とある双子の記憶──「『私』」が〈私〉になるまで──
間に……合わなかった……!
いい双子の日予定だった作品です
内容が迷子なので色々と覚悟お願いします
私たち双子は絶望的なまでに似ていない
いわゆる二卵性双生児というものらしいが、それにしたって姉妹なのだから少しくらい似ていてもいいと思う
私は母の生き写しと呼ばれ、妹は父の妹の生き写しと言われている
幸いなのは、母や叔母含めて一般的に美少女と呼ばれる部類に入る事だろう
「お姉ちゃんまた私のプリン勝手に食べた?!」
「あんないかにも『食べてください』みたいな場所にフタ開けて放置するのが悪い」
「ひっどぉっ!?ちょっと5分席外してただけじゃん!ちゃんとあのプリン買って返してよね!」
「イヤよめんどくさい。何度も言うけど放置するのが悪い、妹なんだから我慢しなさい」
「そこは本来『お姉ちゃんなんだから』が入る場所じゃない?!そうやってたまに私のもの勝手に食べたり物持っていったりするのやめて!」
「ふふふ、やめさせられるものならやってみなさい?」
「えぇ……」
そんな私達だが、数少ない共通しているものがある。それは運動能力だ。
昔から2人とも走ることが大好きで、通学路は2人でよく競走したりしていた。
「ふっ、今日は私の勝ちね」
「まぁまだ私勝ち越してるから今日のジュースは貰うけど」
「あと一回で同数だから明後日以降は貴方の奢りね」
「え、もうそんなに縮まってた!?今勝敗どんな感じだっけ?」
「13526勝13527敗で貴方優勢ね」
「いつも思うけどよくそんなの憶えてるよね、そこはほんとに尊敬するわ」
「実はこれテキトー言ってるのよね、憶えているのは勝ち越し負け越しの数だけよ。それ以外はそれっぽい数字言ってるだけね、なんならたまに数減ってるけど気づいてなかったの?」
「うそぉ……全く気づかなかった」
性格も全く違うから「本当に姉妹?」と言われる事は多かったけど全然気にならなかった
「あんたら双子どころか姉妹なのかすら怪しいレベルだよね……」
「ハァ?どっからどう見ても姉妹でしょ!ね、お姉ちゃん!」
「そうね、どうやら目の中が空洞みたいだから抉れないし、代わりにその邪魔な胸袋を妹の諸共毟りとってあげましょうか?」
「待って、ついでとばかりに私の胸まで毟ろうとしないでお姉ちゃん?!」
「姉より優れた妹はいない。姉より大きい胸がある限り、私は必ず貴方の乳を毟ってみせる」
「私は普通サイズだ!むしろお姉ちゃんがなさすぎるだけよ!せめてAAAカップ抜けてから言ってよ!」
「貴方言ってはならぬことを!」
「……訂正するわ、この仲の良さは姉妹ね」
ちなみに妹はBらしい。絶対握り潰してやる!
