ペンギー:そ、そう言うのじゃ無いから
■Side-ペンギー
野営している陣地で、子供達が初めての実戦に高揚しているのが分かる。
あれは多分、実際に戦闘が始まるとビビって動けなるなるやつだ。
まあ、七歳から九歳の子供だし、仕方ないと思う。
そんな中、ダグラス君を探すと……彼は、怯えていた。
彼の高い知性が、これから起きること、その意味を正しく理解させている。
本当に、すごい子だよね。
「ダグ」
後ろから声をかけて、彼の手を捕まえる。
指先は冷たくなっていて、小刻みに震えていた。
彼は、私に本当の自由をくれた。
八歳の子供と思うのは、やめよう。
対等な、一人の男として扱うべき人だ。
「……情けないだろ」
「それはね、恥じることじゃ無いんだよ」
「だけど……この場を仕切る人間が、こんなんじゃ」
「大丈夫、他の子には、バレてないよ」
私は彼の手を握ったまま、彼の前に回り込む。
「その気持ちを、押し殺すんじゃなくて、受け入れて、自分の物にして」
恐怖は、時に、動きを、判断を鈍らせる。
だけど、人間がもつ、最強の危険感知センサーだ。
本当の戦士は、恐怖を受け入れた上で、それを利用する。
「俺には、そんなことできない」
「ダグなら、必ずできるよ」
私は、やりたく無いことは絶対にやらない。
だから私はお世辞を言わない。
これは、私の本心だ。
「……」
「もうっしょうがないな」
思い切って、彼の体に抱きつく。
「ペンギーっ」
メタモルは、魔物の呼吸と魔力の循環を模倣するクラスだ。
これによって、魔物の持っている能力を一時的に得られる。
ワイバーンなんかの魔物はこうやって浮力を得ていた。
別にパーソナルに表示されていなくても、再現さえできれば。
スキルの効果は得られる。
「呼吸と、魔力の流れを感じて」
メタモルは、習得の難しいクラスだ。
一つ、スキルを得るのに平気で数ヶ月かかる。
「……どう?」
せめて、呼吸だけでも再現できれば、気休めにはなるはず。
「すー、はー」
「そう、呼吸はそんな感じ」
……落ち着いて考えてみると、この状況ってどうなんだろう。
呼吸と魔力を感じてもらうにはこの方法が一番手っ取り早かったんだけど。
ねえ、これ、周りからどう見えてる?
「……」
なんかあっさり、再現できちゃってるね?
えっと、さ。
私もメタモルの習得は得意だから、人のこと言えないんだけど。
やってみて、その場でできちゃうのは、あんまりだと思うんだよね。
「なんで、不機嫌そうなんだよ」
うっさい。
私に近づくな天才め。
しばらくして、狼に遠吠えが聞こえてきた。
うん、分かるよ。
まだ遠いって、獲物に思わせたいんだね。
それなら、本命はすぐ近く……声とは別の方向。
「そこ!」
声を出して、剣を突きつける。
同時に、私たちへ突撃してきた。
「がぁ!」
獣にしか効果が無いけど”挑発”のスキルを使う。
三匹を私に、一匹をダグに、一匹を他の子たちに分けた。
「がう!」
一匹目が、私に飛びかかる。
逆手に持った短剣で、払い除ける。
「ぎゃうん」
払い退けて開けた視界に、もう一匹が迫る。
短剣の柄でそらす。
「ふん!」
再び、視界が開ける。
最後の一匹は、地を這う様に飛びかかってきていた。
「一匹め」
順手に持った剣を、突き刺して、狼を地面に縫い付ける。
「もうっ」
直後、二番目に突撃してきた狼が飛びかかってきた。
腹にハイキックをお見舞いして、剣を抜く。
「二匹め」
はじめに飛びかかってきた狼が復活して襲いかかってくる。
足を餌に吊り上げて、切り伏せる。
「三匹め」
ハイキックをいれて、地面でのたうちまわる最後の狼に、とどめをさす。
「むぅ」
まだ成長途中だけど、弱い。
生前なら、最初に飛びかかられた時に三匹とも倒せていた。
「ダグは……」
気になって、ダグの方に視線を向ける。
普段の彼からは考えられない様な、めちゃくちゃな戦い。
流石の天才ダグラスでも、初戦ならこんな物だろう。
ちなみに、他の子たちは一匹の狼を取り囲んで右往左往している。
「でも……」
あれで、正しいのだと思う。
ダグラスは今までも、初めから強かった訳では無い。
物凄い勢いで学習して、今の強さを手にれいた。
それなら、私だって。
新しい人生を手に入れて、成長しちゃいけない理由は、無いよね。
やってやる。