ダグラス:現代知識で異世界無双
風が吹き、砂漠の砂を巻き上げる。
サムのスキルに対する俺の読みは、正解だった。
だが、それでも届かない。
「ユニークスキルが無くても、俺には勝てるって事か」
「残念だったね。策は、これでおしまいかな?」
「いいや、まだ……ある。最低最悪で、最強の策がな」
心の中に、まだ、逡巡している自分がいる。
覚悟を決めろ、ダグラス。
お前はもう、流されるだけの人生を止めるんだろ?
それは、誰かを否定して、破滅させて。
押し除ける覚悟をしたって事だ。
「サム、俺の仲間になれ」
「……君らしくも無いな。それは、さっき断ったはずだろう?」
まず、認めよう。
現時点で、俺はサムに勝てない。
それなら、どうするか。
俺が勝てるぐらいまで、彼女に弱くなってもらう。
「もう、解っているんだろう? 山賊育ちのただの子供が、たった一週間で革命を起こせると……本気で思っているのか?」
「……」
俺の言葉に、彼女は動きを止めた。
代わりに、鋭い目で俺を睨み付けてくる。
だが、構わない。
「俺は……転生者だ。前世の記憶を持っている」
「おい、まさか。や、やめろ!」
彼女も、俺の言おうとしている事を察したのだろう。
強い怒気の籠もった口調で、制止してくる。
それでも、俺はやめない。
「それも、この世界よりずっと文明の進んだ世界の記憶だ」
「き、君に! 僕の気持ちが解るか!? それ以上、口を開くんじゃ、無い。ぼ、僕は、もう、諦めたんだよ!!! 折れて、曲がって、歪んだ、”裏切り者”のサムだ!」
彼女が、俺を鬼気迫る表情で睨み付けてくる。
怒りに肩を大きく上下させ、鼻息も荒い。
俺は彼女の言葉に首をふって、続ける。
「サム、お前はまだ、諦めていない」
「違う! 僕はもう、疲れたんだ!!! 弱者から搾取して、贅沢な暮らしをする誘惑に勝てなかった!! もう、これ以上、僕に変な希望を見せてくれるな!!」
「ならお前は! どうしてそんなに辛そうな顔をしているんだ! 感情を押し殺した表情をしているんだ!」
「うるさいうるさい!! 黙れ!」
彼女は両手のククリ刀を落とすと、頭を抱えた。
そのまま、髪を無茶苦茶にかきむしる。
まだだ、まだ。
俺が勝つには、足りない。
「胸が、締め付けられる様だろう? それはな、お前の心が、まだ戦っているからだ。諦めたく無いと、言っているんだ」
「黙れ!!!」
こんな、こんな残酷な事があるだろうか。
故郷のため、故郷を捨て、人生を捨て、それでも解決できなかった問題。
どれだけ努力しても、叶えられなかった夢。
それを……無関係の、転生者を名乗る少年が突然、現れて。
ぱっと、前世の知識で簡単に解決するなんて。
これほど冷酷で、残酷で、そして残忍な仕打ち。
俺は他に、知らない。
さあ、言え。
「俺は「やめろ」」
「ゴブリン病の「やめてくれ」」
「原因を」
「だぁぁぁままぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇえええ”え”え”え”え”え”!!!!!!!!」
サムは地面に刺さったククリ刀を抜き放つと、俺に襲いかかる。
速い。
だが、来ると解って待ち構えていれば、受けられないことはない。
ハルバートを、かちあげる。
「がふっ」
甲高い、ガラスの破れる様な音が響いた。
俺のスキル”ペネトレイト”が発動して、彼女の武器を砕く。
そのまま、彼女の鎧を、体を引き裂き、上空へ打ち上げる。
「かはっ」
空中で何回転かして、彼女は地面に叩きつけられた。
「……」
ゆっくりと、彼女に近づく。
彼女は吐血しながら、口をパクパクとさせている。
やがて、か細い、声が聞こえてきた。
「こ、の……サ……、サディスト……」
「……」
俺には、彼女の言葉を否定する資格は無い。
「は……やく、、行け……よ」
「まだ、村の名前を聞いていない」
俺の言葉に、彼女は目をつぶる。
やがて、絞り出す様に呟いた。
「……カタン」
「ああ、解った」
彼女はそれだけいうと、安らかな顔になった。
それは、今まで見た、彼女のどの表情より。
優しくて、穏やかな表情だった。
「サム……!」
「うん? まだ何かあるのかい?」
そういうと、彼女はひょいっと上半身を起こした。
えぇ?
そう言うことができる傷じゃ無いと思うんだが。
「おい、大丈夫なのか?」
「はは、僕は”不沈”のサムだよ?」
「だが……」
「なに、ちょっと、休むだけさ。そう……ちょっとだけ」
彼女はそういうと、再び目を瞑る。
そして、砂漠に横たわった。
「サム」
「……」
もう、声をかけても。
彼女からは、返事がない。
ーー行こう。
よしよし、ちゃんと現代知識で異世界無双しているぞ





