ペンギー:自由
■Side-ペンギー
「んっ……あっ、そこ」
薄暗い、部屋の中。
壁には香の入った袋がいくつもぶら下がっている。
熱された石が敷き詰められた部屋は、不思議な香りが充満していた。
「だっ。だめっ、、あっ」
悔しい。悔しいけど。
触れた場所から熱を持ち、快感が背中を登っていくのを感じる。
「声……我慢しなくても、良いんですよ?」
耳元で囁かれる甘美な誘惑に、心が折れそうになる。
「そんっな……んくっ」
何か反論しようと思うけど、艶やかな声が出そうになって飲み込む。
思考が、白く、白濁していく。
「も、もうっ……!」
うん。
岩盤浴とマッサージのコンボって悪魔的だね。
皇帝グンテって実は良い人だったりする?
大会に出場している間は、事実上、最上級の剣闘士として扱われる。
私も専用の施設に移動させられた。
この施設がね、もう、最強なの。
温泉にいつでも入れるし、試合の前後にはマッサージも受けられる。
ご飯も美味しい。
「さて、と、そろそろ準備しないとね」
専用の部屋に用意された、私の装備を身に纏う。
今日は、決勝戦だ。
無言でこちらを見ている誘導係に、声をかける。
「おまたせ」
彼はなぜか、続投なんだよね。
迂闊に環境を変えると暴れ出すかもしれないって理由らしい。
意味がわからない。
「さあ、長かった今大会も、遂に決勝戦です!」
司会の進行を聴きながら、ゲートが開くのをまつ。
「一年前……一人の、小さな罰袋が、この場に立つことを誰が想像したでしょうか? 罰袋という立場にありながら、その戦いぶりは自由そのもの! 今日も奇跡を見せてくれるのか! ”鉄腕”の罰袋!!!」
大歓声の中、今日もゲートが開く。
重い大剣を引きずって入場する。
もう、私を笑う人は誰もいなかった。
「いいぞー! 鉄腕!」
「俺たちに、伝説が生まれる瞬間を見せてくれー!」
”鉄腕”というのは、私の二つ名みたいなモノらしい。
なぜか、大会の二回戦目から呼ばれるようになった。
最近はファンも増えて、こういう声援をよくもらう。
私がステージに入ると、司会が対戦相手を紹介する。
「続きまして、大本命! 長い剣奴生活に、終止符を打てるのか? ”不屈”のグレゴール!!」
「あんなチビに負けるなよー!」
「捻り潰してやれー!」
大きな、大きな剣闘士がゲートを狭そうに潜って入ってくる。
そのゲート、私が通ってきたやつと同じサイズだと思うんだけど。
全長は、3メートルぐらいありそう。
多分、巨人の血も少し入っているのかな?
動きとか骨格が、ちょっとそっち系な気がする。
つまり、ただ大きいだけの人間よりずっと警戒が必要だってことだ。
「それでは、決勝戦……始めます!」
司会の宣言に合わせて、旗が下ろされる。
何でか分からないんだけど、二回戦からあの旗が合図になった。
「がぁぁぁぁぁぁぁあああぁあ!」
大剣を担いで、走り出す。
相手は、思っていたよりも冷静。
迂闊な攻撃は振ってこなさそう。
彼の注意が、大剣に集まっているのを感じる。
その判断は、正しい。
彼相手には、この大剣を使わない限り、ダメージは出せない。
その注意、利用させてもらう。
「がぁぁあああ!」
突撃の勢いを乗せて、前転をする様に大剣を放り投げる。
大剣は大回転しながら、一直線に彼の方へ飛んでいく。
「うあぁぁあああ!」
グレゴールは咆哮と共に、大きな盾で大剣を打ち上げる。
それと同時に、私へ攻撃するべく、駆け出した。
「うあ?」
だけど、私を見つけられずに周囲を見渡した。
「ここだよ」
上空で、グレゴールへ声をかける。
大剣を投げる事で、私は彼の意識から消えた。
その上で、大剣が弾きあげられる位置に、あらかじめ飛び上がっている。
「これでっ」
空中で大剣を掴み、渾身の力を込める。
この位置、この距離、このタイミング……。
この攻撃は、あたる。
「自由だぁぁぁぁぁぁあああ!」
「……」
眼前には、倒れて動かないグレゴール。
今日は、サービスしてあげよう。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」
私の勝どきに合わせて、司会が叫ぶ。
「鉄腕! 偶然か必然か! 奇跡の一撃だ!! ”不屈”のグレゴールは!! 動かず!!!」





