからない。疲労の色濃い先生の表情に、僕の言葉はあまりに語彙力なくて自分で情けない。


「ああ、ありがとう。会社、行くだろ?」

「うん。でもまだ時間あるから……」

「私のことは気にしなくていい。さすがに疲れてるけど、好きなだけ人生を思い通りにした人の最期だ。全然悲しいとかはないから」


 片方の口角をくいっと上げ、さっさと服を脱ぎ捨てて風呂場に向かった。その背中は確かにくたびれてはいたけれど、苦しさや迷いはなかったと思う。




「なあ、綾瀬、どしたん? 昨日から出社してくるし、なんか元気ない……。まさか、旅行中に天宮医師と喧嘩したんか?」


 結局僕は有休を一日取りやめ、水曜日から出社していた。三笠や先輩たちにはお土産を渡し業務に戻ったのだけど。


「なんだよ。それなら昨日のうちに言えばいいじゃんか」

「それはなあ。おまえの傷心を慰める心の準備がいったからや」


 なにを言ってんだか。絶対面白がってるくせに。


「ふふーん。お生憎様。僕らの仲は全く問題ないよ」

「ええ、なんや……まあ、それならええけど」

「先生のお祖父さんが亡くなったんだよ。それで旅行切り上げて帰って来たんだ」

「え? そうなんや……。じゃあ、やっぱり……」

「やっぱり?」


 三笠はPCの画面を検索画面に切り替え、なにやら打ち込んだ。


「この、天宮善治郎氏って方がそう?」


 さっと画面を見せる。どうやら訃報のページらしい。

 大きなニュースではないけれど、さすが天宮家当主。社会的に一線を引いてても、こういったまとめ記事には掲載されるんだ。


「よくこんなの見つけたな。うん、そう。その方」

「いや、俺、訃報記事見るの趣味なんよ」


 なんだと。そんなおかしな趣味があったとは。僕はちょっとだけ身を引いた。


「へえ。名前が一緒で医療関係者やったからそうかもとは思ったけど……。綾瀬の彼氏は凄い人なんやな」

「うーん。ま、凄い家系の人って感じかな。でも、天宮先生の価値はそこじゃないよ。家とか関係ない」

「はあ、そうですか。はいはい、御馳走様」


 通夜と葬儀の日時が記載されていたが、身内のみとあった。別に医療関係でのお別れ会をするようだ。


 ――――身内のみの葬儀か。僕は当然、お呼びじゃないよな。


 先生のお祖父さんといっても、会ったことのない方だ。それにまだ、僕らは付き合いだして日も浅い。いくらなんでもその場に行くのはありえない。

 僕はふっと自分の図々しさ加減を鼻で笑い、仕事に戻った。




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