第二部「破滅を照らす者:賢者との出会い」その8
目次
第17章「作戦会議:内容説明」
第18章「天秤と鏡」
第19章「勇者の旅立ち」
あとがき
第17章「作戦会議:内容説明」
「それでは…改めて勝利条件を確認しよう。」
「クトゥルフ召喚の阻止、教団の幹部の…『ロキの化身』と教祖をぶっ飛ばす、後は魔法のヤベェ奴の回収…だろ?」
「あぁ、要約するとそうなるな。」
「そんで、やることは分かったが…俺達はとりあえずどうしたらいいんだ?」
「ここは、ジョゼフィーヌ…作戦の内容をしっかり把握できているかの確認も兼ねて君に任せよう。」
【マーリンはそういうと、彼女に筒状に丸めた黒紙を手渡した。】
「はい!分かりました!」
【彼女はそう返事をすると、マーリンから受け取った黒紙を広げた。】
「おぉ…地図?ですよね?ってうおおッ!?」
【皆が広げられた黒紙を見つめると、描かれていた地図が黒紙から飛び出し、空中へ浮かび上がった。】
「び…びっくりした!」
「どこから見ても正面向くようになってるっすね。」
「あっ!ほんとだ!」
「そうですね…まるでホログラムの様です!」
「あぁ…本当に魔法ってのは便利だな。」
「それでは説明を行います。皆さん、地図を良く見ていて下さいね!」
「これから私達が潜入する場所は、ドイツの中でも有名で、三大名城・三大美城の中にも含まれている古城。『ホーウェンヅォレイルン城』です。」
「は…城?」
「えっ!?そんなお城に今から…って…あれ?」
「どうしたんすか?」
「観光地を勝手に使ってるなら…新聞とかニュースとかで有名になって…警察の人が来ません?」
「はい、それは私も疑問に思っていましたが…マーリンさんによると、教祖は世界規模の『隠蔽魔術』を使用し…世界中の人々が『ホーウェンヅォレイルン城』に関係するあらゆるものの認識や、城そのものについて思い出すことができないそうです!更には『次元魔術』を使用していて、普通の方法では城がそびえ立つ山にさえ踏み入れることができないそうです…」
「でも僕達はそのお城について話せてるっすね。」
「あぁ、それは君達に『祝福』を与えた神が私達に『加護』を…つまり、教祖が持つ邪神の力に対するプロテクターを与えてくれているからだ。」
「なるほど…ってか味方の神様凄くないですか!?」
「まぁ、その城について俺達が何とかできるのは分かった…だが…『次元魔術』だったか?それのせいで近づけないんだろ?」
「それについては問題無い。私がここへ逃げ込む前に、古城がある山の麓に『門』を開いておいた。それを使えば、『次元魔術』の結界の内側に侵入できるはずだ。」
「流石だな。」
「では、ちょうどその『門』についての話が出たので…この地図を使って作戦の内容を説明します!」
【彼女はそういうと指を鳴らした。すると、地図には新たな情報が追加された。】
「おいおい…あんたも魔法使いになったのか?」
「ふふっ…指を鳴らすだけですのでそんなに大したものではありませんよ!」
「まぁ僕達も魔法使えるんすけどね。」
「そうだった…しかも『祝福』って凄いやつ…あっ!続けて下さい!」
「ではこちらの緑の矢印に注目して下さい!」
「まず、私達はマーリンさんが用意してくれた『門』を使い、そこから城をめざして真っ直ぐ山を登ります。そして、1番警備が手薄な『北東側城壁』に到着すると…私の異能の出番になります!」
「確かジョゼフィーヌさんの異能って…位置を入れ替える能力でしたっけ?」
「はい!流輝さんに『彗星』を城壁の上方まで飛ばして頂き、私の異能…『影の霧《Trans Figuration》』で皆さんと『彗星』の位置を入れ替えます!」
「なるほどな…それだと1番早くて気づかれねぇって訳だな?」
「あぁ、そうだ。第一から第三の城門には確実に教団員が配置されているだろうがこの方法なら、場内に侵入するには北東側城壁から第三の城門に居る教団員の制圧だけで済むはずだ。」
「そして、北東側城壁から矢印に沿って行くと、先程マーリンさんに話して頂いた通りに城内へ侵入できるので、後は青い矢印に沿って進むと…重要な物が隠されている『教祖の部屋』と、クトゥルフ召喚の儀式が行われる今回の作戦の最終目的地…『大聖堂』にたどり着けるはずです!」
「そして、教祖も儀式を執り行う為に大聖堂に居るはずだ。」
「な…何だか…思ってたよりも簡単そうですね!」
