第二部「破滅を照らす者:賢者との出会い」その2
目次
第4章「闇の祝福」(1)
第5章「闇の祝福」(2)
第6章「Install」
第7章「Lesson」
あとがき
※ルビ振りで次数的に足りない場合は、《》内にある文字をルビとして扱う場合もありますので、よろしくお願いいたします!
第4章「闇の祝福」
あの時の彼の様子は…とても迷っているようだった…
深く息を吸い込み、目を閉じていたあの姿からは…
何かに対しての強い抵抗の様なもの…罪悪感の様なものを感じた。
しかし…それは、この理解し難い話をする事への抵抗感では無かったが…
「あ…あの…『神からの祝福』って言われても…何が何だか…っていうか何も出来ないままですけど…?」
「それはそうだろう。何しろ、君達は『与えられただけ』であって『扱えていない』のだからな。例えるなら…ライトを手に取っただけで光が出ると思うかね?」
「スイッチを押さないと光が出ないっすね。」
「それと同じだよ。君達は今、『神』から『祝福』という名の機械を与えられただけで、電気を通したり、スイッチを押したりして起動させていない様なものだ。」
「なるほど…な…?」
「それでは…どうしたら良いのでしょうか?」
「私が君達のその『祝福』に電気を、いや…君達の体に私の『魔力』を流し込む。皆、私の前に横並びに立ってくれ。」
体に『魔力』を流し込む…?
【皆、彼の言葉に疑問を浮かべながら彼の前に並んだ。】
「え…え〜っと…」
「どうした?」
「その『魔力』って…痛くないですよね?」
「あぁ、痛みも害も何も無い。安心してくれ。」
「それで…俺達はどうすりゃ良い?」
「ただ、そこに立って気持ちを落ち着かせるんだ。さぁ…目を閉じて、ゆっくり深呼吸をするんだ。」
「分かりました!」
【皆がマーリンの言葉に従って目を閉じた。】
目を閉じると、静かな闇が広がった。
今はただ、自分と皆の息づかいが聞こえるだけだ。
「始めるぞ。」
彼の声が静かな闇の中へと消えていく。
…何だ…これは?
暖かい空気のようなものが体中を包み込んでいる…!
「あっ…えっ…?何か暖かいんですけど!?」
「まだ目を開かないでくれ。」
この感覚を味わっているのは私だけでは無いようだ。
しばらくすると、身体中を包み込んでいた何かが、ゆっくりと服を通過し、皮膚さえも通過した。
まるでストーブの熱が体の芯に届くかのように、アスファルトに熱が入り込むかのように。
恐らくこれが…彼が私達に流し込んだ『魔力』なのだろう。
体の中に『魔力』が完全に流れ込むと、突然、脳内にアドレナリンが放出されたかのように思考がクリアになり、目を開いていないにも関わらず、様々な光が視界に飛び込んできた。
本来の私なら、この異様な状況に即座に対応する為に警戒態勢に入っているはずだろう。
しかし、今はなぜか疑問は感じても、脅威を感じることは無かった。
むしろ、芝生の上に寝転がり、日光浴をしているかのような心地良ささえ感じる。
頭の中を何かが物凄い速さで駆け巡っている様な感覚を感じる。
闇の中で煌めいていた光が、車窓から流れる景色のように尾を引いて私の前から後ろへ流れていく。
すると、また新たな光が前から後ろへと流れていく。
その光景が繰り返される内に光の量が増え、光が流れるスピードが加速し、最終的には闇が光で埋め尽くされた。
そして、何か素晴らしいアイデアを思いついた瞬間のように、忘れていた記憶をある日突然思い出したかの様に、様々なイメージが脳内を駆け巡った。
何だ…このイメージは……ッ!
【彼女は自分の脳内に流れ込んだ何かを理解しようとしたが、彼女の目の前に広がっていた光が消え、『セーフルーム』へと帰ってきた。】
「カハッ…えほっ…ゲホゲホ…!」
息が…とても苦しい…!
私は…息を止めていたのか?
「戻ってきた様だな。」
そんなことよりも…皆さんは…ッ!?
