第七話 勝利の余韻
まぶたが異常に重かった。高熱を出した時のような体の怠さ。動きたくない。そうは思いながらもここでずっと寝ているわけにもいかないとも思う。何日寝たのかわからない。
このまま寝続けたい気持ちを心の奥底にしまって、動き始める。自分の体に傷が一つもついていないことに驚いた。服はボロボロだが、その下の体にはなんのダメージもない。あの瞬間に聞こえた声を思い出す。考えるのがめんどくせぇ。そいつのせいにしておこう。
お腹がひどく減っていることを自覚した。周囲の狼魔物たちが腐らずに残っていた。たいした時間は寝ていないのかもしれない。俺は狼を切り分けた。この世は弱肉強食。こいつらに勝った俺はこいつらを食う権利があるし、義務がある。だが全部を食うことはできない。
二体だけ解体して、あとは放っておいた。ここは森の中だ。誰かが食うだろう。切り分けた二体の肉を焼くことも調理することもせずにかっくらう。血の味がした。生臭い香りがした。生きていた証を食っているのだと感じた。初めてしっかり自分は生きていると確認した。口の周りが多分汚くなっているがそんなことは気にしない。そんなふうに気にすることがなんか殺した彼らに対する冒涜のような気がした。今はこいつらを食うことに集中するべきと感じた。それが礼儀なような気がした。
ケプリとゲップを一つする。
「ご馳走様でした」
俺は彼らの生きた証を食った。俺を殺そうとした奴らだが俺の生きる糧になっていることに不思議な感慨を覚えた。
「よし」
俺はその場を後にした。腰には刀とナイフ。装備は何一つ変わっていない。けれどなんだか心強く感じた。
感覚が研ぎ澄まされているのを自覚した。取得したスキル?のおかげだろうか。たびたび俺がピンチになると聞こえるあの声は誰の声なのだろうか。神なのかはたまたこの世界の管理者なのか。全くわからないがでもおそらくは何かしらの恩恵を俺に与えてくれているのだろう。現に異常に俺は感覚が研ぎ澄まされている。普通ならそんなスキルみたいな非現実的な存在は鼻で笑ってしまうだろうが、これに何度も助けられているし、自分の実力の向上がはっきりと自覚できるため信じざるを得ない。
スキル『周辺探査』はなんとなく今のこの感覚の鋭敏さに関係するものだとわかるが、『キュウソネコカミ』はなんなのか。回復する何かなのだろうか。称号と言っていたがどういうことなのか。全くわかんない。わかんないからそのままにしておいた。
現状わかっている『周辺探査』を調べようと思った。俺は目を瞑る。周囲の状況をできるだけ限界まで調べようと意識した。自分を中心とした球が広がっていくのがわかった。その球の中にあるものの情報は全てが分かった。材質から形までありとあらゆる情報が頭の中に入ってきた。集中していないときにはそんな情報は入ってこなかったので、集中していないと全ての情報は得られないのだろう。感覚的には普通の状態では形と位置しかわからない。
俺は集中をといた。そうすると球の密度が減るのが分かった。そして段々に形しかわからなかくなっていった。
「便利だなこれ」
心の底から思った。俺が攻撃された原因のほとんどは索敵不足によるものだ。その弱点を完璧に補えたことになる。
だが最も問題である弱点が改善していない。攻撃力だ。筋力がない俺は刀をうまく振ることができない。スピードがなければ相手に当てることもできない。狼魔物はうまく倒すことができたがこの攻撃力じゃあの熊は倒せないだろう。