「お姉ちゃん……」
「ん?どうしたの?」
「……なんか嫌な夢見た。お姉ちゃんは私とずっと一緒だよね?」
「当たり前……とは言えないわよね、大人になったら同じ職場とも限らないし、それこそ結婚したら離れ離れになるでしょうし」
「そこはずっと一緒よ、とか言ってよ……」
「私根拠の無いことは言いたくないの」
「結構言ってるじゃん…」
「私は忘れたから関係ないわね」
「なにそれ……んぅ……すぅ…………」
「寝たわね、おやすみなさい」
それでも、大人になるまでは一緒にいられると、根拠もないのに思っていた。なのに……
突然トラックが歩道に突っ込んできた。今思えば居眠りから醒めて慌ててたんだろう。とても慌てた運転手の顔が明確に思い出せる
「お姉ちゃん!逃げてぇ!」
「へ?ちょ、危なぁ!?」
妹が先に気づいて押し倒す感じで一緒に転がったお陰でギリギリ回避出来たけど勢いよく転がった私は少しの間意識を飛ばしていた
………………なんだろう、ギリギリ避けれたはずなのに、妙にお腹が熱い。
身体をよじって起き上がろうとしたら激痛が走る。痛みを堪えて見てみると、折り重なる私達の丁度下腹部辺りが抉れていた。
どうやら、隣に血の付いた標識があるのを見るに、歩道に突っ込んだトラックが標識を飛ばして、それが回避した私達の所に飛んできたらしい。どんなミラクルだよ、いらないよ、回避した意味ないじゃん
お腹の辺りに少しピンク色が見えたけど今は見ないフリをする。周囲に広がる血を見る限り、救急車が間に合うとはとても思えない
段々と戻り始める痛みを感じつつ、妹の方を確認するが、彼女は既にこちらを向いていた
「ゴ、メンねぇ……お姉、ちゃん……押し倒、してまでやったのに……結局、助けられ、なかった……ゴフッ!」
「バカ、ねぇ……一人、でも……逃げれば、よかったのに……」
「あは、は……お姉ちゃん、それ無理だって……わかって、るくせに……」
「そう、ね…それにして、も、生まれる時どころか、死ぬ時まで、一緒とはね……」
「私、はそこは嬉しい、かな……?」
「私もよ…………ケホッ!」
痛みに紛れて少しずつ「自分」が流れていくのを感じる……これが魂かしら?
それなら一緒に流れてるであろう妹と溶けて混ざらないかしら……なんとなくだけど、ずっと『一緒』になりたいと感じていた……『同じ』なのに違う器に入れられてる違和感をずっと感じていたから……
「アハ……これお姉ちゃんかな……あったかい……なぁ……」
「ふふ……優しい感覚……これが貴方の魂なのね……」
あぁ……願わくば次の生では私達を違えないで、ずっと一緒にいさせてください……
《その願い、私が責任もって叶えてあげよう!》
……え?今の声……だれ?
『わ、いきなり何!?』
……なぜここで妹の声が聴こえたのかしら?しかも割と元気そうな。致命傷だったはず……
ここで私は、もう痛みを感じない事、そして周りの風景が消滅して、ただ白い空間が広がっていることに気づいた
『お姉ちゃん!?何処にいるの?無事なの?』
「ここ……と言ってもわからないわね、無事よ。貴方は?」
『私も無事……なのかな?あの後からの記憶ないし。傷跡は……え?身体どこ?』
言われて思った。そうだ、痛みどころか手足の感覚がない。瞬きも、身体を動かす感覚もない。前後左右上下を認識できる。なんだこれは?!と混乱していると
《そりゃあ今君達は魂な訳で、身体なんてある訳ないでしょ。ついでに言うなら君達は同じ魂として融合してるから、探しても見つからないよ?っと自己紹介がまだだったね。僕は■■■■■■。っと発音出来ないかな?君達が輪廻転生と呼ぶ概念そのものさ》
……輪廻転生?概念?理解を拒否したい。でも、そんなことより
「妹は……私の中にいるのね?」
《違うね、それっぽく言えば君は妹ちゃんの中にいるし、妹ちゃんは君の中にいる。どちらとも言えるし、どちらとも言えない。同じ存在を区別する必要を感じないね》
『ということはもしかして私の願いを叶えてくれたって事?』
「願い?」
