レジーナ:胃が痛い
■Side-レジーナ
冒険者の宿、必殺のウサギ亭。
閉店間際にぬるいエールを、ちびちびと傾ける。
「レイジーナ、調子はどうだい?」
バネットさんが話しかけてくれた。
「今日、ダグラスって子にパーティに誘われたんですけど、どうしようかなって思いまして」
ダグラス。
ストーン級の、新米冒険者。
戦闘能力に関しては、新米の中では頭ひとつ抜けている。
だけど世の中の常識には疎くて、採取系の依頼が苦手。
ここまでは、調べた。
何事も、警戒するに越したことはない。
この町で獣人が冒険者をやるというのは、そういうことだ。
「……ふむ、よければ、あの子の面倒をみてくれるかい?」
ちょっと、珍しいな。
試してみよう。
「えー、私も大変なの、知ってるじゃないですか。贔屓ですか?」
「噂になっているのかい?」
「……いいえ、特には?」
そうなんだ、何でだろ。
「……あの子には、期待しているんだ」
「確かに、同年代に比べれば頭ひとつ抜けてますけど、あれぐらい、全体で見れば十把一絡げじゃないですか」
「同年代……ね。もし、面倒をみてくれるって言うなら、詳しい話をするけど?」
ここから先は、エール一杯じゃ許してくれないらしい。
冒険者の情報を管理するのも、バネットさんの仕事だ。
慎重になるのも、分かる。
「面倒をみるって、具体的にどれぐらい見れば良いんですか?」
半年ぐらいなら、良いけど。
大袈裟な話、一生とか言われると、辛い。
仮に、彼が有能なら私からお願いしたいくらいだ。
だけど、そうで無かったときに、地獄をみる事になる。
「最低でも、カッパー級に上がるまでだね」
彼は……調べた限りでは、戦闘ではそれなりにあてにできる。
私と一緒なら、三ヶ月もあればカッパー級に上がれるだろう。
「……わかりました」
バネットさんが、カウンターの裏から羊皮紙を取り出す。
さっと、私に手渡した。
「……じゅっんん!」
羊皮紙を確認して、思わず変な声がでた。
十把一絡げ?
何の冗談だ。
これは、このクラスとスキルは。
断じて、断じて十歳児が持っていて良いものではない。
「えっと……これ、その、早くないですか? なるの」
もらった羊皮紙をさっと返す。
私は、彼の身長と、新米という情報から。
勝手に、彼を十五歳ぐらいだと考えていた。
この子、今はちょっと有望な冒険者、ぐらいに収まってるけど。
順当に、普通の子が冒険者になる年齢まで待ったっら、超有料物件だ。
「私も、そう思う。だけど、何か事情があるみたいでね」
なるほど。
バネットさんの思惑が、少し見えてきた。
冒険者である以上、現時点でストーン級の彼を贔屓するわけにはいかない。
だけど実際には、将来有望な冒険者だ。
そこで、無駄に経験豊富で、冒険者ランクも高くなくて、獣人の私をサポートにつける。
周囲からは、贔屓した感じにはならない。
もしかしてこれ、私がカウンターにきた時からそのつもりだったのかな。
「よろしくね?」
バネットさんが、冷えたエールを追加する。
こんな笑顔でサービスしてくれるバネットさん、中々みない。
「が、がんばります……」
ああ、胃が痛いって、こう言う事を言うんだな。





