とある冒険者:新人募集
■Side-とある冒険者
慣れない都会の街並みに戸惑いながら、地図に示された地点にたどり着く。
眼下には地下へ続く階段と、扉が見える。
ここが、この町最大の冒険者の酒場らしい。
「すーはー」
一度、深呼吸をする。
俺の冒険は、ここから始まるんだ。
「うっ……」
思い切って扉を開ける。
すでに満員の様子で、人でごった返していた。
なのに騒がしい様子は無く、たまにヒソヒソとした声が聞こえるだけだ。
扉を開けた俺に、周囲の視線が突き刺さる。
「お兄ちゃん、冒険者になりに来たのだ?」
カウンターの方から声がかかる。
そちらを見ると、竜の様な翼と角を携えた金髪の幼女が俺をみていた。
「あ、ああ。どこかのパーティに入れて欲しいんだが……」
彼女の青い蛇目が、怪しく輝く。
「ふむふむなのだ」
彼女はそう言うと、カウンターの客に声をかける。
「オシエスキーおじちゃん、ボトル一本でお願いなのだ」
「はいよ」
オシエスキーと呼ばれた男性は軽く頷き、俺を自分の隣の席へ促す。
促されるまま、俺はそこに腰を下ろした。
「俺が色々と教えてやるよ」
「ありがたいですが、お店に何の利益があるんですか?」
話の流れからして、店はすでに何らかのお酒をボトル一本分、出資している。
俺みたいな新米冒険者に、それをするだけの価値があるとは思えない。
「あの子が目で見て判断したんだ。俺たちには話からねぇが、きっと意味があるんだろう」
あの目は、人のものではなかった。
何らかのスキルだろうか。
「坊主、この酒場のルールは分かっているか?」
「はい、以前、村に来た冒険者の方に聞いています」
酒場はクラン単位でテーブルか、個室を割り当てる。
クランは複数のパーティを持って、それを管理している。
「それなら、話は早いな。今日来たのは、幸運だったぞ」
「と言うと?」
「この酒場では数ヶ月に一度、新人を募集する催しが開かれる」
「それが、今日って事ですか?」
「ああ、そうだ。普段は門戸を閉じている様な高ランクのクランも、今日だけは新人が入れる可能性がある」
オシエスキーさんが店の入り口を指差す。
「もう直ぐ、新人を募集しているクランのメンバーが入ってくるはずだ」
それで、俺に視線が集まっていたのか。
「俺が順番に説明してやるから、自分に合いそうなクランに応募してみるんだな」
「ありがとうございます!」
「なに、ボトル一本分の仕事はするさ」
そうこうしていると、入り口の扉が開く。
周囲のヒソヒソ声が一際大きくなった。
オシエスキーさんが教えてくれる。
「この酒場でも老舗のクランだ。規模も大きいし、安定感がある。ただし、ファイターが飽和気味だから坊主が前衛を目指すなら、競争率は高いぞ」
「なるほど……」
新人募集中のクランが入ってくる度に、オシエスキーさんが丁寧に解説をしてくれる。
何組か過ぎて、新しく入ってくる人も途絶えた。
「今回は、こんな所か」
オシエスキーさんが、グラスを煽る。
何処のクランに応募してみようか考えていると、扉が再び開く。
「おぉ……」
周囲から、驚愕の声が上がる。
オシエスキーさんも驚いた様子で、咽せていた。
「”軍神”ダグラス……」
何処かから、そんな声が聞こえる。
先頭を歩くのは、背の高い青年だ。
背中にはハルバートを背負っている。
「有名な人何ですか?」
「バルバナット帝国の一週間革命は知っているだろ?」
「はい、噂ぐらいは……」
バルバナット帝国で革命が起きて、しかもそれが一週間で成功した話は、世界中を駆け巡った。
俺の暮らしていた田舎にも話は届いている。
「先頭を歩く青年がいるだろ? 彼が革命の指導者だったとされている」
「なんっっ!?」
俺には、政治の事はよく分からない。
だけど、それが途方もなく凄い事であるのは分かる。
「何でも、皇帝にさらわれ、奴隷にされた幼馴染を助けるために革命を起こしたらしいぞ?」
まるで、冒険小説の主人公みたいな話だな。
もしかしたら俺は今、歴史の登場人物を見ているのかもしれない。
そう思ったら、何だか感動してきた。
「ダグラスさんの後ろにいるちいさっ「しっ!」」
途中まで言いかけた所で、オシエスキーさんに口を塞がれる。
ダグラスさんの後ろを、少女が歩いていた。
身長は150センチ程で、肩幅も小さく、風が吹いたら飛んでいってしまいそうだ。
良く手入れされているのか、薄暗い酒場でも金糸の様な髪が彼女を装飾している。
ちらりと見えた顔は線が細く、背中に背負っている大鉈がなければ迷い込んだ子供と間違える所だ。
「あれは”鉄腕”のペンギーだ」
”鉄腕”、または”剣の妖精”のペンギー。
その名前は、村にきた吟遊詩人の歌で聞いた事がある。
一週間革命を象徴する剣闘士の一人だ。
そして、彼女の逸話で有名なのが。
「いいか、彼女は非常に、凶暴だ。万が一、気分を害したらその瞬間に殺し合いが始まる事になるぞ。まあ、間違いなく一方的な斬殺になるだろうが」
俺が無言で頷くと、オシエスキーさんはゆっくりと俺の口から手を退ける。
ペンギーさんの後ろに視線を向けると、大きな尻尾の、リス獣人の女性が見えた。
「彼女も、何か特別な人物ですか?」
「あのパーティで唯一、冒険者らしい冒険者だな。二つ名は無いが、名はレジーナと言うらしい」
全員が全員、二つ名持ちの怪物という訳でも無いらしい。
ついで、最後尾に視線を向ける。
「その後ろにいるのは……?」
レジーナと言う女性の、さらに後ろ。
僅かに青色が入った黒髪に、同色の猫耳。
深海の様に深い青色の瞳。
「あれで、ククリ刀を持っていたらまるで……」
「忘れろ」
俺が途中まで声に出した所で、オシエスキーさんが平坦な声でそれを遮る。
「え……?」
「世の中には、気づかない方が良い事もある。”死神”サムは死んだんだ。そうだろ」
「は……はい」





