第12話 同棲
その週の週末。僕は意を決してアパートを引き払うことにした。もちろん先生も喜んで賛成してくれた。
そうすれば、僕もこの部屋の家賃の3分の……4分の1くらいは払えるし、精神的にも落ち着く。
他人と一緒に暮らす方が落ち着くなんて。一体どうなってんだか。半年どころか、ひと月前の自分だって信じられない変わりようだ。
ワンルームのアパートには大した荷物はなかったので荷造りと不用品処分はすぐに終わった。
――――いよいよ天宮先生との本格的なルームシェア開始……というか、これは同棲なのかな。
そう考えると自分で熱くなって自分で恥ずかしくなってしまった。退路を断ったわけじゃないけど、僕は先生とのこれからを真剣に考えようと思ってるんだ。
もちろん、先生の言う、『過去のトラウマ』にも向き合っていかないと。心身ともに今は健康。その準備は整ったと考えてる。
で、今ここ。天宮先生のところに転がり込んでから10日、アパートを引き払ってから2日後の会社。
「で? 綾瀬、天宮医師との同棲はどうなんよ」
「え?」
同棲かルームシェアかとか考えながら画面を見ていた僕に、三笠が話の続きとばかりに聞いてきた。やはりはた目からは同棲なんだな。
「え? じゃないよ。もう眠れてるんやろ? そのピチピチの肌」
「どうって……まあ、快適だよ」
げっ、とカエルが潰されたような声を上げる三笠。
なんだよ。快適なのは仕方ないだろう。高級タワーマンション、美味しい食事、そして……好きな人と一緒に居られるんだから。
「同棲って認めるんだ……しかも快適……」
今にも泣き出しそうになってる。自分だって彼女がいて、同棲するか結婚するか迷ってるくせに変な奴。僕から言えば、さっさと結婚しちゃえって思ってる。
「わかった。綾瀬が幸せなら俺は潔く身を引くよ」
「なにから身を引くのか知らんが、ありがと」
「ぐっ!」
三笠は目は真っ赤、唇を嚙み締めたまま僕を睨んできた。口元にハンカチでも咥えさせたら、どこかの漫画で見たことあるシーンそっくりだ。
「まあ、でも。三笠には感謝してるよ。ずっと心配してくれてさ。僕が不眠症に陥っていた時から……。その原因もわかりそうだし。なにより、天宮先生は変態じゃなかったけど、変にのめり込まなくてよかったって思ってる。三笠のおかげだよ」
8割くらい本心だ。三笠のおかしな妄想のおかげで、先生を意識したのも結果的に悪くなかった。
「そ……そうか……。そう言われたら、俺……。良かったなあ、綾瀬……」
本気で泣き出しそうになるのでこっちが焦ってしまったが、ほどなく訪れた上司のおかげで、僕らは何事もなく? 業務に戻ることができた。




