ダグラス:ジャイアント・ハルキゲニア
■Side-ダグラス
「なんだ、これは……」
今日から二週間、学園は休校になる。
この期間を利用して、俺たちは竜の討伐に行く事になった。
ノダから早い足を用意されると言われて、町外の馬小屋を尋ねる。
「ジャイアント・ハルキゲニアだね」
謎生物を見上げる俺に、サムが何気ない様子で答える。
「いや、名称を説明されても理解できないんだが……」
呆然として、件の生き物を見上げる。
既存の生き物と系統が違い過ぎて、表現が難しい。
体高は三メートルぐらいだろうか。
丸太の様な動体に、細長い足が何本も生え、背中に刺が突き出し、そこに椅子や荷物を載せるスペースが搭載されている。
頭部は円口類にみられる様な口がついていて、一対の単眼が見えた。
「これ、大丈夫なのか……?」
「ワイバーンの次には早いね。積載量と地形適応性を考えれば、こっちの方が優秀かも」
「そ、そうか……」
その割には、今まで見た事はなかったが。
まあ、個体数の問題か何かがあるんだろう。
ジャイアント・ハルキゲニアはめちゃめちゃ早かった。
魔導バイク程では無かったが、馬とは一線を格する速度だ。
しかも、不整地だって難なく走る。
「ダグラス君、そろそろご飯だから皆を呼んできてくれる?」
焚き火の番をしながら、レジーナが声をかけてくる。
「ああ、分かった」
星明かりを頼りに、ペンギーとサムを探しにいく。
二人とも当然の様に視覚強化系のメタモルのスキルを持っているから、光源で探せないのは面倒だな。
俺も練習しておけばよかった。
「おーい、飯の時間だぞー!」
声を出しながら、気配のする方に歩いていく。
この辺りは魔物も少ないし、パーティの能力を考えてもあまり警戒は必要ない。
「誰か、いるのか?」
茂みの向こうで、物音が聞こえる。
「ん……ダグラス。呼びにきてくれたのかい?」
茂みをかき分けた先には、サムが居た。
……全裸で。
「な、な、なんっ……」
「ああ、ちょうど良い川があったから……水浴びをね」
薄暗い、夜空に溶け込む様な髪と猫耳。
キラリと光る、海色の瞳。
アスリート様な、ある種の芸術性すら感じる引き締まっていて、それでいて柔軟性を感じる裸体が眼前に広がっている。
「何で、隠さないんだよ!」
彼女が全く隠す様子が無いので、仕方なく俺が後ろを向く。
「ダグラス。人が、何かを隠す理由って何だと思う?」
「そんなの、人と物によって色々あるだろ!」
俺の答えに、彼女の声が後ろから聞こえてくる。
「誰かにとって、価値がある物だって事は共通しているだろ?」
「……だから、隠す必要が無いって事か?」
俺はサムの方へ向き直る。
彼女は相変わらず体を隠す様子は無い。
「ああ、星明かりでも分かるだろう? 僕の体に隠す程の価値があるかい?」
「それは、その傷の事か?」
彼女の体には、無数の傷跡が刻まれていた。
「僕はこれまで、沢山の悪いことをしてきた。こんな汚れて傷だらけの体、隠す程の価値は無いよ」
俺はムカついて、そんな事を言うサムへズカズカと近づいていく。
「だ、ダグラス?」
「そんな訳、無いだろ!」
そのまま、彼女の両腕を掴む。
「その傷は、サムがこれまで頑張ってきた証拠だろ! 俺は愛おしいと思う」
「ちょっ……」
「悪事をしたから汚れている? ふざけるな。俺は、サムが今までずっと悩んで、苦悩してきたのを知っている。誰であろうと、その努力を否定なんてさせるもんか!」
「で、でも……」
言い淀む彼女をしっかりと見据えて、俺は続ける。
「異論があるなら言ってくれて良い。だけど……俺は全部、論理的に説明して見せるぞ」
「わ、分かったよ……」
サムは俺から視線をそらして、小さく呟いた。
「本当か?」
「あ、ああ」
「何なら、この場でもっと細かく説明したって良いぞ」
「いや、いらないよ。そ、それよりその……」
彼女が、何かモゴモゴとしている
「……?」
「は、はずっ。恥ずかしくなってきたから、離してくれないかな……」
「わっ悪い!」
ハッとして、俺は彼女の腕を離す。
そして、後ろを向いた。
「先に、テントの所に帰ってる」
「ああ、僕もすぐに行くよ」
「分かった」
歩き去ろうとした時、後ろから呼び止められる。
「ダグラス……ありがとう」
「いいや、俺は事実を言っただけだ」
「ふふっ……そうかい」