「はぁ…はぁ…えほっ…息が……今のは…一体?」
「先ずは、そこに座って息を整えた方がいい。」
「し…死にそう…」
「クッソ……キツすぎんだろ……こうなる事くらい教えてくれても…良かったんじゃ…ねぇか…?」
「やばかったっすね。」
「それに関しては…すまなかったな。私にもどうなるかは分からなかったんだ。」
第5章「闇の祝福」(2)
「そろそろ落ち着いたか?」
「あぁ…俺は大丈夫だ。」
「大丈夫っすよ。」
「はい、私も大丈夫です!ですが…流輝さんが…」
皆が話せる様になっていたが、彼だけがまだ息を切らしていた。
「流輝さん…大丈夫ですか?」
「………俺…肺活量も…終わってたのか…」
「まぁ…こいつは明らかにもやし野郎だから仕方ないとはいえ…あんたは回復すんのが早過ぎないか?」
「はい!これも日頃の訓練の賜物です!」
あぁ…今までに行ってきたトレーニングを思い出す…
特殊設備を使用した酸素調節室での呼吸器系のトレーニング、効率的な呼吸法…
体力トレーニングを兼ねた長距離走と長距離水泳、山登りなどなど…
懐かしくて辛い思い出だ…
「君は…大丈夫か?魔法で酸素を吸入しやすくする事も出来るが……」
「…だ…大丈夫です…落ち着いてきました…」
「そうか…では、これから君達に『祝福』についての説明をしよう。」
「そういや…あんた、『祝福』は『神』がどうこうとか言ってたが…その『神』ってのは誰だ?」
「名前はまだ私にも分からないが…彼は私達に協力してくれる偉大な存在とでも言っておこう。」
「それで…その神様はどこに居るんですか?」
「彼は覚醒世界…今、私達が目覚めて行動している世界に物理的に干渉したり、実体を持って存在できないんだ。彼は、『魔法』で干渉したり、夢の中でしか体を構成できないらしい。」
「とりあえず良い神様なんすね。」
「…今のところはそう考えても良いだろう。」
『今のところは』?
何か含みのある言い方だ…
「それで…『祝福』ってのは?」
「人間は皆、微力ながら『魔力』を持っていてな。私達のような代々、魔法が使える人間でなければ産まれてすぐに魔法を使えないんだ。そう…先程の君達の『祝福』が覚醒していなかったのも君達の『魔力』が少なかったり、体の奥底で封印された状態だったからだ。」
「それで?」
「君達の『魔力』に…私達のような生まれつき『魔力』が強い人間、『活性者』の『魔力』を与えることで、君達も自分で『魔力』を生成したり、『魔力』が封印から解き放たれたりするんだ。」
「なるほど…だから、私達が『祝福』を扱えるようにマーリンさんが魔力を与える必要があったのですね…」
「そういうことだ。そして、『祝福』というのは、例えるならば、『神』が私達に与えた強大な力を持つ『特殊能力』だ。」
「その『祝福』ってのは具体的にどんな奴だ?」
「『祝福』には主に3つの特徴がある。」
「一つめは?」
「1つ、得られる『祝福』の数は個人差があるが、1人につき最低でも2つ以上は『祝福』を獲得する。これが何に由来するかは完全には分かっていない。」
「ふ…2つめはなんですか?」
「2つ、『祝福』の種類は『魔武具』、『魔道具』、『異能』の3つに分かれているということ。この3種類については後で軽く話そう。」
「3つめは何すか?」
「3つ、『祝福』はその人間の本質を元に発現する。つまり、その人物が得意とする事や物が能力として与えられたり、潜在的に最も合うものが能力となる。」
「なるほど…つまり、『祝福』の操作はそれほど難しくない…ということですか?」
「あぁ、『祝福』についてはこれから体験した方が早いだろう。」
「習うより慣れろってやつか…」
「そういうことだ…では、チュートリアルを始める前に最終工程に移ろうか。」
「最終工程?」
「先ほど行ったのは『祝福』の覚醒で、例えるなら必要なデータを見つけたというところだ。次に行うのは『祝福』との接触、見つけたデータのインストールを行うとでも考えてくれ。」
「なるほど!」
「では、始めようか。」
「はい、よろしくお願いします!」
第6章「Install」
「まず、君達が初めて『魔力』を流し込まれた時に脳内に流れたイメージを思い出すんだ。」
「あの時の…というのは、白い光に包まれたときですか?」
「あぁ、今やってみるといい。」
あの時のイメージか…
とりあえずやってみねぇと分かんねぇよな…
【マーリンに言われた通りに彼らは目を閉じ、初めて「魔力」を流し込まれた時のことを思い出した。】
「さぁ、よく集中するんだ。そして…個人差はあるだろうが、君達の脳内に流れたイメージの…名前や物体に触れるんだ。今は私が何を言っているか理解できないかもしれない。しかし、その目で見ればわかるさ。」
あぁ…全くそのおとりだ…
何を言ってるかさっぱりだが…やってみるしかねぇんだろ?
