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第20話 ひとり寝


 目の前の鍋の中で、沸騰した湯が元気な泡と湯気を立てている。僕はそれを見つめながら、はたと気付いてパスタを放り込んだ。

 片づけられたキッチンに一人でいると、色んな思いに翻弄される。こんなに一人きりで時間を過ごすのはとても久しぶりに思う。

 なんだか急に自分の周りの空気が薄くなって、色を無くしたように感じる。無味乾燥という言葉が脳裏に浮かぶよ。


 ――――いずれにしても、先生は僕のことなんか構ってる場合じゃなくなったな。


 そうだとしても、僕自身、不眠症の原因がなにか大体わかったし、もう先生の手を煩わすことはないはずだ。


 今夜はおそらく一人で寝ることになる。先生はもう、不眠症は解消できてると言ってたけど、本当に眠れるのかと少し不安でもある。


 ――――でもまあ、先生も行ったきりじゃないだろうし。三日くらい徹夜したって全然平気だ。休みはまだあと二日も残ってるし。


 それでも先生が戻ってこなければ、水曜日には出社しようかなと考えている。一人で家にいても仕方ない。

 三笠に貸しばかり作るのもどうかと……いや、迷惑かけるのも申し訳ない。



『あの夜、本当に寝てたんか? なんか見たんやないか?』


 ふと、母の実家で思い出した、亮市叔父の言葉が蘇る。『にいちゃ』と呼んでいたあの頃の叔父は、確か今よりも関西弁が強かった。


 ――――まさかと思うけど、僕は三笠の関西弁を聞いて、過去の暗い記憶を呼び起こしていたのかな。それが新入社員のストレスと重なって。


 まあ、そういうこともあったかも。ひどくなったのは、三笠と机を並べてからだし。


 ――――もしそうだとしても、今となってはこれも感謝だな。僕は先生と出会えたし、美花の記憶も取り戻した。




 一人で食事を摂っていると、先生からメールがきた。お祖父さんの状態はさすがに良くなくて、今夜が山場とのことだ。明日の朝、また連絡するとあった。


 ――――でもよかった。先生、お祖父さんに会えたんだ。


 先生は家族とともに病院に留まる。ひとり寝確定だ。ちょっと緊張しちゃうな。

 広いダブルベッドの、いつもの位置に僕は仰向けになった。天井にぶら下がる北欧風? のスタイリッシュな照明をぼんやりと眺めてる。


 眠れても眠れなくても別にどっちでもいい。旅の疲れもあるけど、色々あって少し興奮もしてる。あんなに眠れなくて苦しんだことも、過ぎてしまえばなんでもなかったように思う。人間は本当に忘れることにおいては達人だな。



 結局、僕の体は脳も含めて、興奮よりも疲れに従順だったようだ。H県で見聞きしたことを頭の中に整理している途中で、僕は眠りに落ちた。

 習慣で7時にかけたアラームに起こされるまで、ぐっすりと眠った。


『光、私はここだよ。あなた、今までどこにいたの?』

『みーちゃんっ! みーちゃんこそ、僕はずっと探してたんだよ』


 なんだか作り話そのものの、都合の良い夢なんか見て。




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