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第19話 即答


「せ、先生は僕のこと、患者としてみてます?」


 綺麗に整頓された部屋は、母さんが掃除してくれてるのだろう。隣室との壁側の方に、先生用の寝床、マットレスと布団を作る。

 僕は自分のベッドに腰かけて恐る恐る尋ねてみた。こんな直接的なこと聞くのは、諸刃の剣みたいな気もするが、我慢が出来なかった。


「もちろん。それ以上でもそれ以下でもないよ」


 即答された。しかも些か被り気味。逡巡してやっと口にした質問なのに。


「そうですか……」

「あれ? 答えが不満だった? 違う答えのほうが良かったかな」


 完全に揶揄ってる。眼鏡を外して露わになった切れ長の双眸が意地悪な光を宿す。


「いいえ。十分です。それで、なにかわかりましたか? 僕の不眠症の原因、その、過去のトラウマとか」


 患者としてしか見てないなら、そこだろう。もちろん、なにか掴んだんだよな?


「そうだね。ああ……」

「え? ま、マジ!?」


 予想外の返答に僕は思わず食いついた。一体、何を掴んだんだよ。わずか数時間、僕の家族と過ごしただけで。


「なに、なんですか、なにが分かったんですか?」


 僕はベッドから飛び降り、天宮先生の真ん前に詰め寄った。あ、しまった。自ら彼のテリトリーに……。


「でもまだ言えない」

「はあ? なんですか、それは」


 頬を引きつかせ、僕は悪態を吐く。結局なにも掴めてないんじゃ。


「それより……君の叔父さん、亮市さんは小学校の先生だそうだね」

「え……ああ、はい。そうですが……」

「生徒さんにも保護者にも評判がいいって。それが問題になったりするくらいだとお母さんが仰ってたよ。自慢の弟さんなんだね」


 へえ、そうなんだ。まあ、人たらしなとこあるから。結婚したら、そういう面倒なことも少なくなるかな。


「少し盛ってるとは思いますが、さもありなんかな」


 僕の答えに満足したのか、先生は口角を片方だけ上げて笑う。それから、片膝を立て、僕との距離を縮めてきた。


「な、なに……先生、どうしました?」


 思わず後退りかけた僕の両腕に、先生は自分の大きな手を置いた。力が入ってないのはわかるけど、すぐに振りほどいて逃げられない。


「もうおやすみの時間だ。ここで眠れるかどうかは大切なことだ。だろ?」

「それは……でも、実家だから眠れるのかもしれないし……」

「眠い?」


 信じられないことだが、なんだか眠気が忍び寄る気配が。

 これは、僕がこの部屋を出る5年前まで、毎夜繰り返されたように眠るという作業。それが今夜も滞りなく行われる。

 此の眠気は慣習のなせる業だ。絶対、天宮先生がいるからじゃない。それに、こんなふうに迫られたら、逆に緊張して眠れなくなるんじゃないか? あれ? 僕、変なこと言ってるかな。


「少し、眠いですが……だからそれは……」

「もし、まだ疑うなら、私の部屋でも眠れるか試すといいよ」

「は?……また、そんなことを……」


 それから、先生が僕の腕を持ったまま、何かを丁寧に説明していた。自分がいることでリラックスするなら、場所がどこでも同じはずだと。僕に対して興奮してくれないところは、少し残念にも思うけど。とかなんとか。


「こんな言い方なら、君は満足するかな?」

「な、なにを言って……」


 僕が記憶してたのは、そこまでだ。






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