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志は遂げたのかー天狗の今弁慶ー 5

「全海入道よ。お前の志とやらは遂げたのか」



 お前は、田中愿蔵ではないか。なぜお前がここにおる。

 悪逆非道の罪を犯したお前なんぞ二度と見たくないと思っておったが、再び面を拝むことになるとはな。

 よくも俺の前にのこのこと姿を現せたな。我ら天狗党の面汚しめ。

 俺はお前が行った不埒を決して許さんぞ。

 天狗党の幹部、武田耕雲斎様、田丸稲之衛門様、山国兵部様も幕府軍との戦いで共闘した仲とはいえお前を許したわけではない。


 小四郎殿と共に烈公に連れられて不動院にやってきた十六になるお前を初めて見たときは、眼光鋭く利発そうな若者だと思ったが、とんだ見込み違いであったぞ。

 

 二度目にお前に会ったのは小四郎殿が筑波山で同志を募っていた時であったな。

 俺は小四郎殿の挙兵を聞いていてもたってもいられず、一人で営んでいた不動院をあとにしてすぐに筑波山に向かった。

 その道中で出くわしたのがお前ら野口村の郷校、時雍院の者たちだった。

 館長を務めていたお前がその連中の頭領となっていたことから田中隊と呼ばれておったが、髪を散切りに揃えていたことからザンギリ組とも呼ばれておった。


 烈公の御意思を受け継ぎ、勅命に従い攘夷を決行する。まずは手始めに、開港している横浜港を実力行使をもって閉鎖する。という名目で全国各地の草莽の志士が千人ばかり筑波山に集まった。

 しかし、一つ問題があった。それだけの人数を養うだけの食料と、横浜港閉鎖のために使用する武器弾薬がなかったのだ。

 そこで資金が入り用となった。


 お前が率いる田中隊がその軍資金集めの役を買って出たのは良かったが、そのやり方がまずかった。


「軍資金を差し出せ。さもなくば一命をもらい受ける」


 そう言ってお前は筑波山近隣の村商人の家に押し入り、強盗まがいのやり口で金を奪ったというではないか。


 なかでも栃木宿の事件を聞いたときは耳を覆いたくなった。

 元治元年(1864)六月五日、栃木宿を通過したお前らは罪のない庶民を切り殺した挙句、軍資金を出し渋った商人に憤り町に火を放ちやがった。

 さらには消火にあたろうとした町人を次々と斬殺し、焼け失せた家屋二百戸以上、殺した人の数は十数人は下らないというではないか。

 

 それだけではない。

 六月二十二日には真鍋宿でも同じように放火し、町人が逃げていなくなった家から金を盗み、何人もの庶民を傷つけ殺しおった。

 

 この二つの報を聞いたあと、我々と別行動をとっていた田中隊と再び合流しお前を見たときは殴り殺してやりたくなったわ。

 

 筑波山の挙兵がどのような志のもとで行われたか、お前は理解しているのか。

 異国との貿易で作物の価格が高騰し、民百姓が苦しんでいるのを助けるためではないのか。

 清国のように我が国が異国によって支配され、この国の人々が苦しまないようにするためではなかったのか。

 こう問うた俺に、お前はなんと答えたか覚えておるか。


「そのようなことは百も承知だ。だがな、攘夷を実行しようとする我らに力を貸さぬ者どもは、売国奴も同然。天誅が下っても文句は言えまい」


 道理に合わぬことを平気でぬけぬけとほざきおった。

 

 結局お前ら田中隊は、筑波勢から除名することに決まったではないか。

 お前らの行為を世間は、筑波勢全体の行為とみなした。

 守るべき民百姓から我々は恐れ避けるべき相手となってしまったのだ。

 しかもお前らを真似て、軍資金調達と称して白昼堂々、強盗を犯す、偽天狗と呼ばれる輩も出没するようになってしまった。

 

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