『死ぬ直前にお願いしたの。【どうかお姉ちゃんと来世も死ぬまで一緒でありますように】って。まさか魂ごととは思わなかったけど』
「私も同じ様な事考えたわね……」
《うん、私の事情と君達の願いを聞いて、丁度良いからこういう形にさせて貰ったよ》
「『事情?』」
《そうそう、実は君達の生前に感じてた通り、君達は元々一つの魂だったんだよ。それを綺麗に二分割して別々の身体に押し込んだら惹かれ合うのだろうか……って魂の実験だったんだけど、まさか生まれる前に強烈に引かれて双子になるとは……君達の魂の繋がりを舐めてたよね、正直。》
「私達……やっぱりあの違和感を貴方も感じていたのね」
『うん!昔は肉体が邪魔だと思うくらい感じてたね!』
「結構強くないかしらそれ……まぁ貴方割と本能で生きてる節あったし有り得る事かしら?」
《まあそんなわけで、君達が死んだらまたくっつけて転生させる予定だったんだけど、これまた予想外で、二つに分かれた魂は元の形に治るように修復されていったんだ。妹ちゃんが「昔は」と表現したのもそういうことだね。》
《そんなわけで、くっつけるのは同じ魂だから出来るんだけど、大きくなり過ぎる状況だったんだ。》
《大きくなり過ぎた部分を切り離してしまえばいつも心に穴が空いたような無気力になってしまう。だからといって別の魂としてしまえばこのままこの魂同士以外の関係を全て壊してまで一緒に居ようとする程の強い感情となってしまう。そんな時に君達が死にかけの時の願いだ。》
《【ずっと一緒に居たい】》
《君達の大きくなり過ぎた魂をそのままくっつける。その際に君達の記憶をそのままにしておくことで魂への無意識の負担を減らしつつ【魂の正しい形】へと君達の人生で少しずつ馴染ませながら小さく形を整えてさせていくのさ》
《まぁ色々難しい事言ったけど君達に関係あるのは、『次の人生は同じ身体で過ごしたまえ』。これだけだね》
『私はずっとお姉ちゃんと一緒ならずっと幸せ!もう何でもいいよ!』
「色々と突っ込みたい所はあるけど……次は一緒に居れるなら、それ以外の文句は全て消し飛ぶわね」
勝手な事情で魂二分割にされたりくっつけられたりなんて腹立つけど、これが私達の一番幸せな結末だというのなら、全部許せる気がしてくる辺り、妹の楽観性が少しだけ感染ってるのかしら?
《……はぁ、なんだろうこの姉妹。僕はここで怒鳴られるの覚悟で立ってたんだけど……姉妹愛強すぎない?》
「『だって長年の夢が叶った訳だし』」
《ハハハ、息ピッタリだね》
《これから君達が行くのは所謂剣と魔法の世界というやつだ。使い古しみたいな感じで悪いけどね、転生先は大きな街の平民だから自分から動かなければ、怖い思いもせずにまあまあ幸せな人生を送れるはずさ》
『私としては魔法とかたっくさん使ってみたいかな?』
「奇遇ね、私もよ。……戦闘はしたくないけど」
《魂が馴染んできたら、君達の意見もほぼ同じになってくるだろうし、声も少しずつ聞こえなくなってくるだろう。それは完全に同じになる事だから、きっと寂しさはないはずだから安心して》
《ついでに言うなら魔力も魂の修復に合わせて大きくなるよ。一度傷つい。た魂はより強靭となって魔力として君達を守るだろう》
《……いや、もう『君達』は相応しくないかもしれないな。……『君』の人生に幸多からんことを!いってらっしゃい!》
「『いってくるわ(きます)!』」
世界が強い光に包まれ、意識が遠くなりながらも思う
……普通なら自分以外が人生に干渉して、あまつさえ人格さえも侵食してくるのは普通なら恐ろしいことなのだろう。なのに今〈私〉は全然怖くない。それどころか混ざりあって一緒になるなんて最高の気分だ。何せ相手は■だ。混ざりあっていく。「『私』」が〈私〉になっていく……ずっと待ち望んでいた感覚だ。とても心地よい。
転生先では何をしよう?平民なら家業を継いでもいいし、冒険者とかあるならそんなのでもいいな
…………あぁ、楽しみだな
──光の中、祝福が弾ける音がした
読了ありがとうございました