ダグラス:ボス戦
道中、俺たちは一列で狭い通路を進んでいた。
「止まって」
先頭を進むレジーナに短く告げて、立ち止まる。
松明を前方に投げると、巨大な蛇がこちらを見ていた。
「……どうする」
ここだと、ほとんど身動きが取れない。
一度、戻った方が良いか。
「ここは、僕に任せてくれよ」
「大丈夫なのか?」
「実は、こういう場所での戦いは得意なんだ」
サムの武器は、あの長細い剣だ。
狭い所での取り扱いは難しいと思うが。
「シュゥーー!」
蛇の魔物が、歯を剥き出しにして威嚇する。
次の瞬間。
ゴミがプレス機で潰される様な音が響く。
蛇の魔物は、ぐちゃぐちゃに潰されていた。
「まあ、こんなものかな?」
これをやったのは、サムだ。
状況的に見てそれは間違いない。
しかし彼女は、体を一切、動かさなかった。
「い、今の……なんだ?」
「ああ、僕のもう一つのユニークスキルだよ」
体を一切動かさず、相手をめちゃくちゃに潰すスキル?
怖すぎでは??
「なあ、それがあったなら、俺の時はどうして使わなかったんだ?」
革命の時、俺と彼女は敵対していた。
あれは、お互いに命を賭けた死力の一戦だったはずだ。
もし、このスキルを使われていたら俺に勝ち目はなかった。
「開けた場所だと、効果が薄いんだよ」
良かった。
グンテが愚帝で、本当に良かった。
もし、俺が彼を褒める点があるとしたら。
それは彼が愚帝であったという一点だろう。
俺たち四人は、ダンジョンの中を突き進む。
しばらくして、景観の良い泉にたどり着いた。
水深はかなり深いが、透明で底まで見渡せる。
松明の灯に照らされた泉は青く光り、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「面白い色をしているね?」
サムが興味を示して、口を開いた。
それに、ペンギーが同調する。
「こういう光景を見ると、冒険しているって感じがして、良い」
「……そうだな」
ペンギーと一緒に世界中を冒険しようと約束したのは、もう二年以上も前になるのか。
ずいぶん、待たせてしまったな。
「みんな、何か、来る!」
レジーナの声が、洞窟に反響する。
耳をすましてみると、泉の向こう側から、僅かに振動が伝わってきた。
それはやがて大きくなり、俺たちの前に姿を表す。
「で、でかい……!」
全長は、十メートルはあるだろうか。
鈍足であるはずの体を高速でウネらせ、城の形をした殻を背負った魔物が現れた。
「キャッスル・スネイル……!」
その姿を見上げて、サムが魔物の名称を呟く。
「ここはまずい、足場の広い場所まで逃げよう!」
俺を先頭に、急いで泉を後にした。
泉を抜け、広い空洞に出る。
「ぷいぷいぷいぷいぃいい!!」
可愛らしい泣き声が空洞に反響する。
入り口の壁を破壊しながら、キャッスル・スネイルが広場に入ってきた。
でたらめな大きさに、でたらめな強さだな。
常識的に考えれば、自重で潰れそうなモノだが。
これがメタモルの力か。
「ダグ」
ペンギーが俺に視線を送る。
おい、マジかよ。
「いっっけぇぇえええ!」
俺はハルバートを下段に構えて、大きく縦に振るう。
途中でペンギーがハルバートに飛び乗り、勢いに合わせて大きく飛び上がった。
「煉獄に鍛えられし虚の刃よ、この手に!」
魔物の背負う城へ飛び込んでいくペンギー。
空中での詠唱が、空洞に響き渡った。
「ぷい!」
キャッスル・スネイルの背負う城の殻から、小さな砲弾の様なものが放たれる。
「甘い!」
彼女は小さい体を大鉈の後ろに隠して、それを全て受け切る。
「がぁぁぁぁぁぁぁああああ!」
魔力によって拡張された刃が、キャッスル・スネイルの殻を大きく切り裂く。
「ぷいぃぃいいいいいい!」
「一気に畳み掛けるよ!」
「おう!」
「了解!」
サムが地面を駆ける。
「さあ……絶望を捧げておくれよ」
キャッスル・スネイルが振り回す頭部を正確に捉え、一閃。
頭部を大きく切り裂いた。
続けて、首から足にかけてを走り去りながら切り裂いていく。
「えいっ」
レジーナが、キャッスル・スネイルに塩の塊を投げつける。
堅実に、魔物へダメージを与えていく。
「がぁぁぁぁああああ!」
ペンギーは、キャッスル・スネイルの上で城を破壊している。
「レジーナ!」
「おっけー!」
キャッスル・スネイルが、レジーナへ大きく頭を振り下ろす。
彼女は直ぐにそれを察知して、さっと後ろへ後退した。
「これでどうだ!」
振り下ろされる頭部に合わせて、ハルバートをかちあげる。
「ぷいぃぃぃぃいいいいいいい!!」
キャッスル・スネイルが大きな悲鳴をあげる。
頭部を大きく天井へ伸ばし、やがて巨体が、傾く。
「ダグ」
上空から、ペンギーの声がした。
「おう」
俺が答えると、空からペンギーが落ちてくる。
親方! 空から女の子が!
なお、飛空石はないので、筋肉で受け止めた。
「ただいま」
「ああ、おかえり」





