第13話 宿題
三笠にもお墨付き(?)をもらい、僕は天宮先生とのルームシェ……こほん、同棲を本格的に開始した。甘々の日々……とかならいいけど、当然そうはならない。
まだ、僕の治療は続いてるんだ。そのせいなのか、先生はキス以上のことをしてこない。かく言う僕も、それ以上がどういうことなんかわかんない。考えてみれば、女性とだってまともに交際したことないんだ。ああ……なんだか切ない。
「光、実家の仏壇についてなんだけど」
ぶ、仏壇? これはまた、甘いからは相当離れた話題に……。
金曜日の夜、所謂華金。僕は先生と一緒に食後のひとときを楽しんでる(のは僕だけか?)。さっきまで会社の話やクリニックでの話題で盛り上がってたんだけど。
――――で、仏壇ねえ……。
確かに帰省したとき、一緒にお参りはしたけれど。あれは亡くなった父方の祖父母の仏壇だ。
祖父が十年前、祖母は五年前他界した。母方の祖父母と違い、父方は近隣だったため、割と頻繁に行き来してた。父には厳しい感じだったけど、初孫の僕は結構可愛がってもらっていた。
結局、母方の祖父母より早く亡くなって、仏壇が家に来た。古くから祖父母の家にあったものはあまりに大きかったので、住居サイズに合わせたものを新しく購入したんだ。
「仏壇がどうかしたの?」
「以前、君の実家で不思議なところがいくつかある、って言ったことあったろ?」
「ああ、うん、覚えてる」
他人の家をみて、自分とこと違うってのは往々にしてあることだ。だから、あんまり深く考えていなかったんだけど。
「それが仏壇なの?」
天宮先生は自宅では眼鏡を外し、リラックスモード。きらきらと光る切れ長の双眸を僕に向け、形の良い顎を引いた。
今更だけどカッコいいな……とか思ってる場合じゃないか。気付いてるかもしれないけど、僕は先生に対して丁寧語で話すのは止めにした。自然にそうなった。
「光は多分、ずっと同じものを見てきたから気づかなかったのだと思う」
「というか……仏壇の正しい在り方とかわかんないから。うちの親も知らなかったかも」
「ああ、いや。そういうことじゃないんだよ」
え? そういうことではないって。どういうこと?
「まあ。これは……ご両親に直接聞いたほうが早いかな。まあ、宿題にしておこう」
「なんでっ! 教えてよ、知ってるなら。なんか気持ち悪いじゃない」
思わず先生に詰め寄る。宙ぶらりんな感じは精神的に良くないよ。それともわざとなのか?
「んんー。そうだねえ」
「きゃ……」
なんて言いながら、先生は僕をきゅっと抱きしめる。そりゃ、詰め寄ったのは僕だけど、ずる過ぎる、隙あらば体に触れてくるの。
「どうしようかな? もう少し教えてあげようかな」
絶対わざと焦らしてるんだ。てか、僕のトラウマとか本当にあるのか? そこから疑わしくなってきた。もちろん、それで僕の気持ちが変わるかって言えば……全く変わらないけど。
――――だって、心地よいのだもの。先生の心臓の音が耳の下で聞こえるのが。
「近いうちにもう一度ご実家に行こう。それまでに、光がまた素敵な夢をみてくれるといいな」
「ゆ、夢? なにそれ……」
先生は最後まで僕に言わせなかった。果実酒の甘い香りとともに、柔らかい感触が僕の唇に降りてくる。僕は先生の背中に腕を絡め、無我夢中でしがみついた。




