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第15話 初めての記憶


 さて、次はいよいよ河川敷だ。住宅街を南に下ると、割と大きな川があり、その河川敷が子供たちのあそび場になっていた。僕が夢で見た場所のはずだ。

 そこに行ってもなにか思い出すわけじゃないだろうけど、僕はなにかに期待していた。

 のだけれど……。


「え、マジでここなんだ」


 二人で川の土手に佇み、僕は思わずそうこぼした。一級河川の河川敷には、ゴルフや野球、サッカーなどができるほど広いところもある。そういう記憶はなかったので、遊歩道があるくらいかと思っていた。


 けど、そこには幅5メートルほどの下草が這えた場所が、200メートルも満たない長さで続いていただけだった。ベンチと思しきものが辛うじて二つほどあるので、小さい子供を遊ばせるのはちょうど良かったのかもしれないが。


「ま、お弁当持ってピクニックとかできそうじゃないか」


 なんて先生が慰めるでもないだろうけどそう言ってくれた。


「狭い。子供の頃は、本当に広くてどこまでも続いているように思っていたんだけどな」


 下まで降り、僕は土手を見上げる。いい季節の日曜日だ。何人かの老若男女が、ランニングする姿が見えた。テントを張ってるひともいるので、確かにここでのんびり過ごすのは気持ちがいいだろう。


『みーちゃん、待ってえっ』


 走っていく姉の背中を、一生懸命追っていく自分の姿が見えるようだ。そうだ。確かにそれが、僕の初めての記憶だったに違いない。


 ――――そう言えば、亮市叔父さんも出て来てたな。意外に子供の頃の記憶

に登場とは。家も近いし、よく遊びに来てたのかも。


 と言っても、亮市叔父はその時既に大学生くらいだ。従姉弟とはいえ、そんなに頻繁に来るだろうか。


「あ、光。あそこにコンビニある。あれがアイスの供給場所じゃないか?」


 再び土手に戻り、当てもなく歩いていると、先生が僕の肩を叩く。川の反対側は市街地になる。駅舎や高架になってる線路も見えた。


「本当だ。20年前からやってんのかな」


 駅までの距離のちょうど半分くらいのところにイレブンの看板が見える。


「さあどうだろ。でも、酒屋さんとかが前身の場合もあるし、アイス売ってたんじゃないか?」

「なるほどー。よし、今日はあったかい日だし、アイス食べようっ」

「そうだな」


 コンビニまで歩く道も。気のせいかもしれないけどどこか懐かしく感じる。入り組んだまま、整備されていない道。表通りに出てようやく二車線道路になる。その道すがら、コンビニはあった。


「うーん、これは覚えがない。てか、コンビニはどこも一緒の感じだからか」

「亮市さんに聞けば覚えてるかもな」


 買ったアイスをイートインスペースで食べながら先生が言う。


「ああ、ほんとだ。でも、まさか電話するほどでもないしなあ」


 亮市叔父は今、大阪で仕事している。帰りに寄る手もあるけど、さすがにそんなことは憚られた。


「けど、どこかでもう、美花のことは思い出したって言いたいね。きっと昔話とかあるだろうから」

「そうだな。是非聞きたいな」


 え? なんか積極的。少し意外な気もしたが、それは一瞬。僕は気にも留めずに冷たくて濃厚な(多分、子供の頃には食べていないであろう)アイスを味わっていた。





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