第16話 亮市叔父
実家はいつも通りだった。まあ、最後に帰省してから半年しか経ってないんだから変わりようないか。
「よお、久しぶり! 3年ぶりかあ?」
母さんの実家は日本海側だが一応関西の端くれだ。だからイントネーションが関西風。髪を染めているのは白髪染なのか。だとしても亮市叔父は変わらず、若くてイケメンだった。
「ご無沙汰してます。結婚おめでとうございます」
「なに、かしこまんなよ」
子供の頃は、叔父さんとは呼ばず兄ちゃんと呼んでいた。そういうリクエストだったかと思う。
母とは一回りも歳の離れた弟だったから、僕の記憶にあるのは高校生か大学生の頃だ。そりゃ、叔父さんとか呼ばれたくはないだろう。
「初めまして」
奥様となる人、優実さんは、長い黒髪がつややかな美人さんだった。叔父はとにかく面食いだったから、当然か。非常にルッキズム意識の強い人なのが少し残念だったな。
「光、おじいちゃんたちにも挨拶しなきゃ」
おじいちゃんたち。つまり父方の祖父母だが、既に故人なので仏壇でのご挨拶だ。実家にいる頃、毎朝お参りしていたのに失念していた。僕と先生は順番に線香をあげた。
「今日はお寿司取ったからね」
母は上機嫌だ。それだけでも帰ってきて良かったと思える。
「なんか手伝えることある?」
早めの夕食を取り、叔父たちは東京に向かう。多分、そっちが本筋でうちには挨拶がてら寄ったんだろう。
叔父と父は、既に酔っぱらって出来上がってる。当然、寿司だけでは足りず、母は台所で忙しそうだ。
「あ、綾瀬君はお父さんたちと話してて。私がお手伝いしよう」
「え? せんせ……ぱいが?」
「私はこう見えて料理が得意でね。お母さん、お手伝いします」
「え? 本当に。まあ、どうしましょ」
どうしましょって……母さんもわかりやすいな。玄関で挨拶したときから、クールな天宮先生にときめいてたのは丸わかりだった。この姉弟はこういうとこ血が争えないよな。
「会社の先輩と来るなんて、おまえも変わったな?」
親父の相手もこういう席でないとなかなかできない。そう思った僕は、先生の提案を受け、酒席に戻った。リビングのソファーに座るとすぐ、亮一叔父の方からそう聞かれた。
「なに言ってんの。叔父さんのほうこそ、ついに家庭を持つことにしたんじゃないか。変わったのはそっちだろ?」
僕は叔父のコップにビールを注ぐ。僕は飲めないので、その代わりにお酌する。それがいつの間にか親戚の集まりでできたルーティンだ。
「ええ? まあ、そういうことやな。いつまでもあると思うな若さと金」
「なにそれ。面白い」
優実さんは酔っ払いに囲まれながらも、にこやかな笑顔で話を合わせている。東京までの運転をするから飲めないんだな。
「叔父の我が儘で、ここまで来てくれてありがとうございます」
「え? いえいえ。お姉さまは親代わりだったと。亮市さんから何度もうかがっていたので、お会いできると楽しみにしてました」
叔父は祖父母にとって年取ってからの子供だった。一番近い年齢の母ですら14歳も上。祖母が『亮市は光の母さんが育てたようなもんだから』なんて言ってたのを思い出す。
確かに亮市叔父にとって、一番の身内なんだろうな。それにしても、彼女、どこかで見たような。気のせいかな。