【星次は疑問を感じながらも彼の言う事を何とか理解しようとした。すると、目を閉じているにも関わらず、あの時のように光がまた彼を包み込んだ。】
またここか…てかあいつらも同じものを見てんのか?
この前はここで息が切れたんだよな。
それで…頭に流れてきたイメージ…な…
どうすりゃ良いか分かねぇんだが…
『能力はその人間の本質を元に発現する。つまり、その人が得意とする事や物が能力として与えられたり、潜在的に最も合うものが能力となる。』
確かあの爺さんはこんなこと言ってたよな…
俺が得意なこと…か…
【彼が様々なことを考えていると突然、彼の前に何かが現れた。】
は?
あれは……トランプか…
てかさっきまで無かっただろ。
しかも、空中に浮いてやがる。
『君達の脳内に流れたイメージの…名前や物体に触れるんだ。』
名前や物体…ってたな。
……取ってみるか。
【彼はトランプに近づいて、カードの束を手に取った。すると、トランプの束がまるで火山の噴火のように、1番上のカードから1枚ずつものすごいスピードで飛び上がり、彼の周りを取り囲んだ。】
…ったく、一体なんな…ッ!
【トランプに囲まれると同時に、彼の脳内にとあるイメージが完全に流れ込んだ。そのイメージとは、彼に与えられた全ての『祝福』の扱い方と能力だった。】
これが…俺の…
【彼は全てを理解したと言うよりも、『祝福』の全てを体に焼き付けられたという感覚に近いものを体験した。彼はそれと同時に、体中に力が流れ込むのを感じた。】
いつもより体が軽いな…さっきのやつのおかげか?
あ…?
今度は上の方からガサガサ聞こえんな。
【その音は彼の周りを取り囲んでいたトランプが擦れあう音だった。彼がトランプで出来た天井を見上げると、ちょうど彼の真上から1枚のトランプがひらひらと舞い降りてきた。彼は何気なくそのトランプを手に取ってみた。】
今気づいたがこいつは…ちょいと特殊な柄だな?
表のマークは…
【彼が手に取ったカードを裏返そうとしたとき、トランプでできた天井から1枚、また1枚と彼の元へとカードが舞い降りてきた。やがて天井の穴が広がり、周りのトランプの壁も崩れ去り、彼は元の世界へと帰ってきた。そして、床に崩れ落ちて広がっているはずのトランプは1枚も無く、彼が手に持っていたカードもいつの間にか消えていた。】
は?
さっきまで掴んでたよな…?
「その様子だと、皆が無事に『祝福』を掴めたようだな。」
第7章「Lesson」
「あれっ?さっきまで持ってたのに…」
おかしいなぁ…
確かに手に持ってたのに…
「僕もなんか強そうなハンマー持ってたんすけどね。」
「俺もだ。気づいたら消えてたな…」
「私もです…」
【彼らは自分の手元を見て違和感を感じていた。】
良かった…!
これで俺だけ『祝福』使えなかったらただの足手まといだもん!
まぁ…今も足手まといだけど…
「今、君達が行ったのは先ほど説明した『祝福』のインストール。そして、君達が手に入れたものは…これから名を呼ぶだけで使えるようになる。」
「名を呼ぶだけで…?」
「そうだ、この様にな…」
【マーリンはそう言うと、右腕を前に真っ直ぐ伸ばして手を広げると『祝福』の名を呼んだ。】
「終わり無き日没《Endless Dusk》!」
【名を呼ぶと同時に、何かを掴むように手を閉じた。すると、彼の手の内側に出来た影が溢れ出し、その影は黒色の剣となった。それは僅か1秒以内の出来事であり、彼等には手を閉じたと同時に剣が現れたように見えた。】
「えっ!?」
い…いきなり剣が…!?
「本当に名を呼んだだけで…!」
「まぁ、呼ばずとも取り出せるが、『祝福』に慣れるまではこの方が良いだろう。」
「これが…あんたの『祝福』…いや『魔武具』か?」
「あぁ、そうだ。」
「マーリンさんの『魔武具』は、影を物質として剣を作り出したという事でしょうか…?」
「あぁ、正解だ。君はやはり理解が早いな。」
「えっ?」
何で…今の見えてたんだろ?
