ペンギー:古くて、新しい力
ダグも、見に来てくれているのかな?
そう思って、周囲を見渡す。
ぞくり、と悪寒が走る。
「なんっ」
視界が急速に流れていく。
「がはっ」
地面に数度、バウンドして、やっと止まった。
エンシェント・トレントの樹脂から作った、ヘイストインナーが無かったら。
今ので意識まで持っていかれていたかもしれない。
「何と、流石は”不屈”のグレゴール!! 決まったかに思えた一撃を耐え切り、渾身のカウンターだ! ”鉄腕”が攻撃を受けるのは、これが初めてのことです!!」
まずい、痛い、どうして?
霞む視界、自分に必死でリカバディをかけながら、考える。
グレゴールの咆哮が聞こえる。
「うぁぁぁあああああ!」
全身から煙が立ち込めている。
そっか、彼、トロールが混ざってるんだ。
リカバディは、元々、トロールの呼吸を模倣したのが始まり。
本来、リカバディは即死の一撃が瀕死の重傷になるぐらいの効果しかない。
だけど、彼のそれは、その常識を大きく超えていた。
リカバディの天才と言っても良い。
「く……っこのっ」
彼もさっきの攻撃はかなり無理をしていたらしく、まだ動く様子は無い。
だけど、きっと、私が立ち上がるよりは早く復帰するだろう。
それに、私の大剣は粉々に砕けて、柄だけが残っている状態だ。
「あ……れ」
次第に、周囲から色彩が失われていく。
私はこれを、知っている。
やがて、チリ一つさえ動きを止めた。
地中から、女性の上半身が這い出てくる。
「やあ、はじめ「帰れ!!」」
私は、こいつを知っている。
いいや、こいつと同じ存在を知っている。
神だ。
「やれやれ、ずいぶん、嫌われているみたいだね?」
やがて、下半身も現れた。
上半身は女で、下半身は蛇、背中には翼が生えている。
たしか”貪欲”の神、ラミュロスだ。
「お前たち神は、人間の為と言いながら、結局、自分の思いを通す道具としてしか認識していない」
「あはは、それは、否定しないよ。君の前の持ち主……失礼、君が前に信仰していた騎士神ヒュダイが自己犠牲を是とした様にね」
ラミュロスは私の前にトグロを巻くと、続ける。
「率直に言うと、ヘッドハンティングに来たんだ。どう? 私の信者にならない?」
「やだ」
「なんで?」
「私は、自由に生きるって、決めたから」
私は、誓ったんだ。
自由に生きるって。
あんな、無責任存在の力なんて借りたく無い。
私は、やりたく無いことはやらない。
「ふーん。でも、自由にするには、しかるべき力が必要だ。違うかい?」
「違う。私は、私がやりたい様にやった結果として、今の場所、今の状況にいる。だから、それがどんなに辛く、厳しい道のりでも、私の自由はここにある」
「……そうか、それも、確かに自由の形かもね」
「解ったなら、帰ってよ」
「でもさ、本当は使える力を使わないでいるのは、不自由じゃないかい?」
私にもかつて、信仰していた神がいた。
その神は友愛とか弱者を助けるとか、そうすれば、皆、幸せになれると言った。
だけど、そうはならなかった!
私の死際は、後悔と、悲しさと、不安と、呪詛に満ち溢れていた。
あの神の力をもう一度使うなんて、絶対に嫌だ。
それをやった瞬間、私の自由が死ぬ。
「……だから、鞍替えしろって?」
「そうだ、悪い話じゃないだろ? 私は君の自由を何ひとつ、阻害しない。私が君に求めることはただひとつ、貪欲に、自由を貪ってくれ」
貪欲の神、ラミュロス。
秩序の派閥でもなければ、混沌の派閥でも無い。
まつろわぬ神々の一柱。
確かに、あいつの力でさえなければ、問題は無い。
利用されるのも、行動を強制されるのも嫌だけど。
私が利用するのは、ありだ。
「ラミュロスは生贄に子供を要求するって聞いたけど?」
「くれるならもらうけどね? 君の場合は、鞍替えしてくれるだけで十分だよ」
「ヒュダイへの当て付け?」
「それもあるけど、今の君は、とても私好みだ。前は、まるで興味が無かったけどね?」
私は、決めたじゃないか。
一割の天才……本物に、本物より価値がある偽物が存在することを叩きつけるって。
そのためには、何でも利用するって。
それが、たとえ神力であっても、同じことだ。
「その話、受けるよ」
「その言葉を待っていた!」
ラピュロスはそう言うと、大きく立ち上がった。
「鞍替えだから、恩恵は半分になっちゃうけど、ごめんね」
「知ってるから、いい」
空から光が差し込んで、私を照らす。
私に、新しい力が宿るのを感じた。
同時に、その使い方も理解する。
少しずつ、世界に色彩が戻っていく。
時間が、動き出した。
「水と風の名の下に、今、解き放て……アンリーシュ・ザ・ビースト!」
私の新しい、信仰系スキルは全部で五つ。
その一つ”アンリーシュ・ザ・ビースト”は緩い回復効果と強力な身体強化の力がある。
回復の方は、メタモルと変わらないぐらいだけど。
正直、このスキルを使うとハイになって傷とかどうでもよくなる。
「我が前に立ち塞がりし敵を吹き飛ばせ! テンペスト・サイクロン!!」
信仰系スキルそのニ。
掌に収束した魔力が、渦を巻いて放出される。
対戦相手のグレゴールを吹きとば……せていない。
距離による減衰が大きいね。
放出系なのに、近距離じゃないと意味がないとは。
「リピート!」
走って近づきながら、もう一回、テンペスト・サイクロンを放つ。
同じ技を短期間で使う場合は、詠唱が破棄できる。
プチテクニック。
グレゴールも大きいから、転倒させるまではいかない。
だけど、体勢は崩せた。
「煉獄に鍛えられし虚の刃よ、この手に!」
砕けた大剣の柄に、魔力でできた刃が形成される。
「これで!」
魔力の大剣を、振り上げる。
彼はそれを防ぐ様に、盾を咄嗟に前へ構えた。
「終わりだぁぁぁああああ!」
盾ごと、叩き切る!
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!」
今日だけ、特別のファンサービス。
私は、勝利の咆哮をあげた。
「〜で、あるからして〜が」
しばらくして、皇帝グンテが現れて、何やら難しい事を言っている。
記念品として白樺の剣をもらって、罰袋が斬られる。
風が、頬を撫でる。
日差しが、眩しい。
ダグ、待たせたね。
約束通り、一緒に冒険しよう。





