ダグラス:革命と歌
■Side-ダグラス
「それで……次はどうする?」
ペンギーの部屋で、ブルーノが問いかける。
次、やらなければならない事は解っているが、難しい。
「……歌が必要だ」
俺の答えに、レジーナが小首を傾げる。
「歌?」
「ああ……大多数の人間にとって、闘技場の誓いの様な難しい話は、理解されない」
もちろん、あれは必要な行為だった。
国家を転覆するに当たって、その後の事を保証する必要がある。
それができないなら、それはただのテロにすぎない。
一度周りを見渡して、俺は続けた。
「革命を成功させるには、帝国中の心を一つにする必要がある。それを為すのは小難しい言葉ではなく……感情だ。そして、それを最も効率的に伝播させるのが芸術……特に、歌だ」
生前の世界でも。
歴史を動かす革命や戦争には、いつもそれを伝播させる音楽が存在していた。
俺の言葉に、ブルーノが困った顔で返す。
「しかし、革命の象徴とも言える様な歌い手なんて、この場には……」
ふと、そこで言葉を切る。
彼の視線は、ペンギーに注がれていた。
この革命の、発端。
闘技場を経済の中心とするスタアトの町で、今、一番有名な剣闘士。
そして、この、人を引きつける見た目。
これで歌えれば、適役だ。
「……」
ペンギーが、無言で顔を逸らす。
耳の動きが”乗り気ではない”と言っている。
”嫌”でも”できない”でもなく”乗り気ではない”だ。
「ペンギー」
俺が、彼女に声をかける。
すると彼女は一つ、ため息をついて続けた。
「一つだけ、条件がある」
「なんでも言ってくれ」
「私が前線に出たいって言ったら、いつでも、絶対に出して」
「わかった、約束する」
グンテの大金庫の展望台。
踊り子の衣装に身を包んだペンギーが現れた。
「ーーー♪」
大観衆の中、彼女の歌が響き渡る。
賛美歌の様に荘厳で、ジャズの様に自由で、軍歌の様に力強い。
強い心と、深い怒り、そして未来への希望。
この革命の性質を、決定付ける様な歌だ。
「……すごいね」
展望台の奥、外からは見えない位置。
レジーナが小声で声をかける。
「ああ、本当に」
ところで、ペンギーはどこで歌を覚えたんだろうか。
剣奴は歌も強制されるのか?
不思議だ。
グンテの大金庫を拠点に、数日を過ごす。
この勢いに乗って、他の地域でも蜂起の成功報告が上がってくる。
この事に危機感を覚えた各地の領主、貴族たちによる強烈な弾圧が活発化する。
それを受けて、市民が更に怒りを拡散させていく。
もう俺が何かしなくても、革命はなるだろう。
だけど、これを始めた者の責任として、きちんと終わらせなければならない。
「ダグラス」
「アーノルドさん」
会議室に、アーノルドが現れた。
彼は”希望の剣”のメンバーで戦鉄の加工ができる一流の鍛冶師だ。
「ペンギー嬢ちゃんの武器ができたぞ」
だけど、彼の表情は芳しくない。
まさに顔面蒼白といった様子だ。
仕事のしすぎだろうか。
「ありがとうございます!」
「いいや、礼はいい。これ、なんだが……」
彼はそういうと、長方形の木箱をテーブルの上に置いた。





