表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/108

ダグラス:現実が辛い

■Side-ダグラス


「君が大人しく降参すれば、この子の命は助かるよ?」


「ペンギー!」


 サムが、ペンギーの腹に足を乗せながら言う。

 思わず声をあげるが、返事はない。

 意識を失った様だ。


「分かった、降参するし、指示に従う! だから、ペンギーを助けてくれ」


「ああ、約束しよう」


 彼女は武器を納めると、指を鳴らす。

 その合図で、背後の騎士たちが動き出した。


「……悪いね」


 サムが、申し訳なさそうに俺へ声をかける。

 本来であれば、それは任務に必要無い行為だろう。


「そう思うなら、どうして!」


「仕事だからね」


 彼女に言われて、急速に頭が冷える。

 俺も、前世ではそれを言い訳に生きてきた。

 やりたく無い事をやらないといけない気持ちは、理解できる。


「……そう、か」

 




 


 あの後、俺は他の子供と合流して、馬車に乗せられた。

 ペンギーとは別行動だ。


「ペンギーは、どうなるんですか?」


 馬車の中で、監視役のサムに話しかける。

 この数日で分かったことがある。

 この騎士団で最も権限が強く、もっとも不真面目なのが、サムだ。


 彼女なら、雑談感覚で色々教えてくれないだろうか。


「ああ、いいよ。敬語なんて、僕は獣人だし、言ってしまえば、君たちの敵だからね。と言うか君、どうして敬語なんて知っているの?」


 サムが、小首を傾げて問いかける。

 これは迂闊だった。


「……」


「答えたくない、か。まあ良いや、僕の仕事じゃないし」


 どう答えようか考えていると、彼女は話を続けた。


「あれが、見えるかな」


 サムが視線を馬車の外に向ける。

 その先には、防壁に囲まれた町が見えた。


「罪人が乗る馬車はあの街で別れて、スタアトという町に行く。そこで、奴隷として売り払われる」


 サムは他の子にも聞こえる様に、少し声を大きくする。


「君たち、子供には二つの選択肢がある」


 彼女が指を一つ立てる。


「一つ、各地の孤児院に預けられて、成人するまでは、一応面倒を見てもらう」


 もう一つの指を立てる。


「二つ、各地の冒険者の宿に預けられて、冒険者を目指す」


「どうして、一緒に管理しないんだ?」


「山賊に育てられた子供だからね、まとめておくと、危険だろう? それに、こんな人数、いっぺんに受け入れられる所なんて無いよ」


「……なんというか」


 とても中途半端な制度だ。

 まるで、子供が考えた様にすら思う。


「ははは、君は色々と考える子みたいだね? 言いたいことは、なんとなく分かるよ」


 彼女は声を元の音量に戻す。


「人生の先輩として、良い事を教えてあげよう。世の中は、不合理で不条理な事で満ち溢れているんだよ。特に、この国ではね」


「サマンサ様、それ以上は」


 馬車を引いていた騎士から、控えめな声が聞こえる。


「ほら、こんな風にね。内心ではおかしいと思っていても、この国で重要なのは正しさではなく、誰が言ったか、なんだよ」


「この制度を考えたのは、誰なんだ?」


「バルバナット帝国、グンテ陛下だね」


 く、クレイジー!

 こいつ、騎士団で堂々と皇帝の批判していたのか。


「……大丈夫なのか」


「これぐらいの事を気にする耳があるなら、今の帝国は無いよ」


 その割に、周りの騎士は卒倒しそうになっているんだが。

 話を戻そう。


「ペンギーを助けるには、どうしたら良い?」


「ペンギー……ああ、あの子か。諦めた方が良いよ」


「どうして、だ」


「犯罪奴隷の扱いは、とても良い物とは言えないからね」


「俺は、なんとしてでも、ペンギーを助けたい」


 俺は、サムの目を見つめる。

 深い深い……深海の様な目だ。

 感情を、まるで感じない。


「……あまり、無駄な希望を抱かせたくは無いんだけどね」


 サムは困った表情で、俺の頭を撫でる。


「そこまでいうなら、制度上は、方法が無い訳でも無い」


「教えてくれ!」


「犯罪奴隷も、奴隷だからね、売買ができる。購入した奴隷をどう扱うかは所有者の自由だ」


「俺がペンギーを買い戻して、開放する?」


「理論上は、そうだね」


「何か、問題があるのか?」


「犯罪奴隷は、罰袋という特別な服を着せられる。顔と全身を覆うモノで、外から個人は特定できない。君が国中の罰袋からペンギーちゃんを見つけて、それを買い戻すだけのコネと資金を集めるのは……奇跡だ」


「……」


 何か、俺にできることは無いのか。

 頭の中をひっくり返して、使えそうな知識を探す。


 ……だめだ。

 何をしようにも、情報が少なすぎる。

 ペンギーは必ず助ける。

 だけど、今、俺にできることはない。


「……サムはどうして騎士になったんだ?」


 今は少しでも、情報が欲しい。


 改めて、彼女のことを観察してみる。

 凛々しさと可憐さが共存していて、頼れるお姉さんといった感じだ。

 まあ、こいつのせいで今の状況になっている訳だが。


「僕の村は長年、疫病が流行っていてね、嫌になって逃げ出したんだよ」


「それなら、冒険者でもよかったんじゃないか? あまり、この仕事に乗り気じゃ無いように見えるんだが」


「……」


 彼女が、優しい表情で俺を見つめ返してくる。

 ぞくり、と寒気が走った。


 殺気でもなければ、怒りでも無い。

 暗く、淀んで、沈殿する、何か。

 そんな感情の一端が、ちらり、と顔を覗かせる。


 だけど……その目が、なぜか。

 悲しいような、助けを求めるているような、そんな気がしたから。

 子供の立場を利用して、もう少し切り込んで見る。


「俺が生まれる前、俺の故郷でも疫病が流行っていたんだ。サムの村ではどんな疫病が流行っていたんだ?」


「ゴブリン病と言ってね、四肢が痩せ細り、お腹が出て、ゴブリンみたいになって、死んでいく」


「回復魔法で直せないのか?」


「この国では、回復魔法は貴重なんだよ。それに、やってみたけどダメだった。むしろ、悪化したんだ」


「一体、何が原因なんだ?」


「分からない。土地なのか、水なのか、人なのか、何も、何も分からなかった」


 彼女の言葉を聞いて、一つだけ、思い当たる物があった。

 だけど、それが事実なら、それは、あまりに残酷な事実だ。

 安易に告げて良い言葉では無い。


「……ごめんなさい」


 彼女は村を逃げ出したと言った。

 だけど、彼女の語る言葉は当事者目線だ。


「良いんだ、そうやって気遣ってくれるだけで」


 彼女はそういうと、俺の頭を撫でた。

 冒険者ではできなくて、騎士ならできること。

 例えば、村の移転とか、環境改善とか。

 そんなことを考える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