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ダグラス:そろそろ混ぜろよ

■Side-ダグラス


 狼の遠吠えが聞こえる。

 声のする方に視線をむけていると、ペンギーの声が響いた。


「そこ!」


 彼女が剣で示す先をみると、狼が俺たちの方に走ってきていた。

 彼女の方に三匹、俺に一匹、他の子供たちに一匹と、別れる。


「うぉりゃぁぁあああああ!」


 襲いかかる狼に、ハルバートを振り下ろす。

 距離を見誤って、空を切る。


「うわぁああ!」


 即座に、狼が飛びかかってくる。

 咄嗟にハルバートの柄で受け止めた。

 体格の差からか、なんとか吹き飛ばす。


「こぉのやろぉおお!」


 吹き飛ばされた狼は、立ち上がろうとしていた。

 そこに、ハルバートを振り下ろす。

 今度はちゃんと、当てることができた。


「ふぅ……」


 一息ついて、周囲を確認する。

 ペンギーはすでに三匹とも倒した様で、こちらを見ていた。


「やるじゃん」


 声には出さなかったが、口だけでそう行った。

 俺は、サムズアップして答える。




 しばらく、狼たちの散発的な襲撃が続いた。


「ペンギー、次からはもっと俺の方の担当を増やして良い」


「気づいてたんだ?」


「流石にな」


 今、この場が持っているのは、ペンギーが狼の大半を引き受けてくれているから。

 明らかに、ペンギーに狼が集中していた。

 それから、俺には最低でも二匹、偶に三匹の狼がくる様になる。


 しばらくして、狼の襲撃がピタリとやむ。


「ふぅ」


 思わず、一息つく。

 大変だったが、得られる物も多かったな。


「や、やったぞ!」


「俺たち、生き残ったんだ!!」


 終始ビビりまくって、全員で一匹を倒すのがやっとだった子供が歓声をあげる。

 別に、彼らが悪い訳では無いと思う。

 普通、そうなる。

 前世の知識を持つ俺でも、キツかった。

 ペンギーが如何にヤバイかがよく解るな。


「ダグ!!」


 ペンギーの声にハッとして、周囲を見た。

 眼前に、大きな狼が迫る。


「がぁぁああ!」


「アオォォオオンン!!」


 恐怖で、体が動かない。


「がふっ」


 視界が、めちゃくちゃになる。

 吹き飛ばされて、地面に体を強く打ち付け、仰向けにその場に転がった。


「ちくっしょ……」


 痛い、痛い、怖い。

 これが、この痛みが、この恐怖が、この世界か。


「ぐっ……がふっ」


 立ち上がろうと、体に力を込める。

 痛みに耐えきれず吐血して、再び地面へ転がった。


「すー」


 視界の端で、ペンギーが戦っているのが見える。


「はー」


 彼女の動きが、いつもと違う。

 前はもっと、最適化された様な、コンパクトな動きだった。

 今は、なんというか、野生……動物的だ。

 なぜか、狼を彷彿とさせる。


「すー」


 そうか、俺が彼女から学んで成長した様に。

 彼女もまた、この戦いで成長しているんだ。


「はー」

 

 俺だけ、こんな所で寝ていられるか。

 もう一度立ち上がろうと、体に力を込める。


「うっぐ……」


 たて、ない。

 彼女は、どうして動けるんだ?

 あの華奢な体で、どう見ても俺より体力があるとは思えない。

 それでいて、俺たちの中で一番動き回って、今でも疲れを見せていない。


「すー、はー」


 そうか、メタモルのスキルだ。

 戦闘中に、なんらかのメタモルのスキルを発動しているのだろう。


 俺は、彼女と一緒にこの世界を冒険したい。

 それなら、こんな場所で寝ている場合じゃないよな。

 

 彼女の呼吸を再現しよう。

 彼女は戦闘中で、呼吸が乱れている。

 どの呼吸に意味があって、どの呼吸が関係ないのか、俺には解らない。


「すっ……はー」


 それでも、その呼吸を再現する。

 この距離では、ペンギーの魔力の循環を感じることはできない。

 それでも、とにかく、めちゃくちゃに身体中に魔力を循環させた。


「すー……はー」


 ふと、体が軽くなる。

 ゆっくりと、体に力を込めていく。

 ハルバートを杖の代わりにして、体を起こす。


「う……そ」


 体は、今も痛い。

 あの大きな狼を見ていると、腹の底から恐怖がこみ上げてくる。

 だけど、今はそれも、受け入れることができていた。


「そろそろ混ぜろよ」

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