「タイムリミットは儀式が開始されると思われる7月7日の午前、または、午後の12時までです!なので、時間を配分すると…今日中に山頂近くまで登り、先程話した作戦を明日、早朝に決行する事になります!」
「それは良いんだが…どうやって山の中で過ごすんだ?」
「それはですね…」
「いや…ここからは私が話そう。それと、ジョゼフィーヌ。作戦内容の把握は完璧だ、説明してくれて感謝するよ。」
「いえ!しっかりと内容を把握できていて良かったです!」
第18章「天秤と鏡」
「先程、山の中でどうするかと言っていたが…それに関連して、古城の防衛に当たっている『ロキの化身』の内の2人ついて話しておこう。」
「よろしくお願いします!」
「まず、君達には今日中に北東側の山頂近くまで登ってもらう訳だが、その山頂近くには警備部隊のキャンプ場があってだな。しかし…」
「もしかして…さっき化身について話してたってことは…」
「察しの通り…『ロキの化身』の1人、『へカーティア』がその部隊を率いている。」
「ですよねぇ〜!?」
「その『へカーティア』という人物について教えて頂けますか?」
「そうだな…化身については全員が能力を隠しているのだが、分かることと推測で良ければ話そう。」
「あぁ、今は少しでも情報が欲しいからな。頼むぜ。」
「まず…奴は若い男性で、性格は多少荒っぽい感じだな。頭の良さと魔法の知識は…普通くらいだな。外見的な特徴は、銀でできたペンダントを掛けていることくらいで、それ以外は普通の教団員が来ている格好と完全に一緒だ。」
「見分けるの大変そうっすね。」
「そして、へカーティアの能力についてだが…詳しくは知らないが、本人曰く戦闘向きの能力ではないらしい。」
「つまり…援護や奇襲、または情報収集といった類のものでしょうか…?」
「その可能性が高いだろう。そして、ここからはただの予想になるのだが…奴の能力は、恐らく『死霊術』や『幻術』に関する能力の可能性が高いだろう。」
「どうやって予想してんだ?」
「『ロキの化身』のメンバーは、それぞれが神の力を持つ『祝福』を持っていてな…彼等にはその『祝福』の元となった神の名前が教祖に与えられているんだ。」
「なるほど…確かへカーティアというのはギリシア神話の女神でしたよね?」
「あぁ、そうだ。へカーティアは、死や幻霊、幻術を統べる女神と言われていてな。他にも色々とあるのだが…予測するならこの辺りだろうが、あまりあてにしない方がいい。」
「まぁ…とりあえず、寝床の確保をしたり、後ろから追いかけてきて挟み撃ちにされないようにするためにソイツとキャンプ場の奴らを潰せって事だろ?」
「そうだ。」
「そういえば…化身は2人いるって言ってましたよね?あと一人はどんな感じの人ですか?」
「あと一人は、赤色のロングヘアと黄色の目が特徴的な若い女性で…彼女に与えられた名は、『テミス』だ。性格は冷静で、正義感に溢れており…頭の良さと魔術に関する知識も高い方だ。能力は恐らく…罪や法に関するものだとすると…『断罪に関する』能力だろう。」
「彼女が居るとしたらどの辺になりますか?」
「恐らく…第三の門の警備を務めているだろう。」
「となると…戦闘は避けられませんね…」
「まぁ、どっちみち倒さねぇと教祖と戦えねぇだろうな…」
「とりあえず、説明は以上だ。彼等と遭遇した際には、全力を持って対処を尽くすんだ。さもなければ…君達は一瞬にして敗北する事になるだろう。」
「ヒッ…会いたくないなぁ…!怖いなぁ…!」
「これで作戦の説明は終わりになりましたが、何か確認はありますか?」
「特にねぇな。」
「あっ…大丈夫です!」
「何も無いっすね。」
「では…最後に、君達に役立つ物を渡しておこう。」
第19章「勇者の旅立ち」
作戦や情報については彼から色々と聞いたが…
贈り物については初耳だ…
「役立つ物…?賢者の石とか空飛ぶホウキとかポーションとか…?」
「いや、すこし前に話した『血の琥珀石《Blood Amber》』と一方通行の『門』だ。」
【彼はそう話すと指を鳴らした。するとどこからともなく箱が彼の前に現れて空中に浮かび上がった。そして、彼がその箱の中から取りだしたのは、血のように赤い宝石が中心にはめ込まれたペンダントだった。】
「うぉっ…何か…血管みたいなのが中で脈打ってる…」
「因みに、実際に血が含まれているぞ。」
「不気味な美しさと神秘的な恐怖が両立していますね!それに…物凄い力を感じます…少し禍々しい様な…」
それに…この宝石を見ていると…
また『禁域』で体験した身体能力の強化が…!
