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ダグラス:再びの海へ

■Side-ダグラス


「僕は、この島で待っていようか?」


 出港間近になって、サムが口を開く。


「……どうしてだ?」


「船が沈んだのは、僕のせいだろう?」


「違う、クラーケンの襲撃が原因だ」


「僕が乗った船は、今まで全て沈んでいるんだ」


「そうみたいだな」


「だから……!」


「そういうスキルか、呪いを受けている訳じゃないんだろ? それなら、それはただの偶然だ」


「だけど……」


「理由が無いなら、置いていく理由は無いよな」


「えっと……」


 俺の言葉に、サムが言い淀む。

 ここで彼女を置いていくなんて、あり得ない。

 まあ、大陸に付いたら二度と、サムと一緒に船に乗る事は無いだろうが。


「ほら、行くぞ」


「……うん」







「おい、あれを見てくれ!」


 船に乗って、10時間ぐらい。

 夕日の向こうに、大陸が見えてきた。


「見えました、サアドの町であります!」


「やっと、やっと文化圏に帰れる!」


 俺の作った魔道回路のスクリューも、問題なく機能している。

 この調子で行けば、今晩中には港に到着できそうだ。


「皆、注意して!」


 歓声が上がる中、レジーナが注意を促す。

 俺たちは即座に武器を構えた。

 彼女は、このチームの感覚器官だ。


「……」


 ゆったりとした波が、船を僅かに揺らす。


「九時の方向、巨影を確認!」


 ヴォイテクの言葉と同時に、大きな水しぶきが上がる。

 何本もの千切れた触手を動かし、海面から出た目には大きな切り傷。

 およそ一ヶ月前、俺たちが乗っていた船を襲ったクラーケンだ。


「おいおい、なんでこんな危険地帯を船は通ろうとしてたんだよ!」


「この辺りは浅瀬だから、クラーケンみたいな大型の魔物は来ないはずなんだけど……」


「理由はどうあれ、戦わない訳には行かないか」


 だが、どうする。

 水中では、どう考えても勝ち目は無い。


「サム、あの、めきょってするヤツは使えるか?」


「使った瞬間、船が沈むね」


 くそう、ダメか。

 頼みの綱は、唯一空中戦ができるペンギーか。


「ペンギー!」

 

 俺は、ハルバートを大きく上段に構える。

 そして、虚空へ向けて振り抜く。

 途中でペンギーが乗り、クラーケンの方へ大きく投げ飛ばされる。


「我が前に立ち塞がりし敵を吹き飛ばせ! テンペスト・サイクロン!!」


 本来は、対象を吹き飛ばす技。

 それをあえて地面方向に打つ事で、さらなる推進力を得る。


「俺たちは、触手から船を守るぞ!」


 船を叩き潰そうと、触手が迫る。


「させるか!」


 襲いかかる触手を、各々の武器で振り払う。

 しかし、長くは持たなかった。

 水中から突き上げる様な触手の攻撃によって、船が崩壊する。


「な、に……!」


 崩れていく足場。

 視線の先に、空中でクラーケンと闘うペンギーの姿が映る。

 

 しかし、それも一瞬。

 俺は海中に沈んでいく。


「(くそ、なんでだ……!)」


 俺は、強くなった。

 だけど……まだ、届かない。


 俺は海中に沈み、彼女は空の上。


「(俺とペンギーで、何が違う!)」


 ペンギーには空中戦が可能なスキルがあるから?

 違う、そうじゃ無い。

 もっと、根本的に……彼女に有って、俺に無いモノ。


「(自由)」


 彼女を思い浮かべた時に、真っ先にこの言葉が思いついた。

 山賊時代に、彼女から教わった戦い方の基礎、それは今も、俺の根底だ。

 

 一見、彼女の動きはメチャクチャをしている様に見える。

 だけど、それら全てを強さとして成立させているのは、膨大な基礎があればこそ。


「(俺は、もっと……自由にやって良いのか?)」


 基礎は、大切だが。

 あらゆる状況に対して、最適にデザインされている訳では、無い。

 其々の動きの意味と理由を考えて、場合に合わせて変えていく。


「(そうか……ペンギーにとって、あの動きは、そう言う事なんだ!)」


 考えろ、考えろ!

 絶体絶命だと思っていたこの状況。

 俺にはまだ、もっと沢山の選択肢があるはずだ!







「こっっっっのイカ野郎がぁぁぁぁあああ!」


 水しぶきをあげて、俺は海面を走る。


「ダグ!?」


 俺は、海中で推進力に使っていた魔道回路を回収した。

 それにロープと板を組み合わせて、即席の水上スキーの完成だ。


「うおりゃぁぁぁぁああああ!」


 クラーケンの真横を猛スピードで通り過ぎる。

 なせに、本来は五人分の船を動かす動力だ。


 タイミングを合わせてジャンプ、ハルバートを振るう。

 ガラスが割れる様な音が響き、スキルが発動した。

 クラーケンの胴体を大きく切り裂く。


「ペンギー!」


 この体は、俺が思っていたよりも、ずっと、ずっと自由だ。

 前世では当然の様に感じていた、認識と体の動きのズレが、全くない。

 思った動きが、思ったままにできる。


「え、ちょっ」


 ハルバートを大きく振って、反作用で位置を調整する。

 空中にいるペンギーへ手を伸ばした。


「リピート!」


 彼女の小さい手が、俺を掴む。

 そのまま、信じられない様な力で俺をさらに上空へ投げ飛ばす。


「残念だったな!」


 眼下に、独眼のクラーケンが見える。

 大上段に、ハルバートを構えた。


「俺は、無敵のダグラスだ!」


 落下の勢いを乗せて、クラーケンを縦に両断する。


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