ダグラス:起死回生
ズシン、と瓦礫を巻き上げながら巨体が横たわる。
「やれやれ、酷い目にあったね」
剣を鞘に戻し、サムが歩いてくる。
この猫獣人、すまし顔をしているが。
戦闘中はかなりエグい攻撃をしていた。
結果論ではあるが、酷い目にあったのは魔物の方だ。
「こいつが、ダンジョンのボスで良いの?」
ペンギーが、自分の大鉈の刃を確認しながら質問を投げかける。
それに、レジーナが答えた。
「多分、そうだと思うけど……」
パキリ、と。
乾いた破砕音が響く。
「……」
全員が嫌な予感を抱いて、キャッスル・スネイルの方へ視線を向けた。
「おい、おいつ……ふくらんで」
「みんな下がって!!!」
レジーナの声で全員がハッとして、駆け出す。
直後、後方で何かが弾けた。
「まずっ……!」
キャッスル・スネイルの体液が大量に撒き散らされ、中から大量のパレス・スネイルが飛び出してくる。
前世では、感染後に症状を止める方法は存在した。
だがそれには、高度な医療知識が必要だ。
ただの社畜だった俺には、そんな事はできない。
「ここから先は、通行止めだよ」
サムが振り返り、剣を抜く。
俺たちへ押し寄せていた水は彼女の前で止まっている。
まるで、何か壁に遮られている様だ。
「これは……」
俺たちに迫っていた体液が、円を描く様に塞き止められている。
「さっき見せた、僕のユニークスキルだ。だけど、長くは持たないよ」
どうする、どうする?
大量のパレス・スネイルはそれだけで脅威だ。
だが……一番大変なのはこの水だ。
俺たちは防水の準備をしてきている。
だが、腰まで浸かって、感染を免れるとは思えない。
「出口は……」
そう思って、周囲を見渡す。
遥か先だ。
「くっそ!」
頭の中を、これまでの記憶が駆け巡る。
一つだけ、逆転の可能性を見出す。
できるか解らないが、他に、何も思いつかない。
「レジーナ、何か地面に書ける物はないか?」
「あるよ!」
そう言って、レジーナが懐から何かを投げ渡してくる。
手にとって確認してみると、チョークの様な物の様だ。
道中、帰るための目印を書くのに使っていた。
「みんな、できるか分からないが、時間を稼いでくれ!!」
「わかった」
ペンギーが即答する。
「なに、不利な戦いは僕の十八番だよ」
そういって不適に笑うサム。
「信じてるよ、ダグラス君!」
ボウガンを構え、迎撃戦を始めたレジーナ。
「任せた!」
俺は皆から視線を外して、地面に向き合う。
チョークを走らせる。
戦いの音が、聞こえてくるが、今は仲間を信じる。
頼む、うまく行ってくれ!
「ダグラス、そろそろ……」
どれぐらい、戦っていただろうか。
サムから、切羽詰まった声が聞こえてくる。
「待たせた! 皆、この円の中に入って、魔力を流してくれ!」
押し寄せてくるパレス・スネイルと戦っていた全員が俺のもとに集まる。
同時に、魔物たちも俺たちへ押し寄せてきた。
これが失敗すれば、後はない。
「頼む、うまく行ってくれ!」
ハルバートを、地面に突き刺す。
同時に、全員で魔力を流し込んだ。
「ぷぃぃいいいいい!」
周囲から、ぷいぷいと悲鳴が上がる。
パレス・スネイルが悶え苦しんでいた。
同時に、周囲から大量の水蒸気が立ち込める。
「よし、うまく行っている! このまま続けるぞ!」
俺が作ったのは、簡単なヒーターの制御回路だ。
この間の顕微鏡で、わかった事だが。
魔力には電気と似た特性がある。
そして、魔道回路に書いた半導体記号もそれが示す通りの働きを見せる。
「えっダグラス君、どこでこんな大魔法を……?」
「いや、基礎的な魔道回路をやたら大きく書いて、全員の魔力量でゴリ押ししているだけだが?」
キャッスル・スネイルの体液が見る見るうちに蒸発していく。
サムが興味深そうに俺の書いたやっつけ回路を眺めていた。
「ここ、繋がってない様に見えるけど?」
彼女はそう言って、剣の先で回路図を示す。
「ああ、無接点リレーだな。別に接点リレーでも良かったんだが、こっちの方がすっきり書けるだろ」
「……?」
彼女がわずかに首を傾げる。
まるで、頭上にクエッションマークが見える様だ。
実際、電子回路なんて、知らない人が見れば魔法陣と大差無いよな。