早すぎて何にも分からなかったのに…
まぁ、ジョゼフィーヌさんだしおかしくないか!
「マーリンさんもジョゼさんも凄いっすね。」
「ところで…あんたの『祝福』はいくつあるんだ?」
「詳しいことは言えないが、この剣を含めて3つあるとだけ言っておこう。」
あれ?
えっと…確か、『祝福は1人につき2つ以上』だったよね?
マーリンさんはもっと持ってる方だと思ってたけど、少ない分だけ強い…みたいな事があったり?
「さて、これから君達にも『祝福』を使ってもらう訳だが、その前に軽く『魔武具』について軽く話しておこう。」
「はい、よろしくお願いします!」
「まず、『魔武具』は基本的に壊れることは無い。」
「えっ!傷一つ付かないんですか!?」
「あぁ、一切な。」
「それでは、この世界の武器に対して極めて有効的という事ですね!」
「強っよ…」
「そんじゃあ、ちょいと雑に使っても良いんだな。」
「次に、『魔武具』と『魔道具』には特殊能力がある。」
えっ?
ただ強い武器が出せるってだけじゃないんだ!?
「そんで、その能力ってのは?」
「主に、持つだけで常時発動するものや、魔力・生命力・精神力のいずれかを消費して発動するものがある。」
「え…え〜っと…例えるなら、『パッシブスキル』と『スペシャルスキル』みたいな感じですかね…?」
「あぁ、その考え方で問題無い。そして…信頼の証として、『終わり無き日没《Endless Dusk》』の能力を君達に教えておく。」
「おぉ…!」
マーリンさんの剣の能力!
めっちゃかっこいいし強い能力ありそう!
「流輝君の言葉を借りて説明すると、この剣には3つのパッシブスキルと1つのスペシャルスキルがある。パッシブスキルは、『黒魔術の強化』、『暗闇での剣の威力の強化』、『夜間に剣の威力を強化』だ。」
「スペシャルは何すか。」
「スペシャルスキルは、『影の操作・実体化』だ。この能力の強みは、影での防御と攻撃が行えることだ。例えば、影を壁として実体化させて攻撃を防いだり、影を刃や槍として実体化させて、対象を八つ裂きに出来る。」
「チートじゃん!」
え?強くないですか!?
「はっ!…思わず言葉と心が逆に…」
「まぁ…チート級だよな…」
「はい…私も影を実体化できるという能力を知った瞬間に、マーリンさんには勝てないと悟りました…」
「すまないが、少しでも私の『祝福』を敵に知られない様にする為に、能力の詳細と他の『祝福』については伏せさせてもらう。」
「あ?何でだ?俺達で戦うんだったら…お互いに手札を知っとくべきじゃねぇか?」
「同じ場所に皆で出向くなら…確かにそうだ。だが…」
【彼は1つ間を置いて続けた。】
「…私は君達が教祖と遭遇した瞬間に合流する。」
「はぁ?」
「え…!?」
魔法のこと全く知らない俺達だけで突撃って…
ヒューン、ヒョイッ!で終わりだって!
「理由は、体力を温存し、切り札の情報を与えず、教祖を確実に仕留める為だ。それに私が君達と共に出向けば、『魔力検知』系統の結界…つまり、センサーに引っかかり、全ての教団員が私の元に来るかもしれないからだ。」
「なるほど…そうなると、ターゲットの元へ万全の状態で辿り着くことはできず、最終決戦に支障が出ますね…」
「だが、その代わり、君達にとても有用な物を用意してある。」
「というと?」
「それについては後で話そう。今は、君達の『祝福』を確認するのが優先だ。」
「あ…はい!」
「さて…先ずは誰から『祝福』を確認する?」
あとがき
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!
今回は長くなってしまいましたが、読みやすさ、キリの良さを重視させて頂きました。
そして、pixivの方よりも分かりやすくするために、章の順序を変えたり、文章を一部変更させていただいております。
そのため稀に、文章が少しおかしくなったりpixivの方とは内容が大きく変わるかもしれませんが頑張って行こうと思いますので、何かおかしな部分がみられた場合はご指摘いただけると幸いです。
長くなってしまいましたが、コメント・感想もお待ちしております!
それでは次回もお楽しみに!
ちなみに、挿絵やMAPにはibis Paint X様、Sword Maker様、AI(画像生成AI様、Spellai様)を使用させていただいております。
今回登場した剣は、スマホアプリのSword Maker様を使用し、制作させて頂きました!