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第17話 天宮先輩


 僕はこの日、天宮医師の多彩ぶりに驚かされることになった。

 母とともに台所で作成していた料理。酒のつまみになるようなオードブルが主なんだけど、盛り付け方も麗しく、野菜、肉料理とも小一時間で作ったとはとても思えない豪勢なものだった。


「凄い……」

「下ごしらえはしてたんだけどね。天宮さん、本当に手際がいいの。このサラダなんか、メニューになかったのをパパっと作ってくださって」


 母の手作りが懐かしいというより、出された料理がとにかく美味しかった。それはみんな同じ感想だったようで、箸を動かす手が止まらない。


「光の先輩さん、凄いですね。イケメンだけやなく、料理まで凄腕とか。会社でも有能そうだ」


 亮市叔父が関心したように言う。本来、彼は同性を褒めないのだが、やっぱりだいぶ丸くなったか?


「いえ。ただの趣味です。それに会社では少なくとも有能じゃないですよ」

「けど、独身でしょ? モテそうやなあ」

「まさか。亮市さんの足元にも及びませんよ。お母さんから聞きました」

「えー。姉さん何言ったんだよ」


 座は笑いで包まれた。天宮先生の場違い感は半端なかったから心配してたけど、こうして料理の腕を披露してくれたことで、違和感なく話に加われた。それも考えてのことだったのかな。

 さすが心療内科医とでもいうことか。にしても、人の懐に入るのうまいや。


「天宮さんはおいくつですか?」


 父さんも興味を抱いたのか、先生に話しかけてる。僕の先輩だから、気を使ってくれてるのかもしれないな。御免、その人に気を使ってもあまり利はないよ。


「今年が最後の二十代です」


 ――――えっ? そうなの?


「そうなんだ。いや、悪い意味じゃなく、もう少し年上かと思てました」


 叔父が言う。実は僕も30代半ばくらいだと思ってた。確かに肌艶とか若いけど、髪型や服装、それに落ち着いた雰囲気から20代とは思わなかった。


「光は会社ではどうですか? しっかり仕事してますか?」


 げっ! 親父、それ聞くの。そりゃ聞きたいだろうけど……。僕はちらちらと天宮先生の顔を覗き見る。なんとなく、打ち合わせてなかった。


「もちろんです。新しい技術にも明るいし、未知の開発にも果敢に攻めてってくれてます」

「へえ。凄いな、それ」


 叔父がすぐ合いの手を入れた。両親もホッとしてる。もちろん僕も。

 結婚式の挨拶ぐらい盛ってるとしても、もし僕の上司がこんなふうに言ってくれたらめっちゃ感動するよ。


「未知の場所に果敢に攻めるかあ。そんなふうになるとはね。小さい頃、光はしょっちゅう女の子に間違えられてたんだ」

「そうなんですか?」


 と、天宮先生。なんだかニヤニヤと口元が妖しくなってる。


「嘘だよ。そんなこと覚えてないよっ」


 必死で打ち消す僕。変なことを想像されてるようで嫌だ。三笠に妄想されるよりなんか嫌。


「ホントだよ。すぐ俺にくっついて来てさ。まあ、着てる服も……」

「亮市、馬鹿なこと言わないでっ」


 笑いながら、でも明らかに諫める語気で母が横槍を入れてきた。


「赤ちゃんの頃可愛かったのは、亮市もよ。けど、光はイヤイヤ期も短くて、反抗期もはっきりしたものはなかった。そこは亮市と全く違うわね」

「え、なんだよ。藪蛇……」


 叔父は首を竦める。座はまた叔父の話で盛り上がった。僕は天宮先生を再び覗く。もう妄想は終わったかと思ったが、形のいい顎を大きな手で撫でながら、笑みを浮かべている。脳内では全く違うことを考えていそうで、なんだか不気味に思えた。






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