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第五話 修行

 俺はその日から素振りしかさせてもらえなかった。こんな言い方をすると俺が嫌がっているように聞こえるかもしれないが、実際はそんなことはない。ブナとの模擬戦で今の自分の実力が分かったし、今の自分に圧倒的に足りないものは筋力であることも判明している。幼い俺に筋力がつくとも思えないが、成長がなんとかしてくれるだろう。


「九百九十…九百九十一…」


 一ヶ月振り続けたようやく千を超えられるようになってきた。一日たりとも素振りは欠かさなかった。苦しい時もあったが、その度にアイの顔がチラついた。俺がふがいないせいで苦労をしいてしまった彼女に申し訳が立たないと思った。魔法が使えない俺にはもう剣しか残っていない。


 意外な事実ではあったのだが魔族は魔法が使えない。もちろん使えるものもいるのだが、その数は限られている。だからこそ人類は優位性を保てていたのだと思った。


 その代わり魔族は類稀なる運動能力を持つ、筋力をはじめとした瞬発力などの能力が非常に高い。人間などと比べるべくもない。


 だから俺は今のところ無能なのだ。魔法も使えない。身体能力も魔族には勝てない。なんの取り柄もないのだ。そんな焦りも俺の背中を押している。自分が成長しているのは分かっているのだが、それでも魔族の身体能力には勝てない。人間の一般的な成人男性ですら魔族の子供に筋力で勝てない。それほどまでの圧倒的な差が人間と魔族の間にあるのだ。


「やっとまともに振れるようになってきたな」


 一ヶ月たったその日にやっとブナからそう声をかけられた。にやけそうになるのを必死に押さえながら言い返す。


「そりゃどうも」

「ほんじゃそろそろ実戦と行くか」

「ホント?!」


 心が躍った。ついに自分の実力を試せる機会にありつけた。圧倒的な力を有しているとは思わないけど、それでも互角くらいには戦えると思った。


「おう、ついてこい」


 スタスタと俺の返事を待たずにブナは歩き出す。俺は駆け足でその後ろについていく。



「ここだ」


 ブナが指し示す方向には森があった。わさわさと木が繁っていて、見通しはひどく悪い。ここに魔物がいるのか。少しワクワクしてきた。


「お前は一ヶ月ここで一人で生きろ」

 

は?


「待てよ!今の俺じゃ、一対一が限界だ!すぐ食われて死んじまう」


「おおなんだ分かってるじゃねぇか。その通りだ。依然としてお前は弱い。だからこそ修行してこい。食料の取り方とか寝方はもう全部教えたから大丈夫だろ。俺はここにいるから、ギブアップしたくなったら出てこい」


ブナはどっかりとそこに居座って、野宿の準備をし始めた。


「まあちなみに一ヶ月立たずに出てきたら、俺はお前を見限るからな」


 ブナはこういうところには厳しい。後ここで駄々を捏ねても無駄なことはこの一ヶ月共に暮らしていて、分かっているし、何より俺の趣味じゃなかった。


「分かったよ。やってやる」

「おう。アドバイスとしては見えないものを見ようとするってことだな」


 今の俺にはまったく何を言っているのかわからなかった。恐怖と興味の板挟みに会いながら、俺の鼓動はその速さを早めていた。




 サワサワと風が木を揺らす音がする。鬱蒼と茂った木々は日の光を遮り、さらに一層この場を暗くしている。至る所でカサリカサリと音がするが、それが風によるものなのか動物によるものなのかはたまた魔物によるものなのかわからず、俺は神経をすり減らす。


 一時間ほど歩いたろうか。景色はほとんど変わらない。俺はどかりと腰を下ろす。


「まず水場を見つけないとな」


 水がまず必要だ。水は生きとしいけるもの全てが必要とする資源のため周囲には多くの動物や魔物がいる。その分危険だが俺も生きるためには必要なのだ。確保しておかなければならない。


 今の所持品は刀が一本と、ナイフが一本。それ以外には何もない。この森で俺は今から一ヶ月サバイバルをしなければならない。その事実を再認識し、ため息を一つつく。


 食糧や寝床の心配はない。作り方は教わった。だが対魔物となると話は別だ。まだ俺には経験がないし、おそらく俺はまだ魔物より弱い。奴らと会わないようにしなければならない。


前途多難だ。


 そろそろ休憩を終了して、次に行こう。腰をあげようとすると顔にムワっと生暖かく、生臭い空気の匂いがした。俺は顔を全力で逸らした。そうしないと死ぬ気がした。理性で判断したのではない。本能がこうしろと俺に警鐘を鳴らした。事実それは功を奏した。素早く身を翻して、状況を確認した。


狼が立っていた。


 いやこの雰囲気は狼型の魔物だ。偶然にも一体のみだ。これはチャンスだ。自分が今どれだけできるのか確認できる。俺は刀を抜いた。一ヶ月振り続けた刀は俺の手にしっくりと馴染んでいた。


 魔物は警戒して、飛び込んでこない。睨み合いが続く。焦ったい。俺はブナから盗み取ったあの移動方法を使った。どうやら縮地と呼ぶらしい。瞬間的に魔物が目の前に現れたような錯覚に陥る。実際は俺が近づいたのだが。魔物は対応できていないように見えた。やはり所詮は獣。大したことはない。もらった。俺は刀を横なぎに振るった。


 俺の思惑とは違って、その斬撃は魔物を捕らえることはなかった。魔物は紙一重でその攻撃を避け、警戒したのか距離をとった。


 おかしい。当たったと思ったのに。ふとブナの言葉を思い出す。

「お前は筋力が足りんから、斬撃にスピードがない。だから素振っとけ」


 あの時も確かにとは思ったのだが、今なら実感を伴って理解することができる。俺の斬撃にはスピードが足りない。体捌きは俺の方が上だ。かなり熟達していると思う。俺の動きにあの魔物はついてこれていなかった。だがそれに比べて剣のスピードが遅いのだ。あの魔物も俺の刀の動きはじめをしっかり見てから避けたのだ。これでは止めを指すことができない。


 解決策はびっくりするほどまったく思い浮かばない。筋力をあげればいいのだがこの状況を打開できる名案では無い。


 魔物は待ってはくれなかった。飛びかかってくる。俺はブナの体捌きの真似をする。あの流麗な体捌きだ。流れるように魔物の攻撃を紙一重で避け、カウンターの一撃を喰らわそうとする。だがどうしてもスピードが遅い。魔物は態勢を立て直し避ける。


 その応酬が続いた。どちらも決め手にかけた。


 肩で息をする。向こうも息が上がっている。集中力を欠いた方が負ける。そう思った。だがそんな攻防に飽きたのだろうか。不意に魔物が背を向け、逃げ出した。


 俺は追うことをしなかった。追ったところでなんの意味もないし、今の俺は消耗していた。俺はどさりと倒れ込む。


やはり前途多難だ。

割と見ていただけているのにポイントがつかないのはやはり面白くないからでしょうか。そんな不安な思いがつきまとう午前十時。何かしらアクションがあると、私は嬉しい限りです。

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