「そうっすか?」
「別に…綺麗な首飾りじゃねぇか?」
やはり…この現象は私だけにしか起きていないのだろうか…?
しかし、私の体の状態については何も問題は無いと彼に言われていたはずだ。
まさか…『祝福』を手に入れたことで、『禁域』で発生した身体能力の強化が副作用として残っているのだろうか…?
「とりあえず、このペンダントについて説明しよう。」
「お願いするっす。」
「このペンダントには2つの能力がある。能力の発動方法はペンダントの破壊だ。1つめの能力は、このペンダントを首にかけて破壊する事で、ペンダントを破壊する前に受けた体のあらゆる損傷を修復し、状態異常を取り除くというものだ。」
「全部元通りっすね。」
「めっちゃ強くないですか!?」
「2つめの能力は…死者の蘇生だ。」
「……は?」
「…えっ?」
「死者を…蘇生?」
まさか…それほどの能力が…?
そのうえ…そんな代物を人数分も…!?
「めちゃくちゃヤバいっすね。」
「だが…蘇生を行うには条件がある。」
「さ…流石に条件ありますよね…」
「1つ、死体の一部が残っていること。2つ、対象の魂が消失していないこと。3つ、死亡してから3日以内であること。4つ、死体が自然に腐っていないことだ。」
「死体の一部というのはどの程度のものでしょうか?」
「ほんの一部だ…例えば、1mmにも満たない肉片、1mlにも満たない血、遺灰、遺骨など…とにかく何でもいい。死体が残っていれば首にかけて、体がほとんど無ければ、その部位をペンダントの上に乗せてからペンダントを破壊する事で、死者の蘇生ができる。」
「よっぽどの事がなけりゃセーフだな。」
確かに彼の言う通りだが…裏を返せば…
死体が完全に残らないような状況になれば為す術がないという事だ…
「ペンダントについてはこれくらいにして…これが最後だな。」
【彼はそういうと、コートの内側から黒紙と赤い液体の入った小瓶を取り出した。】
「そ…それは一体…?ってかグッロ…!」
あの小瓶に入っているのはただの血液か……ッ!
「うっ…」
「えっ?どうしました?」
「いえ、少しふらついただけです!なんともありませんよ!」
「それって大丈夫なんですか…?」
「おいおい頼むぜ?あんたがダウンしたら終わりだぞ?」
「何かあったら言って欲しいっす。」
「いえ、大丈夫ですよ!お気遣いありがとうございます!」
体に一切の不調は無い…
むしろ…今は気分が良い…
あの時と同じだ…!
やはり私には身体能力の強化が……!
