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婚約の終わりを告げられたのでアッパーをかましてやった

作者: 黒うさぎ

「サーラ、僕たちの婚約を終わりにしよう」


 その発言が出たのは、二人で我が家の庭園を散歩していたときだった。


 いつものように遊びに来ていた婚約者のロベルト。

 貴族の子として産まれた以上、政略結婚は避けられない。

 その例に漏れることなく、私とロベルトも家同士の繁栄のために物心つく前から婚約が結ばれていた。


 貴族の娘として、婚約者に愛情など求めてはいなかった。

 しかし、ロベルトは常に私を気にかけてくれた。

 頻繁に顔を見せに来ては、他愛ない話に花を咲かせる。

 そんな日々を重ねていくうちに、私はロベルトの穏やかな人柄に惹かれていった。


 そしていつしか、婚約者がロベルトで良かったと思うようになっていた。

 そしてそれは、ロベルトも同じだと思っていた。


「……ロベルトは私のことどう思っているの?」


「そうだね。

 サーラはお転婆で、自分に正直で、貴族である僕に対してもわりと本気で容赦のないことを言うよね。

 怒ったときなんかはよく手も出るし。

 他の令嬢と話したことはあるけど、サーラのような子には会ったことがないよ」


 どこか感情的な声のロベルト。


 ……ああ、そうか。

 つまりロベルトは私よりも清楚で、慎ましい令嬢の方が好みなのか。

 よく会いに来てれたのも、私が婚約者だから。

 それ以上でも、それ以下でもなかったのだ。


 二人の時間に幸せを感じていた私の姿は、さぞ滑稽だっただろう。


 不思議と怒りは湧いてこなかった。

 あるのは虚しさだけ。


「……あなたがそれを望むなら、私は受け入れるわ」


 私と違ってロベルトはこの婚約関係を我慢してきたのだ。

 せめて最後くらい、ロベルトのためになろう。


 ぎゅっと口を結び、私は下を向いた。


 しかしロベルトは何を思ったのかそんな私の前に跪くと、そっと私の手をとった。


「結婚しよう」


 ……はて、聞き間違いだろうか。


「……今、何と?」


「実は父に頼んで僕たちの結婚を早めてもらったんだ。

 サーラの父上も嬉しそうに了承してくれたよ」


 いつもの屈託ない笑顔を向けてくるロベルト。


「……婚約を終わりにしようというのは、つまり?」


「僕たちは晴れて夫婦になるわけだからね。

 婚約者の関係でいるのもあと少しだと思うと、なんだか感慨深いものがあるなぁ」


「……私を嫌いになったわけではないのね?」


「まさか!

 僕は昔からずっとサーラのことが大好きだよ!」


 ふう……。

 つまり、私が早とちりをしてしまっただけというわけだ。

 ……ロベルトごときに弄ばれるなんて。


 今ごろになって、怒りがふつふつと湧いてくる。


「そこに立ちなさい!」


「どうしたんだい、急に?」


「いいから早く!」


 よくわからないまま、ロベルトは私の指示通りに立ち上がる。

 並んで立つと私より頭一つ背が高いのが分かる。

 ちょうど正面を向くと、形のいいロベルトの顎が視界に入った。

 うん、いい位置だ。


 私は軽く膝を曲げて屈むと、勢いよく跳ね上がり右の拳をその顎へと叩き込んだ。


「紛らわしいのよ!!」


「あふんっ……!」


 私の右はロベルトを一撃で地面に沈めた。


「ああ、やっぱりサーラは最高だ……!!」


 横たわるロベルトの顔に恍惚の笑みが浮かんでいる意味を私が知るのは、もう少し先の話である。


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