ダグラス:常道の怪物
■Side-ダグラス
天才リアルチート人型戦闘マシン幼女エルフ、ペンギーが訓練に加わって一年がたった。
俺にとって、この一年は非常に有意義だった。
伸び悩みを感じていた模擬戦も、ペンギーが参加してからは激変する。
彼女は行動で俺に技術を教え込んでくれる。
言うなれば、全自動弱点発券機だ。
俺の意識が足りていない所、変な癖何かを執拗に攻撃して教えてくれる。
俺は負けるたびに理由を考え、行動を直していく。
今ではペンギーの耳の動きを見るだけで彼女が何を言いたいかを理解できる程だ。
「……いつでも初めて良いぞ」
教育係の気怠げな声が聞こえる。
いつもの洞窟で、俺たちは対峙していた。
「ダグって、たまにそうやって考え事してるよね。なに考えてるの?」
対峙した彼女が、怪訝そうに聞いてくる。
今の彼女は、逆手に短剣、順手に剣という二刀流スタイルだ。
このスタイルが厄介で、いまだに攻略できていない。
隙あらば両手で別々のところを攻撃されて詰むし、迂闊に攻撃すると逆手の短剣に逸らされて、ほぼ同時に剣のカウンターをもらうことになる。
「思えば、長い一年だったと思ってな」
一つだけ、気になることがある。
ペンギーは読み合いを極度に嫌がっていた。
口には出さずに、行動で、絶対に読み合いを拒否する。
そして常に、勝ち続ける。
カッコよく言うなら、常道の怪物。
読み合いになれば勝てるとは言わないが、全敗の状況からは脱せられると思うんだが。
「おっさん臭い、それ、今、考えること?」
俺はハルバートを構えつつ、周囲に声をかけた。
「だっておまえら、なんでそんなに遠巻きなんだ?」
今日は乱戦の訓練だったはずだ。
断じて、ペンギーによる殺戮ショーでは無かったはずだ。
「そりゃ……だれだって怪物同士の戦いに巻き込まれたくはないだろう?」
「「いや、この怪物と一緒にしないで」」
まさかのところで声がかぶって、ペンギーの方に振り返る。
この一年間、圧倒的な実力で無敗を貫く常道の怪物が、まるで自分は一般人ですみたいな顔をしていた。
なんでじゃ。
「「!?」」
この後ペンギーはいつもの様に俺を倒して、そのまま他の全員も倒した。
これだからリアルチートは。
山賊の子供は基本的に洞窟の中で生活をしている。
だけど、自由時間に洞窟の周辺を散策するぐらいは許されていた。
最初は他の子供達と一緒にいたけど、前世で成人している俺には色々と辛い。
ペンギーは子供なのに落ち着いていて、一緒にいて苦にならない。
彼女と出会ってからは、自由時間はずっと一緒にいる。
「……で、あるからして、このままの行為を続けていれば、俺たちはいずれ外文化圏の報復によってしかるべき報いを受けることになると思うんだが」
俺の当面の目標は、この世界を自由に冒険する事だ。
その時に、ペンギーも一緒にいればきっと楽しくなる。
「……」
だけど、俺は外の世界を知らないことになっている。
その俺が、山賊団を抜けようと言うのは、おかしい。
だから、屁理屈をこねくり回して説得しているんだが、難しい。
いかに戦闘の天才ペンギーでも、理解してもらえない。
耳の動きもずっと”こいつなに言ってるんだ”って動きだ。
「ねえ、ダグ」
ふと、彼女が一点を指差す。
そこには、犬の様な足跡が散らばっていた。
山賊団でも、数匹の犬は飼っている。
「犬の足跡か?」
「……」
ペンギーは答えなかったが、耳が”No”と言っていた。
"Yes"と"No"はペンギー耳語の中でも簡単な部類だ。
ペンギー耳語検定一級の俺が言うのだから間違いない。
「危険なのか?」
「……大丈夫」
耳の動きは”No”と言っている。
まあ問題がないなら、わざわざ言及しないだろう。
「ペンギーはどうして、この足跡のことを知っているんだ?」
俺は犬の足跡かな、ぐらいにしか思わなかった。
彼女も俺と同じ環境で育ったなら、知識量は同じはずだ。
もし、これが何の足跡なのかわかるなら。
それは頭が良いとかセンスでは説明がつかない。
あり得ない思っていたが、彼女も転生者なのか?
「……ずっと前に、一緒に生活していたことがある」
ペンギーの耳は”Yes”を示した。
俺が彼女と出会ったのは一年前だ。
それまでの間に、そう言う期間があったんだろう。
やっぱり転生者なんて、そうそういるわけないよな。