まさか…私のこの能力が発動する条件は…
「では気を取り直して…この黒い紙は、一方通行の簡易的な『門』だ。教祖と遭遇した時にこれを床に広げて、小瓶の中の血をその上にかけてくれ。そうしてくれれば、私がその『門』を通じて君達と合流できる。」
「め…めっちゃ重要ですね…」
「これは…ジョゼフィーヌ。君に渡しておこう。」
「はい!お任せ下さい!」
渡された黒紙の内側を覗いてみると、二重の円の中に門のような物が描かれているのが見えた。
これは…恐らく魔法陣だろう。
「あぁ、それとこれも持っていくといい。」
【彼はそう言うと、コートの内側から銀のリボルバーを取り出し、彼女に手渡した。】
「そのリボルバーに込められているのは、高純度の銀でできた弾丸だ。大抵の魔物なら弾丸が直撃する前に近づいただけで蒸発するだろう。それと、そのリボルバーにも特殊な魔法がかけてあってな…持ち主の能力に合わせて、重さや反動を自動で調節するというものだ。きっと役に立つ。」
これは…私にとって…いや、私たちにとっても大切なお守りのようなものだ。
何故なら、このリボルバーのお陰で彼等を救うことが出来たのだから。
「はい…お預かりします!」
「さて…今ここで私に出来ることはもう無いな。」
「ってことは…行ってこいってことか?」
「そうなるな…それにしても、本当に君達と共に行けないことに関しては申し訳ないとしか言いようがないな…済まない…」
【彼は暗い声でそういうと、頭を下げた。】
「えっ!?いやいやいや頭下げないでくださいよ!むしろ俺は感謝してますし!行けないのもちゃんとした理由があって…そうした方が良いってことも分かりますし!」
「そうだな。まぁ、俺は願いを叶えてくれるっていう報酬が貰えるんならどうでもいいさ。」
「僕達が自分からここに来たんで良いっすよね。」
「そうですね!ですから…マーリンさん。自分を責めないで、来る時に備えて下さい。プレッシャーになるかもしれませんが…私達の命が、この世界の全てが、マーリンさんにかかっていますので…」
「ははっ…そうだったな。」
「こちらの事は私と皆さんに任せて下さい。何があろうと…私が皆さんのことをお守りいたしますので!
それに…私はこう見えても、今までに与えられた任務は全て完璧にこなせていますので!」
「こう見えてもって…ここにいる全員がしっかり想像出来ると思うぞ…?」
「…それは実に頼もしいな。本当に君達と出会えて心の底から良かったと思っているよ。」
【彼はそう言い終わると指を鳴らした。すると、どこからともなく『門』が彼らの前に現れた。】
「その『門』は山の麓の方に繋がっている。その『門』を通ればそこに辿り着けるが…二度と引き返すことはできない。」
「き…緊張するけど…もうこんな時間だし……行きましょうか?」
「あぁ。」
「そっすね。」
「そうしましょう!」
「最後に…君達に伝えておこう…」
【彼はそう言うと軽く深呼吸して間を置き、話し始めた。】
「これから君達を待ち受けるのは…人生においてこれから先二度と無いような壮絶な試練だ。出会う敵は皆、躊躇うことなく君達に牙を剥くだろう。それらに立ち向かうのも逃げるのも君達の自由だ。だが…どんな事があろうとその命だけは捨てないでくれ。」
「しっかりと…心に刻んでおきます。」
「良し…行くぞ。」
「あっ…はい!行ってきます!」
「頑張るっす。」
【彼等は覚悟を決めると、1人ずつ『門』を潜っていく。その開かれた『門』の向こう側には、青空と山が見え、その山頂には古城が見えた。】
「勇者達の旅路に平穏があらんことを…その旅の終幕に幸福があらんことを…」
「それでは私も…」
彼等に続いて『門』の向こう側へと足を踏み入れると、彼の小さな独り言が聞こえた。
「お前が今ここに居たなら…どれほど良かっただろうな…なぁ?『チャールズ』…」
「マーリンさん?その方は…」
後ろを振り返り、彼が放った言葉の意味を尋ねようとしたが、その時にはもう遅かった。
先程までそこにあった『門』は、門扉が閉じると同時に透明になってその場から消えていった。
「どうしたんだ?」
「いえ……問題ありません!気を引き締めて進みましょう!」
あとがき
ここまで読んで頂きありがとうございました!
次回からは古城攻略の山道編になります!
説明や設定等の説明ばかりでもしかしたらつまらなかったかもしれませんが、次からはやっと話が進みます!
感想・コメント、もちろん「分かりずれぇ!読みにくい!つまらねぇ!」的なものがここでは多かったと思いますので、そのようなコメントやアドバイスがあれば参考にしてリメイクに活かさせて頂きます!
それでは次回をお楽しみに!